J・エドガー

クリント・イーストウッド×レオナルド・ディカプリオ
FBI初代長官として約50年、死ぬまでその座を守り抜き、
賞賛と非難の両方を浴びた男の半生を描く人間ドラマ

  • 2012/01/13
  • イベント
  • シネマ
J・エドガー© 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演による初タッグで、アメリカに実在したある男の半生を描く人間ドラマ。出演はディカプリオ、2003年の映画『21グラム』のナオミ・ワッツ、’10年の映画『ソーシャル・ネットワーク』のアーミー・ハマー、映画や舞台などで活躍するジョシュ・ルーカス、最新“007”シリーズのM役でも知られるオスカー女優ジュディ・デンチほか。脚本は’08年の映画『ミルク』にて、第81回アカデミー賞の脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラック。1924年にアメリカ連邦捜査局(FBI)初代長官に任命され、’72年に亡くなるその日までの約50年、長官の座を守り抜いたジョン・エドガー・フーバー。その伝説的な手柄の数々から手段を選ばない強硬な姿勢、謎に包まれた私生活まで、8代にわたるアメリカ大統領をも脅(おびや)かしたという彼の足跡を追う。正義と野心、相反する要素を内包する人格の光と影を映す、重みのあるドラマである。

1960年代前半。FBI長官ジョン・エドガー・フーバーは自らの回顧録を作成するため、書記の広報官に自らの半生を語り始める。エドガーが司法省に勤務していた’19年、左翼急進派による爆弾テロ現場で状況の検分を冷静に行う彼を見込んだ司法長官のパーマーは、省内に新設された急進派対策課にエドガーを任命。エドガーの母アニーは、息子の出世を褒め称える。エドガーは秘書室のヘレンを個人秘書に従えて、仕事に打ち込むように。そこで急進派を次々と摘発していく手腕が買われ、FBIの前身である司法省捜査局の長官代行を打診されたエドガーは、「捜査局は政治家の支配を受けず、司法長官にのみ責任を追う」という条件のもとで就任。’32年、飛行家リンドバーグの愛息子の誘拐事件が発生する。

ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、レオナルド・ディカプリオ

FBI初代長官という極めて重要な立場にあった実在の人物について、事実を基に描く本作。いわゆるイーストウッド作品のように、日常のユーモアやぬくもりを含む人間ドラマとは、一線を画している。FBIの立ち上げから大きな功績を挙げていく過程、結婚をせずに仕事に打ち込む日々、直属の部下であるトルソン、ヘレンとの強固な信頼関係、息子に社会的成功を求め続ける厳格な母親、大統領や政治家、有名人らのスキャンダルを独自に記録した極秘ファイルの存在……。カルビン・クーリッジからリチャード・ニクソンまで8代の米国大統領たちが彼を恐れ、ルーズベルトやJ・F・ケネディも彼の監視下に置かれていた、といわれているほどの人物だ。

イケメンのディカプリオは特殊メイクでエドガー本人の風貌に似せて、ガッチリ体型のトム・ハンクスを彷彿とさせる中年男性に変身。20代から77歳までの姿を熱演し、エドガーの鬱屈した複雑な内面をくっきりと表現。アカデミー賞主演男優賞のノミネートが期待されている。エドガーが死ぬまで個人秘書を務めるヘレン役のワッツもまた、特殊メイクで20代〜老年期までを熱心に演じている。FBIのエドガーの片腕で内に感情を秘めたトルソン役はアーミー・ハマーが抑えた演技で、エドガーの母親アニー役はデンチが重厚なイメージで演じている。デンチは意外にもイーストウッド作品は初出演だそうで、お互いに初めて一緒に仕事ができたことを2人は互いにとても喜んでいたそうだ。

レオナルド・ディカプリオ

劇中に登場する図書館の撮影は、実際にワシントンの国会図書館にて。ここの中2階にあるファイルに、実際にフーバーの手描きによる記号付きのカードが含まれている、というエピソードも。またエドガーがFBI在職中、FBI本部の置かれていた司法省でも撮影。エドガーが自分のオフィスのバルコニーからペンシルベニア大通りを眺めるシーンは、実際に彼のオフィスのバルコニーから撮った映像をCGで当時の様子に加工したものだそう。ニューヨークのストーク・クラブとして撮影された場所は、ロサンゼルスのダウンタウンにあるシカダ・レストラン。バンドの生演奏のシーンでは、イーストウッド監督の息子でジャズ・ベーシストであるカイルと彼のミュージシャン仲間が登場している。

アーミー・ハマー、レオナルド・ディカプリオ

正義を執行する組織のトップにありながら、目的のためには手段を選ばず、著名人の脅迫もする。このスキャンダラスな人物に誰もが共感できるかというと、難しいところだ。製作のブライアン・グレイザーは語る。「フーバーは怖いもの知らずで雄弁だった。それらの資質と、彼がかたくなに守った無数の秘密によって、彼はほぼ半世紀にわたって権力の座にとどまったんだ。だがその一方で、権力にしがみつこうとすればするほど、それは離れていってしまうものだ。フーバーの人生から学べる教訓は時代を超えたものであり、彼のストーリーは彼が生きていた時代と同じくらい、現在でもパワフルで感傷的で重要だと思う」。映画のラスト近くには、イーストウッドが一貫して伝え続けている思いがモノローグで差し込まれ、少しホッとする場面も。最後に、イーストウッドの本作に寄せるメッセージを。「これは人間関係を描いたストーリーなんだ。フーバーと、彼をめぐるあらゆる人々との親密な絡み合いが描かれている。そこには彼のごく近い人々から、有名な政治家や大統領まで登場する。これが単なる伝記映画だったら、私はやりたいとは思わなかっただろうね。私は人間関係を描く映画が好きなんだよ。人々がその人生において、あることをなぜやるのかを探るのが好きなんだ」。

作品データ

J・エドガー
公開 2012年1月28日
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:17
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 J. Edgar
監督・製作・音楽 クリント・イーストウッド
脚本 ダスティン・ランス・ブラック
出演 レオナルド・ディカプリオ
ナオミ・ワッツ
アーミー・ハマー
ジョシュ・ルーカス
ジュディ・デンチ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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