“男女逆転”大奥シリーズ第3弾、五代将軍・徳川綱吉の治世
激化する派閥争い、権力を欲する冷徹な男、愛に飢えた孤独な女
大奥をめぐる人々の軋轢や苦悩、愛憎をドラマティックに描く
よしながふみ原作による男女逆転“大奥”シリーズの映像化第3弾。ときは元禄、五代将軍・綱吉の時代へ――。出演は時代も役も異なるもののTVドラマから引き続き登場する堺雅人、そして菅野美穂、西田敏行、尾野真千子、柄本佑、要潤、宮藤官九郎ほか。監督は前作の映画の監督とTVドラマの演出を手がけた金子文紀。過度な動物愛護法“生類憐みの令”で民を苦しめたことで知られる“犬公方”こと徳川綱吉の物語を大胆に脚色。賢い将軍が追いつめられてゆく悲哀、世継ぎを切望される女の焦燥、零落した公家の男の野心、大奥内の派閥争い……絡み合う思惑の果てにいきつくところとは? 前2作にある若い将軍のとまどいや葛藤から、本作では年を重ねた大人同士ゆえの軋轢や苦悩、そして解放へ。男と女、親と子、そして主従間の愛憎をドラマティックに描く物語である。
若い男子だけがかかる奇病の流行により大勢の男たちが死に、徳川幕府では三代目にして女将軍・家光が誕生。そして多くの役職に女が就く男女逆転の世となり30年、五代将軍・綱吉の時代を迎えていた。徳川の治世は栄華を極めるも、大奥では後継者をめぐり子のない正室と跡継ぎを産んだ側室との対立が激化。綱吉の父である桂昌院(かつての玉栄)が権勢を誇り、側用人の柳沢吉保は綱吉を慕い献身的に支えている。正室の信平は大奥での勢力を取り戻すべく、見目も才覚もひときわの男を呼び寄せ、綱吉にはべらせようともくろむ。そして京都より大奥入りした右衛門佐をみた桂昌院は、かつて自らが敬愛し仕えた有功に生き写しであることに仰天する。が、右衛門佐は打算で動き権力を欲する野心的な人物で、慈愛に満ち正道を目指した有功とは正反対、と敵意を抱く。そして右衛門佐はその美貌と知性により綱吉に目をかけられ、一気にのし上がってゆく。
2010年10月の映画『大奥』では八代将軍・吉宗を、’12年10月〜12月にオンエアのTBSドラマ『大奥〜誕生[有功・家光篇]』では時代をさかのぼって初の女将軍となる三代目・家光を、そして本作では家光と玉栄(桂昌院)の子である五代将軍・綱吉のときが描かれる。
ドラマでは情深く家光と大奥を陰日向にささえる有功を演じた堺雅人が、本作では冷徹で剛腕、陰のある右衛門佐役に。零落した公家の男子であり、家族を養うため生きるためと女たちに体を売り、そのみじめさを振り払うかのように出世欲をむきだしにする男を演じている。そして愛に飢え、世継ぎを産むべくたくさんの男たちと閨をともにし、孤独のあまり心がすさんでゆく綱吉役を菅野美穂があやうげに、ドラマでKAT-TUNの田中聖が演じた玉栄のその後、桂昌院役は西田敏行が老獪に。綱吉の側用人・柳沢吉保役を尾野真千子、右衛門佐の部屋子・秋本役を柄本佑、綱吉の側室・伝兵衛役を要潤、正室の信平役を宮藤官九郎が好演。また榎木孝明、市毛良枝、由紀さおり、堺正章らベテラン勢が脇を固めている。
原作は雑誌『メロディ』で連載している、よしながふみの人気コミック『大奥』。現在8巻まで刊行され、累計総部数は350万部超。’06年に第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、’09年に第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞、そしてジェンダーへの理解を深めることに寄与した作品に贈られるアメリカの2009年度ジェイムズ・ティプトリーJr.賞(日本人初、コミック初)、2011年に小学館漫画賞(少女向け部門)、と名だたる賞を受賞している。シリーズの内容は“男女逆転”のうえでの人々の愛と誇り、心理描写と人間模様が大きな見どころながら、幕府や大奥の職制や御殿の構造から、幕府と朝廷・公家との力関係などにいたるまで、当時の文化と政治が史実をもとに的確に描かれているとも。本作の撮影は前作同様、京都の聖護院や妙心寺、世界遺産である二条城など数々の歴史的建造物で行われている。
テレビドラマでは『水戸黄門』が放送を終えるなど、昔ながらの伝統的な時代劇がすたれつつある今。NHKの大河ドラマにしても、だいぶ現代的にアレンジされた雰囲気となっている。時代劇ファンでなくとも、日本の昔ながらの建築や衣装、生活習慣や言葉づかいがさりげなく伝わってくるところは時代劇の魅力のひとつで。が、若い世代に時代劇について聞いてみると、「言葉が何をいっているのかわからない」とのこと。「ふるい言い回しを調べるのも年上のひとに教えてもらうのもたのしい」ということには興味がわきにくいようだ。そんななか、絢爛豪華な衣装と美術セット、充実の俳優陣、斬新な脚色による時代背景をもつ“大奥”シリーズは幅広い年齢層の女性たちから大きな支持を集めていて。また、人々の心の機微とともに水を使った一大スペクタクルを描き、大ヒットとなった映画『のぼうの城』もしかり、これからの“新たな時代劇”への流れを感じさせる。とはいえ、今年オンエア後に繰り返し再放送がなされている、丹下典膳役を山本耕史が演じたNHK-BSの正統派時代劇『薄桜記』の例もある。昔ながらの侘びと寂(さび)、風趣や情緒を素朴に描くもの、さまざまな仕掛けや工夫がなされたモダンなものと、映画なら双方の時代劇がともに生き残っていけるのではないだろうか。これからの潮流に期待したい。
公開 | 2012年12月22日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2011年 アメリカ |
上映時間 | 2:04 |
配給 | 松竹 アスミック・エース |
監督 | 金子文紀 |
原作 | よしながふみ |
脚本 | 神山由美子 |
出演 | 堺 雅人 菅野美穂 尾野真千子 柄本 佑 田中聖 要 潤 桐山 漣 竜星 涼 満島真之介 郭 智博 永江祐貴 三浦貴大 市毛良枝 榎木孝明 由紀さおり 堺 正章 宮藤官九郎 西田敏行 |
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