もとMI6諜報員である作家ル・カレの傑作を映画化
東西の冷戦下で起きた実在の事件をもとに描く
緻密かつリアルに練り上げられたミステリー
実際にイギリス情報局秘密情報部(MI6)で諜報員をしていた、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を映画化。出演は個性派俳優のゲイリー・オールドマン、オスカー俳優のコリン・ファース、映画や舞台で活躍するマーク・ストロング、『インセプション』のトム・ハーディ、ベテランのジョン・ハートをはじめ、イギリスの演技派俳優を中心に。監督はスウェーデン出身で’08年の映画『ぼくのエリ 200歳の少女』で知られるトーマス・アルフレッドソン。製作総指揮には原作者のル・カレが名を連ねる。東西の冷戦下で起きた実在の事件をもとに描く、細部まで緻密に練り上げられたミステリーである。
第二次世界大戦後、1970年代前半。東西冷戦は熾烈を極め、MI6(通称サーカス)とソ連国家保安委員会(KGB)は激しい情報戦を繰り広げていた。そしてサーカス幹部の5人、アレリン(コードネーム:ティンカー<鋳掛け屋>)、ヘイドン(テイラー<仕立屋>)、ブランド(ソルジャー<兵隊>)、エスタヘイス(プアマン<貧乏人>)、スマイリー(ベガマン)のなかに「ソ連の二重スパイ(もぐら)がいる」という情報が。MI6のリーダーであるコントロールは独断で調査を始めるも、作戦は失敗。責任を問われたコントロールは、長年の右腕スマイリーとともにサーカスを退職。残ったメンバーによるサーカスが成果を上げるなか、政府の監査役レイコン次官から「もぐらを捜せ」という任務がスマイリーに下される。
「スパイとは、みな孤独だ」「人生を捧げてしまった。人間の裏側を探ることに」。使い古されたかのようなクラシックな台詞も、役者の力量と事実がベースであるストーリーの重みから、真実味を帯びて響く本作。英国諜報部MI6といっても、007のようなタキシード姿も派手なアクションも銃撃戦もなく、地道な調査とゆさぶりで真実ににじり寄る経緯をリアルに描写。原作者ル・カレの作風がしっかりと汲まれているとも。1974年に発表された原作は、’79年にイギリスBBCでTVドラマ化。スマイリー役をサー・アレック・ギネスが演じて高い評価と人気を得たことから、当初は映画化に不安の声もあったとのこと。ル・カレは語る。「しかし、私の心配は杞憂だった。アルフレッドソンは私に言わせれば、見事に映像化に成功し、32年前のTVシリーズより原作とその登場人物をさらに掘り下げて描いている。スマイリーに扮したゲイリー・オールドマンは、名優アレック・ギネスが作り上げた孤独で、内向的で、悲哀と知性、さらに上品さを備えた人物像をそのまま再現している」。
オールドマンはスマイリー役を作りこみ、寡黙で注意深い辣腕の諜報員をリアルに表現。ル・カレは「ゲイリーの演技を見ていると、スマイリーの痛みや彼に迫る生命の危機を共有できる。よりタフなスマイリー像で、孤独感と多少の残酷さが伝わってくる。彼の演技に魅了された」とコメント。オールドマンは本作で初めて、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことも話題に。抑制の奥に強靭な意志が伝わってくる演技はさすがだ。ヘイドン役はファースが尊大に、リッキー役はハーディが熱く、ジム役はストロングが苦悩と悲哀を背負い、アレリン役はジョーンズが野心的に、リーダーのコントロール役はハートが確かな存在感で。またスマイリーの部下で有能にして冷徹なピーター役にベネディクト・カンバーバッチほかイギリスの演技派が顔を揃えたキャスティングに、アルフレッドソン監督も「監督冥利に尽きた」と語っている。
原作者であり本作の製作総指揮も務めたル・カレは、オックスフォード大学のリンカーン・カレッジにて現代語学の最優等学位を取得して卒業し、イートンカレッジで2年間教師に。その後’59〜’64年にイギリスの外務省に勤め、情報局保安部(MI5)と情報局秘密情報部(MI6)に所属。その経験をもとにした処女作『死者にかかってきた電話』で’61年に小説家としてデビューし、’62年に第2作目『高貴なる殺人』を発表。この2作品と本作の原作で’74年に発表された『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、'77年の『スクールボーイ閣下』、'79年の『スマイリーと仲間たち』の5冊はすべて、初老の諜報員スマイリーが主役。このうち日本では’70年代に発表された3作品が“スマイリー三部作”と親しまれ、“スパイ小説の最高傑作”と称されているとも。ル・カレの作品は映画化されているものも多く、『寒い国から〜』は’65年に、『鏡の国の戦争』は’68年に、『ロシア・ハウス』は’90年に、『テイラー・オブ・パナマ』は’01年に、『ナイロビの蜂』は’05年に映画化されている。本作ではル・カレが脚本から撮影まで全面的に協力し、劇中のホリデー・パーティのシーンには出演も。
容易な内容では決してないものの、上質な本格ミステリーとして観客や批評家から高く評価されている本作。より楽しむには、公式サイトにある「鑑賞前にご一読ください」を読んでおくと、’70年代当時の社会情勢や込み入った登場人物の概要がわかり、物語に入りやすいだろう。ちなみに原作の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』というコードネームが羅列された裏切りのサーカスは、伝承童謡であるマザーグースのフレーズに由来している。ル・カレは今回の映画化について、「これは単なる小説の映画化ではない。本作自体が芸術作品だ。私は原作をアルフレッドソンに提供したことをとても誇りに思っている」と賞賛。さて、スマイリーが主役の原作はあと4冊。硬派なミステリーファンに応える良質な映画がシリーズ化なるか、今後も注目したい。
公開 | 2012年4月21日公開 TOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開 |
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制作年/制作国 | 2011年 イギリス、フランス、ドイツ合作 |
上映時間 | 2:08 |
配給 | ギャガ |
原題 | TINKER TAILOR SOLDIER SPY |
監督 | トーマス・アルフレッドソン |
脚本 | ブリジット・オコナー ピーター・ストローハン |
原作・製作総指揮 | ジョン・ル・カレ |
出演 | ゲイリー・オールドマン コリン・ファース マーク・ストロング トム・ハーディ ジョン・ハート トビー・ジョーンズ ベネディクト・カンバーバッチ デヴィッド・デンシック キアラン・ハインズ スヴェトラーナ・コドチェンコワ キャシー・バーク |
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