クラウド アトラス

ウォシャウスキー姉弟×トム・ティクヴァが監督・脚本・製作
500年の時をまたぐ6つの世界、ある魂たちの変遷を描く
SF、恋愛、ヒューマン…“LIFE”の真理に挑戦したカルト作品

  • 2013/03/19
  • イベント
  • シネマ
クラウド アトラス© 2012 Warner Bros. Entertainment. All rights reserved.

『マトリックス』のラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟監督と、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァ監督がタッグを組み、新進作家デイヴィッド・ミッチェルの小説を映画化。出演はオスカー俳優のトム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、スーザン・サランドン、ウォシャウスキー姉弟監督作品の常連ヒューゴ・ウィービング、映画『アクロス・ザ・ユニバース』のジム・スタージェス、『空気人形』の韓国人女優ペ・ドゥナ、『パフューム ある人殺しの物語』のベン・ウィショー、『ヒッチコック』のイギリス人俳優ジェイムズ・ダーシー、『クラッシュ』のキース・デイビッド、『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラントほか、各国の有名俳優が結集。19世紀〜24世紀、500年の時をまたぐ6つの世界において、ある魂たちの変遷を描く。わかりやすくポピュラーなエンタテインメントではないものの、SF、ロマンス、ヒューマンを通じて“LIFE”の真理に迫るべく挑戦した作品。3人の監督と原作者、出演者たちの熱意が込められたカルト・ムービーである。

1849年、南太平洋。奴隷売買を託されたものの、奴隷への酷い拷問を見た青年ユーイングは、自身の思想や在り方に葛藤。故郷サンフランシスコへ帰る船中で病に侵され、医師グースの治療を受ける。●1936年、スコットランド。作曲家志望の青年フロビシャーは恋人の青年ルーファスから離れ、老いた天才作曲家ビビアンのもと、夢で聴いた楽曲「クラウド アトラス六重奏」の完成を目指す。●1973年、サンフランシスコ。女性ジャーナリストのルイサはある原子力発電所の疑惑を追及するうちに、企業に雇われた殺し屋に命を狙われる。発電所に勤める男アイザックはルイサに惹かれ、自社の告発を決意する。●2012年、イングランド。傍若無人な作家ダーモットは、自作を酷評した書評家を衝動的に殺害。スキャンダルでダーモットの本が売れ、担当した老年の編集者ティモシーは巨額の富を得る。が、過去のいざこざからティモシーは監禁され、施設で知り合った仲間たちと脱走を試みる。●2144年、ネオ・ソウル。地球温暖化により地面が水没した世界。労働要員のクローン少女ソンミ451は最大のタブー“人間としての意識”が芽生え、青年ヘジュの導きにより革命軍へ迎えられる。●“崩壊”後の2321年、ハワイ。文明が滅んだ弱肉強食の世界。ヤギ飼いの男ザックリーは、人食い族の襲撃に怯えながら暮らしている。そこへ進化した人間コミュニティーからやって来た女性メロニムが現れ、ザックリーにある依頼をする。

クラウド アトラス

「人生は自分のものではない。他者につながり、過去や未来につながっている。ひとつの罪が、ひとつの善意が、新たな未来を生むのだ」。影響しあい、変転を繰り返しながら存在する6つの世界。映画化は困難といわれていた複雑で長大な原作の小説を、ウォシャオスキー姉弟とティクヴァ3人の共作により映画化が実現。3人は長年の友人でありフィルムメーカー仲間であることから、「一緒に映画を作りたい」とずっと考えていたそうで、本作では脚本と監督の仕事を分かち合う、という実験的な独特の手法を実践。ウォシャオスキー姉弟組とティクヴァ組の2組体制とし、撮影監督、美術監督など主要スタッフも2組分、俳優たちは2組の間を行き来して、半分の時間で撮了したそうだ。監督・脚本・製作とともに、劇中の楽曲「クラウド アトラス六重奏」の作曲も手がけたティクヴァは語る。「僕たちが目指したことは、すべてをまとめて、それ自身が盛り上がりをもつ、ひとつの流れるようなストーリー“メタ・ナラティブ”(さまざまな物語を内包した大きな物語)を創り出すことだった」。

本作のいちばんの見どころは、6つの世界における魂の変遷を描くため、ひとりの役者が特殊メイクを施し、性別も人種も異なる3〜6の役を演じ分けていること。トム・ハンクスは6役で、医師グース、安ホテルの支配人、発電所勤務のアイザック、作家で殺人犯のダーモット、映画『カベンディッシュの大災難』の主演俳優、ヤギ飼いのザックリー。ハル・ベリーも6役で、農園で働くマオリ族のひとり、有名作曲家ビビアンの妻ジョカスタ、ジャーナリストのルイス、インド人女性客、ソンミの首輪をはずす闇医師オビッド、文明の進んだプレシエント族のメロニム。ジム・ブロードベントは5役、モリヌー船長、作曲家ビビアン、編集者ティモシー、ネオ・ソウルの路上の二胡弾き、プレシエント族のひとり。ヒューコ・ウィービングは6役、ユーイングの義理の父ハスケル、指揮者ケッスルリング、殺し屋ビル、剛腕の女看護師ノークス、ネオ・ソウルのメフィー評議員、闇と恐怖の権化オールド・ジョージー…と限られた役者による大勢のキャラクターたちの群像劇が展開。本人とわかる役から「誰?」というほどの変貌ぶりまで、“ほうき星の形のアザ”というサインとともに転変。まずは前情報なくいつも通りに映画として観て、次にパンフレットを片手にどの俳優がどの役を演じているかを確かめながら観る、という楽しみ方もおすすめだ。

トム・ハンクス、ハル・ベリー

原作者のイギリス人作家デイヴィッド・ミッチェルは44歳。18歳からバックパッカーとしてインドやネパールなどを旅して、ケント大学にて比較文学で修士号を取得。その後、日本の広島で英語講師として8年滞在したほか、さまざまな土地に滞在したとのこと。1999年に『Ghostwritten』で作家デビュー、2001年の小説『ナンバー9ドリーム』は同年のブッカー賞の最終候補作に、2004年には本作の原作『クラウド・アトラス』で再度ブッカー賞の最終候補に選ばれたほか、ネビュラ賞、アーサー・C・クラーク賞にノミネートされたことも話題に。英語文学の新たな才能のひとつとして注目されているそうだ。この物語の重要なテーマのひとつである“永劫回帰”について、原作者のミッチェルは語る。「このストーリーに登場するキャラクターは、単に“1人”の人物ではない。それぞれの世界における主要キャラクターや脇のキャラクターになるんだ。彼らの関係やその関係の性質も同じく変化する。霊魂の生まれ変わりが可能な宇宙において、そして、過去と現在と未来が共存する映画において、死とは単に1つの扉が閉まり、別のドアが開くことなんだ」。

クラウド アトラス

罪と罰、善意と悪意、愛も憎悪もさまざまに全うされてゆき、自然や宇宙のあるべき姿はいつでもここに。厳しい資金繰りなどさまざまな困難を経て本作が完成したことについて、アンディは語る。「映画の終盤でアダム・ユーイングが『しずくは、やがて大海になる』と言う。この映画に関わったすべての人々、僕たちが求めて得られたあらゆる好意、この共同作業に貢献してくれたひとりひとり……そういうことを考えると、その言葉はこの映画を作ったことそのものを指していると思う」。ラナは本作のテーマについて、「私が前から好きだった考え方があるの。それは、不滅性の本質というのは、いつの時代でも、分かち合い続ける私たちの言葉と行動だということ。それはとても興味深いコンセプトで、私たちにこの映画を作ってみたいと思わせたきっかけのひとつであり、それこそが私たちがこの映画で描きたいと願っていたことなの」と語っている。いくつものつながりやひらめきでその世界に引き込みながら、観おわるとスーッと霧散して解き放たれ、後味が不思議とかろやかな本作。万人が認める名作ではなくとも、物語の世界観すべてに共感するわけではなくとも、ひとつの思想として、映画製作の挑戦として、興味深い作品である。

作品データ

クラウド アトラス
公開 2013年3月15日公開
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 2:52
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 CLOUD ATLAS
監督・脚本 ラナ・ウォシャウスキー
アンディ・ウォシャウスキー
トム・ティクヴァ
原作 デイヴィッド・ミッチェル
出演 トム・ハンクス
ハル・ベリー
ジム・ブロードベント
ヒューゴ・ウィービング
ジム・スタージェス
ペ・ドゥナ
ベン・ウィショー
ジェイムズ・ダーシー
ジョウ・シュン
キース・デイビッド
スーザン・サランドン
ヒュー・グラント
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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