マネーボール

メジャーリーグの貧乏球団を常勝チームへと変革!
実在する短気で変わり者のGMが確立した野球理論とは?
不屈の意志で道を切り拓いた男の熱いヒューマンドラマ

  • 2011/11/04
  • イベント
  • シネマ
マネーボール

メジャーリーグの弱い貧乏球団を常勝チームへと変革した実在のゼネラル・マネージャー(GM)、ビリー・ビーンの成功秘話を描いたノンフィクションの小説をもとに映画化。出演はスター俳優のブラッド・ピット、2005年の映画『40歳の童貞男』のコメディ俳優ジョナ・ヒル、オスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマン、演技派のロビン・ライトほか。監督は’05年の映画『カポーティ』のベネット・ミラー、脚色は’10年の『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンと、’93年の映画『シンドラーのリスト』でアカデミー脚本賞を受賞したスティーブン・ザイリアン。短気で偏屈な変わり者の男が周囲の反発や冷笑をものともせず、当時は受け入れられていなかった理論を実践し、思い悩みながらもチームを大きな成功へと導くまでを描く。熱い血の通ったヒューマンドラマである。

短気で偏屈な性格により、メジャー経験のあるプロ野球選手から監督やコーチでなく、球団のスカウトに転身、という珍しいキャリアをもつビリー・ビーン。’97年に35歳でアスレチックスのGMになっても態度は変わらず、自分のチームの試合も観なければ、すぐにキレて人や物に当り散らすという有様だった。そして球団はスター選手を別の球団に引き抜かれ、財政難で新たに報酬の高い優秀な選手を雇うこともできず、低迷から抜け出せない状態に。そんな折、ビーンは一流大学の経済学部出身で野球経験がなく、データ分析が得意、という球界で浮いた存在のピーター・ブランドと出会い、「低予算でいかに強いチームを作り上げるか」という理論を実践することに。しかし伝統を重んじる保守的なスタッフや選手、球団のアート・ハウ監督から激しい反発を受け……。

ブラッド・ピット

デキる人間が栄光の道をゆく、ということではなく、欠点だらけの生身の人間が寄り合って力をあわせ、挫折と失敗を繰り返しながらも成功の道筋をつけていく、という流れを示す作品。そもそものベースはジャーナリストのヘンリー・チャドウィックがボックススコアをもとに提案した、打率や打点などのデータによって野球を分析する手法“セイバーメトリクス”。これに基づき、ビリーは頼りになるパートナーとともに独自の“マネーボール理論”を編み出していく。実際にデータ分析でビリーとタッグを組み、原作で紹介されているスタッフは“イェール大卒のピーター”ではなく、“ハーバード大卒のポール・デポデスタ”という人物。今はすでにアスレチックスのスタッフではなく、実際の本人像と映画のキャラクターがかけ離れていることから、違う名前とプロフィールに差し替えられたようだ。

原作は’03年にアメリカで出版された『マネー・ボール 奇跡のチームを作った男(原題:Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game)』。ここに記されている“マネーボール理論”は球界のみならず一般組織のマネジメントにも応用できることから、日本でも’04年に出版され累計10万部を超えるベストセラーとなっている。この本の作者マイケル・ルイスは、アメリカのプリンストン大学で美術史の学士号、イギリスのロンドン大学で経済学の修士号を取得し、ソロモン・ブラザーズを3年で退社した後、債券セールスマンとしての体験をもとに執筆した『ライアーズ・ポーカー』で’89年に作家デビューを果たした人物。’09年の映画『しあわせの隠れ場所』の原作『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟』の作者であり、金融やスポーツなどをテーマに執筆するノンフィクション作家のひとりとして知られている。

ブラッド・ピット

どこまでも我が道を行くビーン役はピットが熱演。暴君でもどこか憎めないビーンのキャラクターによる悲喜こもごもをよく表現し、高く評価されている。最近はアンジーや子供たちと幸せに暮らす家庭的な面も隠さずにオープンにしている彼らしく、おじさんの哀愁や父親としての不器用な愛情なども自然に演じている。ビリーの相棒となる分析担当のピーター役はヒルが演じ、コミカルな楽しさを添えている。チームの監督アート・ハウ役にホフマン、ビリーの元妻役にライトと脇も実力派で固められ、ビリーの娘役は12歳の新人ケリス・ドーシーがみずみずしく演じている。

データ統計を駆使し、打率や本塁打の数値よりも出塁率や長打率の高さを重視する能力分析を用いるという球団運営論、マネーボール論。この理論のもと、アスレチックスは故障を抱えている、トラブルメーカーである、年齢が高いという理由でほかの球団から見過ごされたり解雇されたりしていた選手をスカウト。負け続きだったチームを’00年〜’04年で4年連続のプレーオフ進出に導いたことで、大きな注目を集めた。そして今季、ビリー・ビーンがこの理論に基づいて実際にアスレチックスに獲得した選手は松井秀喜であり、日本でも話題となっている。

ブラッド・ピット

そしてビリー・ビーンが最後に下す決断とは? 何が正しくて何が間違っているのか、現実の世界では簡単に線を引けることではない。ただ純粋に、どの道を選ぶかというだけのこと。ノンフィクションがベースのため物語そのものはやや地味で、男社会の話であり女性がほとんど登場しないことから、万人にわかりやすくウケるという作品ではないかもしれない。ただ現在も活躍している人物の半生で、過ぎたことでも未来のことでもなく、ひたすら今に打ち込むという現実的な内容であるからこそ、今を生きる人たちを励ます内容にもなる。骨のある、実直な人間ドラマである。

作品データ

マネーボール
公開 2011年11月11日公開
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:13
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 Moneyball
監督 ベネット・ミラー
脚本 アーロン・ソーキン
スティーブン・ザイリアン
原作 マイケル・ルイス
出演 ブラッド・ピット
ジョナ・ヒル
フィリップ・シーモア・ホフマン
ロビン・ライト
ケリス・ドーシー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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