ポテチ

伊坂幸太郎原作×中村義洋監督の映画化第3弾
おなじみのスタッフと実力派俳優たちとともに
仙台をはじめ東北の人々に愛とエールを贈るドラマ

  • 2012/03/23
  • イベント
  • シネマ
ポテチ© 2007伊坂幸太郎/新潮社 © 2012『ポテチ』製作委員会

映画『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)や『ゴールデンスランバー』(10)に続き、伊坂幸太郎原作、中村義洋監督による、宮城の仙台を舞台に描く映画化第3弾。出演は『アヒルと〜』『フィッシュストーリー』(08)、『ゴールデン〜』と伊坂×中村作品でおなじみの濱田岳、『フィッシュ〜』『ゴールデン〜』の大森南朋、若手女優の木村文乃、ベテランの石田えりほか。3.11の震災後、すぐに企画・製作が始まり、8月にはあえて仙台でオールロケを実施。東北の人々への愛とエールが込められた、真っ直ぐであたたかい物語である。

公園のベンチで話をする男2人、おっとりとした青年の今村と、ガス会社の制服を着た中年の黒澤。ともに泥棒を生業にしている。今村はつらつらと世間話をしつつ、黒澤に何らかの話を切り出した。それからある日、今村は彼女の若葉とともに高級マンションの一室へ空き巣に入る。そこは今村が大ファンである同い年のプロ野球選手、尾崎の部屋だった。今村は大喜びで物色もせずに部屋でくつろいでいると部屋の電話が鳴り、留守電あてに尾崎に助けを求める若い女性の声が。今村と若菜は無視できず、“尾崎の代理”として、電話の女性がいるカフェへと向かう。

疲弊した人の心にやさしく響く、68分の小品。劇中では派手な盛り上がりがあるわけではなく、青年がごく私的なことで悩み、周囲の親しい人たちの助けにより越えていくさまが描がれていく。今回も“ここで泣かせよう”と狙っているわけではないだろうシーンで、ジワッとこみあげてくるものがある。伊坂×中村作品はいつも不思議だ。

ポテチ

本作は震災後、伊坂氏から中村監督あてに「何でもいいから映画化したいものって何かありますか?」と連絡があり、監督が『ポテチ』と即答したことから始まったとのこと。そもそも監督は原作本が発表された約3年前から映画化したかったそうで、すでに主人公は濱田岳で長編ではなく短編〜中編の尺で、と具体的にイメージしていたそう。当時は商業映画ではなく自主制作ふうの感覚でやれたら、と考えていたとも。伊坂氏は『ゴールデンスランバー』の映画化で自分の作品の映像化を一旦やめる、という話もでていたことから、中村監督はしばらく『ポテチ』も映画化できないかと思っていたところへ、伊坂氏からの申し出があり、今回の製作が一気に決まったそうだ。

マイペースでのんびりとした人のいい泥棒の今村役は、濱田が好演。ユーモアと悲哀、人情味をあわせもつ独特の持ち味は、伊坂×中村作品に毎回よくハマる。中村監督は彼について、「濱田岳という俳優は、一緒に仕事をしていると楽しいし、彼自身お芝居がほんと好きなヤツなんですよ。自分の撮りたい物語の主人公像と岳のもっているそれとがすごく近い気がしていて。それで毎回、彼を起用しちゃうんですかね。岳の人としての純粋さみたいなのが好きなんです」とコメントしている。一匹狼タイプでも自分を慕う今村を大切にしている泥棒、黒澤役は大森が飄々と。怖さと普通さが瞬時に切り替わる見せ方が好い。今村の彼女である若葉役は木村がたくましく、今村の母親役は石田が天真爛漫に演じている。また今村の泥棒の師である“中村親分”役で、中村監督が役者として出演も。この役は伊坂氏が原作を執筆する際に監督をイメージしてあて書きしたそうで、映画化の際には自分が演じると決めていたそう。中村監督は役者経験もあるものの、今回はとても緊張したそうで、13テイクも撮ったと苦笑。自分の監督作品で役を演じてみて、「自分が監督としていつも俳優にどれだけ難しいことを言っているのかがわかり、勉強になった」と話している。

ポテチ

原作は伊坂氏の13冊目の著書であり、中村監督が映画化した中短編集『フィッシュストーリー』のなかのひとつ、書き下ろしで所収された同名の短編。本作の撮影は仙台のオールロケにて、勾当台公園の音楽堂や老舗の藤崎デパートなど、映画『ゴールデンスランバー』で印象的なシーンの舞台となった場所もいくつか登場。伊坂×中村作品のファンにはどこか“流れ”や“つながり”が感じられ、懐かしいようなうれしいような、ホッとする気持ちが引き出される感覚も。撮影最終日には現場に伊坂氏が訪れ、監督と濱田氏と3人でなごやかに話していたそうだ。また劇中音楽と主題歌は、『フィッシュ〜』『ゴールデン〜』でも音楽を手がけたシンガーソングライターの斉藤和義が担当。哀愁を含むギターのアルペジオといった、物語のトーンをゆるい感触で肉付けするシンプルなサウンドが胸に沁みる。主題歌「今夜、リンゴの木の下で」は、作品をイメージして斉藤氏が書き下ろした新曲となっている。

ポテチ

「小さな映画かもしれないけれど、とても大きな意味を持つ映画」とは、撮影スタートの前日に中村監督がスタッフたちに語った言葉。本作は2011年3月11日の東日本大震災を経て、5月に映画化の企画が立ち上がり、8月に撮影という型破りのハイペースなスケジュールで完成。被災地で暮らす人たちに向けて、東北大学在学中から現在に至るまで仙台にずっと在住し、多くの作品で仙台を舞台に執筆している伊坂氏の思い、その原作を映画化してきた中村監督や、登場人物を演じてきた俳優たちからのエールがストレートに表現されている。本作は4月7日より仙台(宮城県内6劇場)にて先行公開、5月12日より新宿ピカデリーほかにて全国公開。派手さもなくある種の予定調和があり、わかりやすく真っ直ぐなエールそのもの。弱さや愚かしさをさらりと受けとめる、人肌のぬくもりのあるドラマである。

作品データ

ポテチ
公開 2012年4月7日より仙台先行公開(宮城県内6劇場)
2012年5月12日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 日本
上映時間 1:08
配給 ショウゲート
監督・脚本 中村義洋
原作 伊坂幸太郎
音楽 斉藤和義
出演 濱田岳
木村文乃
大森南朋
石田えり
中林大樹
松岡茉優
阿部亮平
中村義洋
桜 金造
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。