おとなのけんか

ポランスキー監督が世界的にヒットした戯曲を映画化
演技派俳優4人の共演による絶妙なかけあいと
監督の演出の妙で魅せる、失笑あり皮肉ありの会話劇

  • 2012/02/24
  • イベント
  • シネマ
おとなのけんか

ロマン・ポランスキー監督が、世界的な成功を収めたヤスミナ・レザの一幕劇を映画化。出演はジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴォルツ、ジョン・C・ライリー、アカデミー賞の受賞やノミネート経験のある4人の演技派俳優。子ども同士のけんかをきっかけに双方の両親である大人たちが対立し、混乱に陥ってゆくさまをユーモラスに描く。監督の演出の妙と役者の演技で魅せる、失笑あり皮肉ありの会話劇である。

ニューヨークのブルックリン、公園で遊んでいた少年同士が対立。ザッカリー・カウアンがイーサン・ロングストリートに暴力をふるい、イーサンは前歯2本を折るケガを負った。そこでザッカリーの両親である弁護士のアランと投資ブローカーのナンシー夫妻は、イーサンの両親マイケルとペネロペ夫妻のアパートを訪れ、和解の話し合いを始めるが……。

時間軸にこだわり、舞台さながらリアルタイムの90分弱で進んでいく本作。アパートの1室という閉鎖された空間で4人のいざこざが展開し、怒り、あきれ、憔悴、狼狽し……と場の空気がめまぐるしく変化。最初は子どものケンカについて夫妻同士で理性的に話そうとしていたものの、子育ての責任、動物愛護の問題、結婚生活、仕事などに話が移るにつれ、味方同士のはずの夫婦間、夫同士、妻同士、ペネロペとアランなど対立軸がコロコロと移っていくところが可笑しい。後半からはアルコールも入り、本音が炸裂。1シチュエーションでありながら観る側を飽きさせずに引きつけていくところなど、監督とキャストの力量が存分に生きている。

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原作はパリを拠点に劇作家、小説家、映画監督として活躍するヤスミナ・レザの戯曲『Le Dieu du carnage(英題God of Carnage)』。舞台は2006年12月、スイスのチューリッヒにあるシャウシュピールハウス劇場にて、ドイツ語で初演。それからドイツのベルリン、フランスのパリ(イザベル・ユペール主演)、イギリスのロンドン(レイフ・ファインズ主演)、ニューヨークのブロードウェイ(ジェフ・ダニエルズ出演)にて上演。オリヴィエ賞の新作コメディ賞やトニー賞演劇部門の作品賞、演出賞(マシュー・ウォーカス)、主演女優賞(マルシア・ゲイ・ハーデン)を受賞するなど、世界的に高い評価を得ているそうだ。日本では’10年に劇団黒テントが『殺戮の神』のおとなのけんかにて、’11年には『大人は、かく戦えり』のおとなのけんかにて大竹しのぶ、段田安則、秋山菜津子、高橋克実のメンバーで上演。原作者のレザはこの映画の脚本も執筆している。

’02年の映画『戦場のピアニスト』でアカデミー賞の監督賞を受賞し、’10年の映画『ゴーストライター』のヒットも記憶に新しいポランスキー監督。そもそものきっかけは、監督がレザの舞台を観てすぐに、「この作品はエキサイティングな映画になる、と確信した。テンポの速さが素晴らしかった。とりわけ魅了されたのは、劇中の出来事がすべてリアルタイムで行われるところだった」とのこと。物語の舞台をパリからニューヨークのブルックリンへと移した脚本は、原作者のレザとポランスキー監督の2人で練り上げたそうだ。

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見どころはやはり、4人の演技合戦。丁々発止のリアルなやりとりで主導権が目まぐるしく入れかわり、それぞれにシチュエーションを牽引していく。アフリカの紛争に関する本を執筆しているというインテリ主婦ペネロペ役はフォスターが、彼女の夫でごく一般的な中年男性である金物商のマイケル役はライリーが、常に携帯電話をとっては話の腰を折る、仕事人間の弁護士アラン役はヴァルツが、ストレスを溜め込んでキレるタイプである投資ブローカーのナンシー役はウィンスレットが演じ、“リベラルな知識層”であるはずの大人たちが崩壊してゆく様をリアルに表現している。1シチュエーションで4人のみの出演者たちは撮影期間中、毎日同じセットで丸一日中4人のシーンを演じ続ける、という状況に。そこでポランスキー監督は撮影前に、2週間の集中的なリハーサルを実施したとのこと。俳優同士が親交を深め、風刺からコメディ、コメディからドラマへとシフトする映画のトーンを事前にしっかりと模索したことにより、密度の濃い撮影を成功させたそう。個人的には、三谷幸喜の舞台の醍醐味と重なる部分も。

おとなのけんか

劇中の出来事が90分弱のリアルタイムで進行する設定と1ロケーションという点は、舞台版を忠実に踏襲したという本作。監督は語る。「リアルタイムの映画を作るのは挑戦的なことだ。以前にも閉鎖的な空間の映画は何本か作ったことがあるが、これほど厳密なものを作ったことはない。初めての経験をしたよ」。観た後にすがすがしく気持ちよくなるかどうかは受け取り手次第であるものの、複雑で奇妙な共感を覚えることだけは確かな本作。「こういうことってあるよね」というツボを容赦なくドンッと突いてくる。さまざまな日常をくぐり抜けてきた大人たちに捧ぐ、濃密な90分弱をとくとご覧あれ。

作品データ

おとなのけんか
公開 2012年2月18日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2011年 フランス、ドイツ、ポーランド合作
上映時間 1:19
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 CARNAGE
監督・脚色 ロマン・ポランスキー
原作・脚色 ヤスミナ・レザ
出演 ジョディ・フォスター
ケイト・ウィンスレット
クリストフ・ヴォルツ
ジョン・C・ライリー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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