恋をすると人は喜びに満ち、ちょっとアホになる
百戦錬磨のイケメン、妻に見放されたダサ夫……
3世代の人間模様を歯切れよく描く良質なラブ・コメディ
原題『CRAZY, STUPID, LOVE』。昼メロさながらの邦題で損をしている良質なラブ・コメディ。出演は2005年の初主演映画『40歳の童貞男』で共同脚本も手がけた人気コメディ俳優のスティーブ・カレル、演技派のジュリアン・ムーア、メジャー作品とインディペンデント作品の両方で活躍するライアン・ゴズリング、'92年の映画『いとこのビニー』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したマリサ・トメイ、’12年に全米公開の映画『アメイジング・スパイダーマン』の若手女優エマ・ストーン、映画や舞台、監督としても活動しているケビン・ベーコンほか実力派メンバーで。監督は長年コンビで活躍しているグレン・フィカーラ、ジョン・レクア。まるでウディ・アレンの恋愛ドラマの要素から、ウィットのハードルを大幅に下げてわかりやすい笑いを満載にしたかのような。テンポのいい会話あり、笑いあり悲哀あり、人間模様の妙を歯切れよく盛り込んだラブ・コメディである。
地方の保険会社に勤める真面目で素朴なキャルはある日、愛妻エミリーから突然離婚を切り出される。40代にして安定した仕事にマイホーム、愛妻とかわいい子どもたち、という満たされた人生をいきなり突き崩されたキャルは茫然自失の状態に。地元のバーで連日妻に捨てられたことを嘆いていると、百戦錬磨のイケメン、ジェイコブから声をかけられ、“男らしさを取り戻す”ガイドを受けることに。一方、キャルの13歳の息子ロビーは自分と妹の面倒をみてくれている17歳のベビーシッター、ジェシカに熱を上げ、エミリーは浮気相手のデイヴィッド・リンハーゲンから再びアプローチを受けるも気が乗らず、モテ男のジェイコブをフッた堅実なハンナは、安全牌のサエない新人弁護士リチャードこそ理想のパートナーだと考えていた。
「あんたは優しげな顔をしてる。 髪もあるし、いい奴そうだ。男らしさを取り戻す力を貸そう。いつなくしたか、心当りは?」「可能性としちゃ1984年かな」。割り切った恋愛漬けの超イケメン、妻から三行半をつきつけられた夫、ベビーシッターのお姉さんに入れあげる少年。男性の情けなさといじらしさが全開で、逆にいとおしさや共感を引き出す、意外と奥行きのある恋愛コメディ。今回、主演と製作を兼ねているカレルは語る。「年齢と経験値は比例するはずなんだけど、恋愛となるとそうとは限らない。このストーリーのすばらしさは3世代のロマンスを描いているところ。各世代の恋愛模様を交錯させながら、いくつになってもわからないことはあるというメッセージを伝えているんだ。時には自分の子供から貴重な人生訓を教わることもあると」。
そもそも本作は、ダン・フォーゲルマンが執筆したオリジナル脚本の大いなる魅力により、カレルが設立したカルーセル・プロダクションズの第1回長編作品に決定したことからスタート。フォーゲルマンは’06年の映画『カーズ』や’10年の映画『塔の上のラプンツェル』などピクサーやディズニーの作品を多く手がける脚本家で、今回の脚本は製作陣から絶賛されている。レクア監督は「愛は生きる活力。たいていの人にとっては人生でいちばん大切なものであり、体を張ってでも勝ち取りたいものだけど、だからこそ笑いの宝庫でもあるんだよ。この脚本を読んで、それを実感したね」と語り、製作のデニース・ディ・ノービは「おかしくて、小粋で、じつに良くできた脚本でした。あらゆる人間模様が鮮烈に表現されていたんです。夫婦愛、親子の情、初恋、永遠の契り……そうしたさまざまな愛がドラマチックに、滑稽に、きわどく描かれていて、脱帽しました」と語っている。
妻から離婚を言い渡されたキャル役を、カレルが中年の悲哀を背負って好演。ジェイコブからイケメン指南でシゴかれる姿は、なんとも言えない可笑しさと哀愁が絶妙に表現されている。モテ術をキャルに伝授するジェイコブ役は、ゴズリングが絵に描いたような人間離れしたイケメンとしてサラリと演じ、カレルとの丁々発止のかけあいが楽しい。自分で自分の気持ちを持て余すエミリーの微妙な女心をムーアが繊細に、実直な人柄ながら人妻エミリーに横恋慕するデイヴィッド・リンハーゲン役をベーコンがおっとりと、ジェシカを一途に思い両親の不仲を心配するロビー役をジョナ・ボボが自然体で、キャルにナンパされるケイト役はトメイがハイテンションでハジけまくり、イケメンのジェイコブに目もくれず冴えないリチャードとの将来を考えるハンナ役はストーンがかわいらしく演じている。どこかズレている新米弁護士リチャード役で、「YOU RAISE ME UP」のヒットで知られる美声のシンガー、ジョシュ・グローバンが初の長編映画出演を果たしているというのも面白い。
撮影はロサンゼルスを中心に行われ、話題のスポットも登場。キャルとジェイコブが買物をするシーンは、ウエストフィールド・センチュリー・シティのショッピング・モールやヘアサロンのクリストフ・サロン、キャルとエミリーが食事をする冒頭のシーンはピノ・ビストロにて。実在のロケーションが物語のリアリティを盛り上げている。またジェイコブの自宅として、ハリウッド・ヒルズのサンセット通り近くに佇む、建築家ハーギー・ベルツバーグが手がけたスカイライン・レジデンスの撮影も。無機質でモダンなどこか冷え冷えとした美しさから、ジェイコブの心象風景が伝わってくる。
恋をすると人は、キラキラドキドキイキイキするだけでなく、ちょっとアホになる。それは少年少女でも青年でも中年でも、どんなに賢くても真面目でも美男美女でも例外なく。倦怠期の夫婦の危機だけでなく、「恋ってそうよね〜」としみじみさせる間抜けさが満載で笑わせてくれる本作。大人は高級ブランドを身につけなくてはダメ、という表面的なことはコメディとしての導入に過ぎず、気持ちがゆさぶられることについて、さまざまな世代や性別の視点から描かれているところが大きな魅力だ。最後にカレルから、ホットなメッセージを。「愛はすべてに勝つとは限らないけれど、たいていのことには勝つものだよ。それに人間には反骨精神が備わっているからね。それを発揮すれば、愛はきっと手に入る。ひとつの愛を再発見することもあるだろうし、別の愛が見つかることもある。この映画のメッセージは希望と優しさにあふれているよ」。
公開 | 2011年11月19日公開 シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2011年 アメリカ |
上映時間 | 1:58 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
原題 | CRAZY, STUPID, LOVE |
監督 | グレン・フィカーラ ジョン・レクア |
脚本 | ダン・フォーゲルマン |
出演 | スティーブ・カレル ライアン・ゴズリング ジュリアン・ムーア エマ・ストーン ジョン・キャロル・リンチ マリサ・トメイ ケビン・ベーコン ジョナ・ボボ アナリー・ティプトン ジョシュ・グローバン |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。