ダイアナ

イギリスで今も絶大な人気を誇るダイアナ妃の最後の2年を
ナオミ・ワッツが女性の自立と大人の恋愛をテーマに演じる
ドイツのヒルシュビーゲル監督による挑戦やいかに?

  • 2013/10/11
  • イベント
  • シネマ
ダイアナ© 2013 Caught in Flight Films Limited.All Rights Reserved

2013年7月にウィリアム王子とキャサリン妃の第一子ジョージ王子が誕生し、イギリスの王室ブームが伝わるなか、ウィリアム王子の母であるPrincess of Wales(ウェールズ公妃)ダイアナを描く初めての映画が完成。出演は『21グラム』のナオミ・ワッツ、TVシリーズ『LOST』のナヴィーン・アンドリュースほか。監督は2004年の映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル、脚本は’04年の映画『リバティーン』のスティーヴン・ジェフリーズ。ケイト・スネルが執筆した『Diana: Her Last Love』をもとに著者をコンサルタントに迎え、サラ・ブラッドフォードの著書『Diana』も参考に、ダイアナが亡くなるまでの最後の2年間、チャールズ皇太子との別居から離婚、出会いと恋愛、さまざまな社会活動をするなか、あの事故死に至るまでの1995〜1997年のことを中心に描く。世界的に有名な女性であり、イギリスで昔も今も絶大な人気を誇るダイアナ妃を描く、という大きな挑戦は果たして?

1995年、夫であるウェールズ公チャールズ皇太子と別居して3年。ダイアナは息子である2人の王子、ウィリアムとヘンリーにも王室の意向で5週間に1度しか会えず、ケンジントン宮殿で孤独を感じていた。ある日、素朴で仕事熱心な心臓外科医のハスナット・カーンと知り合ったダイアナは、心から尊敬できる男性に出会えたことを喜ぶ。ともに惹かれ合うものの、医師としての責務を第一にごく普通の生活をのぞむハスナットは、マスコミに執拗につけ狙われ、行く先々で過剰な注目を浴びることに慣れることができないでいた。ダイアナは対人地雷廃止運動やエイズ啓発活動を熱心に行い、人々の注目を集める立場にある自分が、ひとりの女性として自立して生きていくための道を模索していた。

本作はプロデューサーのロバート・バーンスタインが企画し、脚本をジェフリーズに依頼。公文書や資料をリサーチし、前述の人物伝をもとに関係者と会って脚本を完成させたとのこと。イギリス人にとってダイアナは“非常にナーバスになるテーマ”であることから、ドイツ人のヒルシュビーゲル監督が選ばれたそうだ。監督は語る。「(王族と結婚しながら)反逆者の道を選んだダイアナは不安と恐怖の中にいたが、一方で戦士でもあった。わたしはそこに惹かれる」

ナオミ・ワッツ

ワッツは話し方や立ち居ふるまい、メイクや衣装を駆使してダイアナに変貌。劇中の映像は静止画ほど似てはいないものの、10cm以上の身長差や風貌のちがいを表現力でカバーしている。’12年の映画『インポッシブル』で高く評価されたのち、『ムービー43』に本作と、意味は違えど厳しい作品が続いたことからか、ワッツは今年1月に「家族と過ごす時間を増やしたい」と女優の休業を発表。予定していた作品を降板したことも聞こえてくる中、『21グラム』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作『Birdman』の出演契約をしたというニュースもあり、充電後のワッツの復帰が楽しみだ。パキスタン出身のハスナット・カーン医師役は、アンドリュースが誠実かつ保守的な様子で。余談ながらアンドリュースがクローズアップになるたびに日本人の俳優、宇梶剛士に似ている……としみじみ。そしてダイアナの執事ポール役は『ロビン・フッド』のダグラス・ホッジ、ダイアナの治療師で相談相手のウーナ役は『アリス・イン・ワンダーランド』のジェラルディン・ジェームズ、ドディ・アルファイド役は『ニュースの天才』のキャス・アンヴァーが演じている。

ダイアナのお気に入りだったデザイナーたちが全面協力した、はなやかな衣装は見どころのひとつ。ヴェルサーチは本作の撮影のために、シドニーで行われたヴィクター・チャン記念病院のチャリティーイベントで、実際にダイアナが着用したブルーのワンショルダードレスを提供。デザイナーのジャック・アザグリーもダイアナが実際に身に着けたドレス2着を貸し出し、彼女の最後の誕生日となった36歳のバースデイにアザグリーが贈った黒のドレスをはじめ、撮影用のドレスの再現もサポートしたそうだ。靴やバッグはトッズ、ディオール、ジミーチュウ、ジャケットやコートはラルフローレンやイエガー、ジュエリーはショパールなど数々の一流ブランドが登場する。

今回の撮影では、ケンジントン宮殿の門の外を撮影する許可が王室から下りたそう。ダイアナがジョギングするシーンは実際にケンジントン・ガーデンで撮影されている。監督はできるだけ事実と同じ日時と場所で撮影することにこだわり、クロアチア、イギリス南東部、ロンドン中心部、パキスタン、モザンビークの100以上にも及ぶロケーションで、9週間以上にわたって撮影されたそうだ。

ナヴィーン・アンドリュース、ナオミ・ワッツ

見どころがたくさんある本作。ただ、イギリスでの酷評が伝えられていることも事実で。たしかに女性の自立と大人の恋愛、というテーマはわかる。わかるが、個人的に観ていてどうもしっくりこない。このテーマをわざわざダイアナ妃という世界的に有名な実在した女性、イギリスで今もずっと愛され続ける強力なアイコンをこうした形で取り上げる必要があったのか。さらにカーン氏は存命であり、当事者が生きている以上、本人をないがしろにして“事実にもとづく”内容を描くことにも疑問を感じる。他人の書いた人物伝をもとに、存命の人物が関わる本人同士にしかわからないプライベートな内容を映画として描く意味とはなんだろう。カーン氏本人や一部の関係者はこの映画の内容を「事実ではない」ときっぱりと否定している。

ナオミ・ワッツ

ヒルシュビーゲル監督の『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のように、取り上げる人物が50年以上も前に亡くなった歴史上の人物であり、実際に関わった関係者の多くが他界しているなら、推測や検証を交えて描くことの意味も感じられる。それにドイツ人監督が検証を必要とする自国の人物を描くことにも説得力がある。ダイアナをテーマにするなら国民の熱狂ぶりを知るイギリス人自身の手で、またいつか違う形で映画にしてほしい。たとえば、2013年4月に他界したイギリスの元首相マーガレット・サッチャー氏の半生を描いた『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は、イギリス人の女流演出家であり映画監督としても活躍するフィリダ・ロイドが手がけ、本人の内面に迫り、老いと愛という普遍的なテーマを丁寧に描く仕上がりとなっていた。今はまだイギリスの誰もが惹かれながらもふれられない一種のタブーのような存在であるダイアナも、これから50年後には、その時代の映画作家によってたくさんの作品が製作されているかもしれない。もしかしたら50年と待たずとも。

作品データ

ダイアナ
公開 2013年10月18日公開
TOHOシネマズ 有楽座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:53
配給 ギャガ
原題 DIANA
監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル
脚本 スティーヴン・ジェフリーズ
出演 ナオミ・ワッツ
ナヴィーン・アンドリュース
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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