周防正行監督×草刈民代×役所広司が16年ぶりにタッグ再び
終末医療の現場でおきる非常に困難な状況と人間模様、
“命の尊厳”について静かに投げかける重厚な人間ドラマ
1996年の映画『Shall we ダンス?』以来16年ぶり、周防正行監督×草刈民代×役所広司のタッグによる作品。共演の浅野忠信、大沢たかお、人気俳優2人がダークな役を演じる。終末医療の現場でひとりのぜんそく患者と担当医師をめぐり、“生命を尊重する”ことの在り方、人の関係性や結びつきをシリアスに描く。現役の弁護士である朔立木(さく・たつき)の同名小説を周防監督が脚色した、重厚な人間ドラマである。
患者からの評判も良い、呼吸器内科のエリート医師である折井綾乃。不倫関係を長年つづけていた同僚の医師の高井と別れ、睡眠薬をアルコールで流し込んだことから、するともなしに自殺未遂騒動に。失意で乾ききった折井は、重度の喘息患者で入退院を繰り返していた江木秦三から絶対的な信頼を寄せられ、医師として人としてのバランスを取り戻してゆく。が、江木は病状が悪化し、最期の診断を折井に託したい、と強い意志で訴える。その2か月後、折井は厳しい判断のときを迎える。
患者本人と家族と医師との関係性、リビング・ウィル(生前の意思)、積極的安楽死……終末医療の現場でおきる非常に困難な状況判断について。“生命を尊重する”とはどういうことなのか。登場人物それぞれの立場と心情、そして法律上の見解を描き、観る側に改めて投げかける展開となっている。
原作は2005年に発表された朔立木の『命の終わりを決めるとき』に収録されている同名の中編。実在の事件がもとにされているだろうことは、映画の資料では触れられていない。映画ではよりドラマとして脚色されていることもあり、実際の事件関係者への配慮がなされているのだろうか。劇中では折井と高井、折井と江木、折井と塚原検察官と、ときには理解し合い、ときには対峙する1対1の関係がくっきりと描かれ、どこか演劇のような感覚もおぼえる。
折井役は草刈が、若くはない独身女性の焦燥と悲哀、医者としての信念と意志を淡々と表現。折井が不倫関係にあった医師の高井役は浅野がわかりやすく非道に、真面目で節度のある患者の江木役は役所が情感深く、野心的な検察官の塚原役は大沢が傲慢で尊大に、それぞれの個性を演じている。
ふとうかぶのは、自身の命が危機的状況にさらされて初めて、死に対峙する患者の心情を折井が実感として体得した、というくだり。恐怖と苦しみ、恥じ入るような呆然とするかのような、それでも自分ではどうにもできないという感覚を痛いほど理解し、患者の意思を尊重したいと切に願う。心を通わせた人への行為として、それがどれほどの重さと意味をもつのか、体験したことのない身には想像の範疇を超えている。
キリ・テ・カナワが歌うオペラのアリア「私のお父さん」が印象的に使われている本作。周防監督は語る。「『それでもボクはやってない』では刑事裁判システムについて、“この現実を知ってほしい”という思いで作りました。今回は生死を扱う医療現場を舞台に、愛する人を失うかもしれないとき、人はどう決断し、何によって裁かれるのか。心が引き裂かれるような大人のラブストーリーをお届けしたいと思います」。“生命を尊重する”とは? もし自分ならどうするか。すべてにおいて予想はいつも予想にすぎず、目の前で実際に起きたこと、体感したことに心と体が反応して人は動いてゆく。是非もない。映画の最後の最後、後日談として示される内容もどうぞお見逃しなく。
公開 | 2012年10月27日公開 全国東宝系にて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2012年 日本 |
上映時間 | 2:24 |
配給 | 東宝 |
監督・脚本 | 周防正行 |
音楽 | 周防義和 |
原作 | 朔立木 |
出演 | 草刈民代 役所広司 浅野忠信 大沢たかお |
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