猿の惑星:創世記(ジェネシス)

地球はなぜ猿が支配する惑星となったのか?
かの伝説のストーリー以前のエピソードを描く
ドラマ性と最新CGで魅せるエンタテインメント作

  • 2011/09/30
  • イベント
  • シネマ
猿の惑星:創世記(ジェネシス)© 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation

地球はなぜ猿が支配する惑星となったのか――? 1968年の映画『猿の惑星』以前のエピソードを、現代のサンフランシスコを舞台に描く。出演は2010年の映画『127時間』の人気俳優ジェームズ・フランコ、’08年の『スラムドッグ$ミリオネア』のインド出身の女優フリーダ・ピント、ベテランのジョン・リスゴーほか。監督は本作が長編2作目となる新進のルパート・ワイアット。新薬の開発や動物実験、人と猿との結びつきなど練り上げられたドラマ性と、最新技術を駆使したヴィジュアルで惹きつけるエンタテインメント大作である。

サンフランシスコの製薬会社ジェンシスの研究所に勤務する神経科学者ウィル。彼が開発中のアルツハイマー病の新薬を投与したチンパンジーが高い知能を示す。その成果を発表しようとするも、その猿は突然暴れだし、警備員に射殺されてしまう。研究所の所長から新薬開発プロジェクトの中止を言い渡されたウィルは、射殺された猿が遺した生まれたての子猿を自宅にこっそりと連れ帰り、シーザーと名付けて育て始める。

’68年のオリジナルの大ヒットにより、’70年『続・猿の惑星』、’71年『新・猿の惑星』、’72年『猿の惑星・征服』、’73年『最後の猿の惑星』と計5本のシリーズ映画が製作。’01年にはティム・バートン監督による第1作の“リ・イマジネーション(再創造)版”『PLANET OF THE APES 猿の惑星』が発表されたことも記憶に新しい。本作は今年8月5日の全米公開からイギリス、フランス、ドイツ、香港などでも公開され、興行収入はすでにバートン版を含むシリーズ作品すべての中で歴代1位となっていることが話題に。劇中では第1作へのオマージュが捧げられ、ジェンシスの研究所内にあるカフェの名前や、劇中のテレビで宇宙船の打ち上げのニュースが流れることに注目してみると、オリジナルのファンは楽しいだろう。

猿の惑星:創世記(ジェネシス)

39歳のワイアット監督は、16歳の時にBBC映画コンテストで優勝し、パリで大学に通いながらプロの監督・脚本家としてのキャリアをスタートした人物とのこと。’08年の脱獄スリラー『THE ESCAPIST』(日本未公開)で長編監督としてデビューし、サンダンス映画祭でプレミア上映。本作のプロデューサーであるディラン・クラークがこの映画の熱狂的なファンだったことから今回の大抜擢となり、ハリウッド・メジャーへ進出、となったそうだ。伝説的な人気作のシリーズを手がけるプレッシャーを実感していた、というワイアット監督は語る。「今回の新作の良い点は、神話的な要素とこれまでの作品を踏襲しながらも現実の世界を扱っていることだと思う。オリジナルと関連する要素もあるから、物語的には革命の始まりという立ち位置になるけど、これまでのシリーズとの大きな違いは、僕らがこの物語を未来的な環境ではなく現実の世界に置こうとした点だ。動物の生体実験と科学の進歩、そして人間の病気の治療法を見つけるために動物を使うという事象。いわばパンドラの箱を開ける可能性についての物語なんだ」。

子猿を育てる神経科学者ウィル役は、フランコが自然体で。痴呆症の老いた父のために新薬の開発に没頭し、シーザーとの結びつきも大切にしようとする好青年を演じている。 ウィルの恋人の獣医キャロライン役は、ピントがスマートに、ウィルの父親役はリスゴーが温かく演じている。そしてシーザーの表情や動きを演じたのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラム役、そして’05年の映画『キング・コング』のコング役などで知られるアンディ・サーキス。ビジュアル・エフェクトの技術を最大限に引き出せる、パフォーマンス・キャプチャー(全身の細部までセンサーを装着し、表情や動きをデジタルデータとしてコンピューターに読み取るシステム)のアーティストとも呼ばれるサーキスの表現が、高く評価されている。

フリーダ・ピント、ジェームズ・フランコ

本作の大きな特徴は、猿の映像が着ぐるみや特殊メイクではなく、CGであること。WETAデジタル社は’09年の『アバター』で使用された“エモーション・キャプチャー”技術をさらに進化させ、スタジオの外でも撮影できるように持ち運び可能なパフォーマンス・キャプチャーの装具を考案。そのため本作ではCGのキャラクターが実写の動きと融合し、繊細な表情や反応をしていることから、猿のシーザーに自然に感情移入できるようになっているところが興味深い。ある意味、アニメーションキャラクターと俳優の共演であり、アニメと実写のいいとこ取りのコラボレーション、という感覚もある。

猿の惑星:創世記(ジェネシス)

「これは私たちの星の最も大事なものが失われ、文字通りほかの種族に世界を征服されることについての最も根源的な恐れを描いている。シーザーの視点を通じて描かれる“猿への共感”と、自ら破滅をまねく“人類への警鐘”についての壮大な物語なんだ」と、ワイアット監督が語る本作。本物の猿は登場せず、CGキャラクターとして実験動物であった猿の心情を丁寧に描くことことから、動物愛護団体の最大組織PETAから監督が賞を贈与された、というエピソードも。社会性とドラマ性、エンタテインメント性などを取り入れ、伝説的な映画のシリーズ作を世界的なヒットへと導いたワイアット監督。さらなるシリーズ化もあるのだろうか。そしてハリウッドに躍り出たワイアット監督の次回作も、大いに楽しみである。

作品データ

猿の惑星:創世記(ジェネシス)
公開 2011年10月7日公開
TOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 1:46
配給 20世紀フォックス映画
原題 RISE OF THE PLANET OF THE APES
監督 ルパート・ワイアット
脚本・製作 リック・ジャッファ
アマンダ・シルヴァー
出演 ジェームズ・フランコ
フリーダ・ピント
アンディ・サーキス
ジョン・リスゴー
ブライアン・コックス
トム・フェルトン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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