ラビット・ホール

ピュリツァー賞受賞作をN・キッドマン主演で映画化
幼い息子を亡くした夫妻の心情を丁寧に描く
心に染み入る、誠実なヒューマンドラマ

  • 2011/10/28
  • イベント
  • シネマ
ラビット・ホール© 2010 OP EVE 2,LLC.All rights reserved.

2007年にピュリツァー賞を受賞したオリジナルの戯曲を、ニコール・キッドマンがプロデューサーと主演をつとめて映画化。出演はキッドマン、映画『ダークナイト』のアーロン・エッカート、ウディ・アレン監督の映画『ハンナとその姉妹』『ブロードウェイと銃弾』でアカデミー賞助演女優賞を2回受賞したダイアン・ウィーストほか。監督は映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル、脚本は戯曲の原作者であるデヴィッド・リンゼイ=アベアー。幼い息子を亡くした夫妻と、家族や友人など周囲との切実なやりとりを描く。心のいたみに染み入る、誠実なヒューマンドラマである。

郊外で広い庭のある大きな家に暮らすベッカとハウイー夫妻。8ヶ月前に4歳の息子を事故で亡くし、夫妻は平静を装いながらも深い悲しみから立ち直れずにいた。怒り、恨み、葛藤する心を押し殺し、グループ・セラピーに行ってみても、時にやりどころのない感情の渦が爆発する。距離をおく友人や、肉親のなぐさめにベッカは苛立つばかり。夫は妻を支えようと心を砕くも妻の行動が理解できず、彼もまた憔悴しきっていた。そしてある日、ベッカは街である少年を見かける。彼はあの交通事故で車を運転していた少年だった。

悲しみとの向き合い方や受け入れ方は人それぞれで、誰にでもわかりやすい場合もあれば、他者には理解され難いこともある。劇中では大げさな音楽や説明的なセリフなどは抑えられ、登場人物たちの自然な会話が中心に。気難しいベッカと真っ当なハウイー、それぞれの心情が丁寧に描写されている。

ニコール・キッドマン、アーロン・エッカート

原作はブロードウェイで上演された同名の戯曲で、’07年のピュリツァー賞(ドラマ部門)を受賞した作品。舞台ではアメリカの人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のミランダ役で知られるシンシア・ニクソンが主演し、’06年のトニー賞で主演女優賞を受賞したことも話題に。原作者のデヴィッド・リンゼイ=アベアーは劇作家、シナリオ作家、作詞家、小説家として活動している42歳のアメリカ人。’08年にアメリカで最も活躍が期待されるミュージカルの作詞家としてエド・クレバン賞を受賞したそう。舞台脚本を多数手がけ、映画の脚本は’12年にアメリカで公開予定のアニメーション『RISE OF THE GUARDIANS』、’13年にアメリカで公開予定のサム・ライミ監督による『OZ:THE GREAT AND POWERFUL』なども執筆。今回の映画化で自ら脚本を執筆したリンゼイ=アベアーは、「僕はすべての作業に関わったし、セリフは1行たりとも変更されなかった。このプロジェクトに関わった人々、ジョン・キャメロン・ミッチェル(監督)や素晴らしいキャストたち、皆が最高の貢献をしてくれたことを、とてもありがたく思っている」とコメントしている。

そもそも原作の戯曲に魅了されたキッドマンが、「このキャラクターを映画ファンに紹介することができれば、という考えに夢中になった」ことからスタートし、キッドマンの会社ブロッサム・フィルムズによる初のプロデュース&キッドマンの主演となった本作。映画化をリンゼイ=アベアーが快諾し、インディペンデント映画の製作経験のあるスタッフが加わり、ミッチェル監督の参加が決まり……と、その流れはとてもスムーズだったとのこと。キッドマンとミッチェル監督は会ってすぐに意気投合したそうで、監督は「きっとニコールの本能が、僕らは相性がいいと教えてくれたんだと思う。だからすぐに話は動き始めた。こんなことは滅多に起こるものではない。奇跡的だったね」とコメント。また本作の魅力について、「これは喪失についてだけの物語ではない。それに伴うコミュニケーションの喪失についての物語でもあって、そこが気に入ったんだ。脚本を読んでいる間は泣いたかと思ったら笑ったり、また泣いたりと忙しかったね。いつもは自分で書いた脚本をデベロップするほうがいいんだけど、今回の脚本はあまりにも深くて、洗練された最高のものだったから、そんな考えはすぐに捨てたよ。僕はこの作品にあっという間に惹かれてしまって、他はすべて放り出してしまったんだ」とも語っている。

マイルズ・テラー、ニコール・キッドマン

深い悲しみに囚われてもがくベッカ役を、キッドマンが繊細に表現。受賞は逃したもののアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされ、キッドマンがオスカーを受賞した’02年の映画『めぐりあう時間たち』に次ぐ名演と高く評されている。妻を懸命に気遣う夫のハウイー役は、エッカートが温かみのある人間臭いキャラクターで演じている。そして不器用に娘を思うベッカの母親モリー役はウィーストが人情深く演じ、子供を亡くした悲しみが忘れられない女性ギャビー役はカナダ出身の女優サンドラ・オーが、少年ジェイソン役は本作が映画デビューとなるマイルズ・テラーがそれぞれに自然な雰囲気で演じている。

ダイアン・ウィースト

『不思議の国のアリス』でアリスが“うさぎの穴”に落ちて異世界に迷い込んだように、突然足元を失っていきついた世界とは。劇中で登場するSFコミックは、実際に『Love Eats Brains:A Zombie Romance』などの作品で知られるグラフィック・ノベル作家のダッシュ・ショーが描いたとのこと。映像への生かし方に、ミッチェル監督の独特のセンスが感じられる。ひどく苛酷なことが起こっても、続いてゆく日々の生活にはユーモアがあり、いずれは生きていくための希望のようなものに触れることができる。悲劇的なテーマの中に、人のぬくもりやたくましさを感じさせる良質な作品である。

作品データ

ラビット・ホール
公開 2011年11月5日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:32
配給 ロングライド
原題 RABBIT HOLE
監督 ジョン・キャメロン・ミッチェル
原作・脚本 デヴィッド・リンゼイ=アベアー
出演 ニコール・キッドマン
アーロン・エッカート
ダイアン・ウィースト
サンドラ・オー
タミー・ブランチャード
マイルズ・テラー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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