親愛なるきみへ

ニコラス・スパークス原作×ラッセ・ハルストレム監督
運命的な恋や葛藤、家族や友人との結びつきを描く
ノスタルジックな映像が心地よいラブロマンス

  • 2011/09/02
  • イベント
  • シネマ
親愛なるきみへ© 2010 DEAR JOHN, LLC. All rights reserved.

映画『きみに読む物語』『メッセージ・イン・ア・ボトル』などの原作者として知られるアメリカの人気作家ニコラス・スパークスが、2006年に発表した小説『きみを想う夜空に』を映画化。出演は’09年の映画『G.I.ジョー』のチャニング・テイタム、’08年の映画『マンマ・ミーア!』で人気女優となったアマンダ・サイフリッド、演技派のベテラン俳優リチャード・ジェンキンスほか。監督は’93年の映画『ギルバート・グレイプ』、’00年の『ショコラ』など、ぬくもりのある映像と丁寧な人間ドラマを描くことに定評のあるラッセ・ハルストレム。強く惹かれ合う2人の運命的な恋と葛藤、息子と彼を男手ひとつで育てた父親との関係、周囲の人々との結びつきを描く。どこか懐かしい風合いの映像が心地よい、ノスタルジックなラブロマンスである。

米軍兵士のジョンは父親の暮らすサウスカロライナの自宅に帰省中に、大学の休みで帰省中のサヴァナと海辺で知り合う。裕福な家庭で育った陽気なサヴァナと、男手ひとつで育てられ一時は荒れた時期もあったジョンは、生活環境も性格もまったく異なるものの、一緒に過ごすうちに強く惹かれ合い恋に落ちる。お互いの家族にも紹介し、心優しいサヴァナは、人見知りで家にこもりがちなジョンの父親ともなごやかな関係を築いていく。2週間の休暇が終わり、ジョンは軍の任務へサヴァナは大学へ、別々の生活に戻ることに。特殊部隊に所属するジョンは赴任地を周囲に明かせず、携帯もメールもつながらないことが多いため、2人は手紙でお互いの近況を報告し合うように。そして9・11の事件が起こり……。

初秋の風に合う、しっとりとしたラブロマンス。原作の小説『きみを想う夜空に』は、スパークス作品の中でも最大のヒットを全米で記録しているとのこと。若い2人の恋愛だけでは陳腐になりすぎてしまうところに、不穏な社会背景、不器用な父と息子の絆や、切実な友情やいたわりの関係が描かれていくところに、ハルストレム監督の手腕が生かされている。

アマンダ・サイフリッド

特殊部隊の軍人ジョン役はテイタムが人間臭く表現。アクションやサスペンス作品で知られる彼は本作で初めて本格的なラブ・ストーリーに挑戦し、タフな肉体をもちながら対人関係に不器用で、愛した女性には一途で誠実な青年として新境地をみせている。お嬢さん育ちの素直なサヴァナ役はサイフリッドが自然体で演じ、魅力あるヒロインに。コイン収集が趣味であるジョンの父親役はジェンキンスが演じ、人間ドラマとしての軸を支えている。サヴァナの友人のティム役に’82年の映画『E.T.』で主人公を演じたヘンリー・トーマス、自閉症であるティムの息子アラン役は、オーディションで選ばれた6歳の自閉症の少年ブレーデン・リードが演じている。

アラン役のリード少年は、ハルストレム監督の「自閉症の少年がこの役を演じることは彼自身にとってもよい機会になるはず」という意向を受けて、自閉症患者のために尽力する非営利団体カロライナ・オーティズムを通してオーディションで選ばれたとのこと。劇中ではリード少年が役者たちに見守られながら、のびのびと演技している。父親役のトーマスはリードについて語る。「ブレーデンの反応はとても自然なんだ。脚本に書かれたセリフに、彼は命を吹き込んでくれたよ」。また日本では、2011年のTBS系ドラマ『生まれる。』にて、オーディションで選出されたダウン症の少年・高井萌生の出演なども。映画やドラマの製作に俳優として参加することで、子供たちがチャンスやきっかけ、経験や自信を得て、彼らが自らの才能を伸ばすことができるのなら、それはとても素晴らしいことだ。

チャニング・テイタム、アマンダ・サイフリッド

撮影のほとんどは、サウスカロライナ州チャールストンで行われたとのこと。サヴァナのビーチハウスはサリバン島に、ジョンの自宅はジェームス島に、2人が出会う桟橋はパームズ島にて。サヴァナが手紙を書くシーンは、’04年の映画『きみに読む物語』や’03年の映画『コールドマウンテン』などにも登場するチャースルトン大学のランドルフホールで撮影。また劇中には携帯電話やパソコンのメールなどは会話に多少でてくるものの、映像としてはほとんど映されていないこともあり、アメリカ南部の歴史ある街で由緒ある建物や懐かしい街並を背景に、ノスタルジックでぬくもりのある映像となっている。

チャニング・テイタム

人気の恋愛小説を映画化したことについて、ハルストレム監督は語る。「抒情的なラブ・ストーリーを映画という壮大なカンバスの上で思う存分描けることも魅力的だったんだ。僕は鮮烈な感情をセンチメンタルに描かないことに興味がある。人間の持つ抗い難い強い感情は素晴らしい。そこには微妙な境界線があるのだけれど、その線に沿って注意深く歩きながら、自分にそれが操れるのか、試すんだ。僕はそうした感情をできるだけリアルに誠実に描くことにこそ興味があるんだよ」。一方、現在45歳である原作者のスパークスは’94年、28歳の時に執筆した小説『きみに読む物語』の版権がワーナー・ブックスへ売却され、’96年に出版されてから本格的に作家活動を開始した人物。’98年に小説『メッセージ・イン・ア・ボトル』(’99年に同名で映画化)、’99年に小説『奇跡を信じて』(’02年に『ウォーク・トゥ・リメンバー』として映画化)、’02年に小説『最後の初恋』(’08年に同名で映画化)、’09年に小説『ラスト・ソング』(’10年に同名で映画化)を発表し、次々と映画化されてベストセラー作家に。映画1作品ごとのアメリカ国内の興行収益は平均5600万ドル、DVD売上は1億ドルに達するそうで、スパークスの原作による映画は、現在のハリウッドで手堅い成功を収めることのできる作品として、大手スタジオから高い信頼を得ているとも。現在はすでに映画化権が売却されている『True Believer』『At First Sight』、スパークスが脚本を書き上げてまだ販売を提示していない『The Guardian』(小説としては’03年に発表)などの作品が控えているとのこと。スパークス原作の映画というと、運命的な出会いと恋愛、信仰や社会との関わり、家族や周囲との絆などをテーマに、わかりやすく女性ウケのする作品というイメージで。通好みの映画ファンに受け入れられるかは難しいものの、ラブ・ストーリー好きが何も考えずにさらっと楽しむ分には向いていて。恋愛小説を気負わずにパラパラとめくる感覚だ。次回作は監督やキャスト、どんな作品に仕上がるか、今後も楽しみである。

作品データ

親愛なるきみへ
公開 2011年9月23日公開
新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:48
配給 プレシディオ
原題 Dear John
監督 ラッセ・ハルストレム
脚本・共同製作 ジェイミー・リンデン
原作 ニコラス・スパークス
出演 チャニング・テイタム
アマンダ・サイフリッド
ヘンリー・トーマス
スコット・ポーター
リチャード・ジェンキンス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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