カンパニー・メン

4人のアカデミー賞受賞俳優たちが共演
失業したビジネスマンの苦悶や家族との絆を描く
失望から再生へ、人々の心情を描くヒューマンドラマ

  • 2011/08/26
  • イベント
  • シネマ
カンパニー・メン© 2010-JOHN WELLS PRODUCTIONS

ベン・アフレック、トミー・リー・ジョーンズ、クリス・クーパー、ケヴィン・コスナーのオスカー俳優たちが、書き下ろしの脚本に惹かれて共演。製作・監督・脚本は本作が長編映画デビュー作であり、アメリカの人気TVシリーズ『ER 緊急救命室』『ザ・ホワイトハウス』などを手がけるジョン・ウェルズ。不況により一流企業を突然リストラされたビジネスマンたちの苦悶と気骨、家族との結びつきを描く。シビアな現実に希望を見出すさまを描く、実直なヒューマンドラマである。

ボストンに本社をおく総合企業GTXの販売部長であるボビーは37歳。12年勤務して年収12万ドル、家族と暮らす大きな家から愛車のポルシェで通勤する充実の生活は、突然のリストラにより一変。12週間分の解雇手当が支給され、新しい仕事を見つけるべく就職支援センターに通う毎日に。専業主婦の妻マギーが「家を売って私もパートにでれば…」と提案しても、エリート意識で見栄をはるボビーは拒否。ボビーの再就職が一向に決まらない中、GTXでは社員のリストラ3000人の次に5000人が敢行され、ボビーの元上司や元同僚もそれぞれに苦悩を抱えていた。

2007年にサブプライムローン問題によって住宅バブルが崩壊し、2008年にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻。このリーマン・ショックによって追い込まれたアメリカの企業、煩悶するビジネスマンと家族たち、数100億円の自分の年収を守る経営陣……追い込まれた状況で、個々の人としての在り方がむきだしになってゆく。

トミー・リー・ジョーンズ、ベン・アフレック

リストラされたボビー役はアフレックが、人間味ある表現で。もともと気取らないマッチョな雰囲気もあるので、エリート意識が高く“肉体労働の似合わない”ホワイトカラーのキャラクターにハマりきらないところがちょっと面白い。GTXの重役ジーン役は、日本では缶コーヒーのCMでおなじみのジョーンズが、情に厚い昔気質の男をどっしりと演じている。リストラに戦々恐々の社員フィル役にクーパー、ボビーの妻の兄で工務店を営むジャック役にコスナー、GTXのリストラを担当するやり手のビジネスウーマン、サリー役にドラマや舞台で活躍するマリア・ベロ、ボビーを支えるしっかり者の妻マギー役は、’08年の映画『レイチェルの結婚』のローズマリー・デヴィットが自然体で、それぞれ個性を生かして演じている。

ウェルズ監督は本作で長編映画デビュー。1980年代後半からTVを中心にキャリアを積み、『サード・ウォッチ/NY事件ファイル』『サウスランド』などの製作・監督・脚本を手がけ、これまでプロデュースした番組は55のエミー賞を受賞するなど受賞歴も多数とのこと。映画では’02年の『エデンより彼方に』や’07年の『いとしい人』などの製作も。本作では、17年前に書きかけたストーリーを下敷きに脚本を執筆したそう。経済不況の混乱を描くというよりも、シビアな状況下で変化してゆく個々の内面や人間関係にフォーカスして描かれている。監督は語る。「失業のパニック状態が一段楽した後でわかることがある。それは、どんな車をもっているかではなく、家族や苦境を支えてくれた人々とどれだけ多くの時間を過ごせるか、というほうを、自分が気にかけているということだ」。

ベン・アフレック、ローズマリー・デウィット

アメリカではリストラが通告された場合、数時間以内に私物をまとめて会社を去らなくてはならないとのこと。取引先や同僚にゆっくり挨拶する時間はなく、パソコン内のメールアドレスや電話番号も持ち出せず、長年勤めた場所からとにかく時間内に去るしかないという状況は、容易には想像しがたいものがある。だからこそ外資系に勤務する場合は年俸の高い組織へドライに渡り歩くというスタンスがあり、競争意識が高められ人々が切磋琢磨されていくという仕組みがあるのだろうが。本作の冒頭のシーンでは、ダンボールに荷物をまとめ、駐車場にとめた車の前でほかのリストラ組を呆然と眺めやるボビーの姿がわびしい。

トミー・リー・ジョーンズ、クリス・クーパー

ウェルズ監督の掲げる本作のテーマは、「我々の人生を価値あるものにしているものと、いかに再びつながりをもつか」。エンターテインメントとしてわかりやすいはなやかさや、胸をすくような爽快感があるわけではないが、誠実な思いを伝える仕上がりとなっている。おすすめするならばカンパニー・メン通り、日本ならサラリーマン、経済の良いときと悪い時の両方を経験している30代後半以上の世代の男性に響く内容かもしれない。’90年代以降、全米の上位5位以内の企業トップは年間100億円以上を稼ぐという極端な巨額報酬のこと、社員を数千人リストラしても新社屋を温存したり、経営者の妻は社用機で買物に出かけようとしたりする、現代アメリカの大企業にあるだろう状況。こうした現状に対する主張が、本作のラストに描かれている。最後に、監督からのメッセージを。「少年時代に大工のアルバイトをした時、年上の大工さんたちが、自分がどの家を建てたかを教えてくれたものだ。彼らは、長年の仕事によって培われた強い肉体と誇れるものをもっていた。『俺がこれを作った』と言えるパワーをもっていた。それこそが、ニュー・エコノミーの時代に生きる我々が忘れかけているものなんだ」。

作品データ

カンパニー・メン
公開 2011年9月23日公開
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:44
配給 日活
原題 THE COMPANY MEN
製作・監督・脚本 ジョン・ウェルズ
出演 ベン・アフレック
トミー・リー・ジョーンズ
クリス・クーパー
ケヴィン・コスナー
ローズマリー・デヴィット
マリア・ベロ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。