幸せへのキセキ

マット・デイモン主演、動物園を立て直した一家の物語
妻を亡くした男が2人の子どもとともに新たな夢に挑戦する
実話ベースに喪失と再生を描く、あたたかいヒューマンドラマ

  • 2012/06/01
  • イベント
  • シネマ
幸せへのキセキ© 2011 Twentieth Century Fox

親子が一目惚れした丘の上の一軒家は、動物園つきの物件だった――。イギリス人コラムニストの実話をベースに、家族の喪失と再生、仲間と事業に挑戦する経緯をあたたかく描く。出演は人気・実力ともにトップクラスのマット・デイモン、ウディ・アレン監督作からアメコミまでさまざまな映画で活躍するスカーレット・ヨハンソン、2004年の『サイドウェイ』のトーマス・ヘイデン・チャーチ、全米オーディションで選出された2人の子役コリン・フォードとマギー・エリザベス・ジョーンズ、ダコタの妹としても知られる’10年の『SOMEWHERE』のエル・ファニングほか。監督・製作・脚本は’00年の映画『あの頃ペニー・レインと』でアカデミー脚本賞を受賞したキャメロン・クロウ、脚本は’06年の『プラダを着た悪魔』のアライン・ブロッシュ・マッケンナ。最愛の妻を亡くしたコラムニストは、2人の子供とともに新しい生活を始めようと決意する。父と子どもたち、亡き妻と夫、人間と動物、オーナーとスタッフ、対等な仲間同士、大人の男女、少年少女などなど、さまざまな関係性をやさしい目線でとらえる。ほのかなラブストーリーを含む、おだやかなヒューマンドラマである。

半年前に最愛の妻キャサリンを亡くした、コラムニストのベンジャミン・ミー。14歳の息子ディランと7歳の娘ロージーとともに深い喪失感を抱えながらも毎日を過ごすなか、ディランが学校で問題を起こして退学に。ベンジャミンもまた勤務先の新聞社で不本意な仕事を言い渡され、衝動的に退社。ベンジャミンは妻との思い出がつまった街から引越し、新しい土地で家庭と生活を立て直そうと決意。父娘で気に入った郊外の一軒家、「廃園寸前の動物園のオーナーになる」という風変わりな条件付きの物件に、嫌がるディランを説き伏せて移り住む。

インスピレーションと勢いで知識も経験もないまま動物園のオーナーになり、動物や経営について1から学んでいった一家の物語。これが実話を基にしているというからユニークだ。実際に彼らの動物園は’07年の7月にオープンし、ベンジャミン・ミーはこの経緯を新聞のコラムに寄稿。同年の秋には4部構成のドキュメンタリー『Ben’s Zoo』としてBBC2で放映されて話題に。本作の原作は’08年にベンジャミンが発表したエッセイ『We Bought a Zoo: The Amazing True Story of a Young Family, a Broken Down Zoo, and the 200 Wild Animals That Change Their Lives Forever(邦題:幸せへのキセキ〜動物園を買った家族の物語)』。本国イギリスでベストセラーとなったそうだ。

幸せへのキセキ

ベンジャミン役のデイモンは亡くなった妻を深く思いながらも、兄妹の子育てと動物園の建て直しに奮闘するさまを好演。心情の繊細な表現はもちろん、実生活で4子の父である彼が2人の子どもたちと自然に接する姿もいい。大好きな母の死で情緒不安定になり反抗期でもある息子ディラン役のフォードは、周囲の思いやりに反発しながらも少しずつ変化していく姿を演じ、おしゃまなロージー役のジョーンズは天真爛漫でありながら「ママのかわりに私がうちの男たちを支えなきゃ」とばかりに大人びた風情もあり、そのアンバランスさが魅力だ。動物園のスタッフには、チーフ飼育員のケリー役をヨハンソンが熱血かつ爽やかに、ケリーの従姉妹リリー役はファニングが純朴に愛らしく、おせっかいなベンジャミンの兄ダンカン役はチャーチがユーモラスに演じている。

また大切な共演メンバーである動物たちは、アフリカ・ライオンやベンガルトラ、クジャクやサルをはじめ75種類が登場。俳優たちは2週間のリハーサル期間に「America's Teaching Zoo at Moorpark College」にて、さまざまな動物について学んだとのこと。出演した動物たちはすべて、飼い主やトレーナーともに南カリフォルニア地区の動物施設で過ごし、撮影のある日のみ現場に連れてくる方法で、動物たちがセットの囲いの中で待機することのないよう配慮。自然がいっぱいの劇中の動物園「ローズムーア動物アドベンチャー公園」は、ロサンゼルスの北にあるサウザンドオークスのグリーンフィールド・ランチに9カ月かけて設計〜建設したという大規模な野外セット。動物たちの囲いのほか、歩道や噴水、展望台、彫刻の庭、円形演舞場などもあり、のびのびとした雰囲気が見ていて気持ちいい。

幸せへのキセキ

アメリカの音楽雑誌『Rolling Stone』からキャリアをスタートしたクロウ監督は、自身の作品のサウンド選びでも毎回力量を発揮。’01年のクロウ作品『バニラ・スカイ』で起用したアイスランド出身のバンド、シガー・ロスのメンバーであるヨンシーが、本作で初めて映画音楽を手がけたことも話題となっている。監督は当初からシガー・ロスの音楽をイメージしていたそうで、キャストとスタッフ全員に彼らのドキュメンタリーDVD「HEIMA〜故郷」を渡したそうだ。クロウ監督は語る。「この映画を作りたかったのは、“喜びの種”を蒔きたいと思ったからだ。本作は、幸せな気持ちになれるところがいい。生きる意味を感じ、喪失感が意欲やエネルギーに変わることの素晴らしさを教えてくれる」。

幸せへのキセキ

事実は小説よりも奇なり。イギリスのイングランド南西部デヴォン州にある「Dartmoor Zoological Park(ダートムーア動物園)」は地域の人たちに愛され、一家は今も動物たちとともに幸せに暮らしている。その様子は公式ブログ(http://dzpkeepers.blogspot.com/)でも。ベンジャミンは現在、動物園の経営と講演活動に力を注いでいるとのこと。自分たちの挑戦と本作について彼は語る。「人から不可能だと言われても私は決してあきらめません。あきらめることは失敗と同じです。どんなことでも実行してみれば、たとえ不可能に思える時でも成功するチャンスはあります。私の物語に触れてくれた人が、何かを感じてくれて、その人たちを励ますことができれば、とても嬉しいです」。家族や仲間との対立や絆、障害を乗り越えて現実的に夢に挑戦すること。華々しい成功物語のような派手さより、実直で地に足のついた、ぬくもりのあるヒューマンドラマである。

作品データ

幸せへのキセキ
公開 2012年6月8日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:04
配給 20世紀フォックス映画
原題 WE BOUGHT A ZOO
監督・製作・脚本 キャメロン・クロウ
脚本 アライン・ブロッシュ・マッケンナ
原作 ベンジャミン・ミー
音楽 ヨンシー
出演 マット・デイモン
スカーレット・ヨハンソン
トーマス・ヘイデン・チャーチ
コリン・フォード
マギー・エリザベス・ジョーンズ
エル・ファニング
アンガス・マクファーデン
パトリック・フュジット
ジョン・マイケル・ヒギンズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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