恋するリベラーチェ

本作を区切りにソダーバーグ監督が長期休暇を発表!
20世紀のアメリカに愛されたエンターテイナーの恋を描く
第65回エミー賞にて最多11部門を受賞した話題作

  • 2013/10/18
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第65回エミー賞にて、作品賞を含む最多11部門を受賞したスティーヴン・ソダーバーグ監督の最新作。“世界一ギャラの高い音楽家”として20世紀のアメリカでギネスブックに登録され、1950年代から30年に渡ってピアニストとして全米で人気を博したエンターテイナー、リベラーチェのエピソードを描く。出演は約13年前に映画『トラフィック』で監督と一緒に仕事をしたときに、すでにリベラーチェの話をしていたというマイケル・ダグラス、ソダーバーグ作品は今回で7作目となるマット・デイモンほか。性的マイノリティに対して差別意識の強かった時代にセレブリティとして生きて、ゲイであることを隠し通したリベラーチェの素顔に触れる。恋愛の生々しく世知辛い面も臆さずに描く人間ドラマであり、エンターテインメントへのあふれる愛情を感じさせる良作である。

1977年。カリフォルニアの田舎でTVコマーシャル用の動物の世話をする仕事をしていた素朴な青年スコット・ソーソンは、ロサンゼルスのゲイバーで知り合ったもと振付師のボブを介して、人気スターのリベラーチェと出会う。スコットとリベラーチェは年齢も性格も暮らしてきた環境もまるで違っていたものの、孤独を知る者同士として惹かれあい、秘められた恋愛関係が始まる。そしてスコットは里親の反対を押し切り、ロスからラスベガスにあるリベラーチェの豪邸へ移り、住み込みの個人秘書となる。

ダグラスもデイモンもシリアスな作品が中心の演技派俳優であるだけに、ポスターやメイン写真を見てギョッとさせられた人も少なくないはず。本作はただの色モノではなく、情愛も堕落も含めて理屈では割り切れない恋愛の成り行きをシビアかつあたたかい目線で描く良質な内容となっているので、ファンの方々もご安心を。美容整形に薬物依存、はなやかな業界の孤独や重圧、移り気で奇異な面など複雑な舞台裏を描きながら、“世界が恋したピアニスト”“ミスター・エンターテイナー”と呼ばれたリベラーチェに敬意を払って描かれていることが、観ていて清々しい。ソダーバーグ監督は語る。「重要なのはリベラーチェが愚かではなかったということを理解してもらうこと。彼は冗談抜きに才能ある秀でた音楽家であり、本物のエンターテイナーだったんだ。その種の才能は類まれだということを観客が認識し、きちんと理解しなければ、ただの漫画になってしまう。本当に素晴らしい人だった」

マイケル・ダグラス、マット・デイモン

そもそも監督は約13年前からリベラーチェの映画を作りたいという考えがあったものの、「話の切り口が見つからなかった。伝記映画にはしたくなかったが、どこに着眼点を置くべきかわからなかった」と悩んでいたそう。そのときに友人の作家からすすめられたスコット・ソーソンの著書『Behind the Candelabra(原題)』を読み、「何に焦点を当てるべきか、取り上げるべき時代が見えてきた」そうで、製作のジェリー・ワイントロープに企画を持ち込み、デイモンへ出演をオファーし、映画『フィッシャー・キング』の脚本家リチャード・ラグラヴェネーズの参加が決まり、創り上げられたそうだ。この映画の原題はソーソンの著書と同名の『Behind the Candelabra』で、白いピアノにキャンドルをともした燭台がステージの定番だったリベラーチェの後ろに彼がいたこと(セクシャルな暗喩も?)、明るいスポットライトの影の部分を感じさせる恋するリベラーチェだ。そして本作のラストでは今もソーソンが存命であることを伝えている。近ごろ『ダイアナ』『スティーブ・ジョブズ』をはじめ実在した人物のエピソードを描く映画が多いなか、抜きんでて魅力を放つ本作。リベラーチェとスコットの物語を伝えることに対して、ソダーバーグ監督の真剣かつ繊細な心持ちを知ると、その理由がどこか納得できる。「スコットが書いた本や物語が僕に訴えかけてきたのは、劇中に起こるリベラーチェとスコットの口論がどのカップルにもあるケンカと同じだったところ。ただ明らかに普通と異なるのは、その口論が起こる状況だ。しかしリサーチを重ねて感じたのは、二人の関係が本物だったということ。だからこそ彼らの関係を真剣に描きたいと思ったんだ。そして彼らの人格あるいは関係を茶化すことにならないかが非常に気がかりだった」。

リベラーチェ役はダグラスがカリスマ性と濃ゆい情愛を丁寧に表現。スコット役はデイモンが、素朴な青年が業界に染まって我を見失い、再び自分らしさを取り戻してゆくさまを演じている。2人のベッドシーンはすでに話題となっているとおりで。本作に人間ドラマとしての見ごたえがあることは企画と脚本に加え、とりわけ主演2人の豊かな表現力によるところが大きい。ともにアクの強いキャラクターながら、浮いたり白けたりすることなく、悲喜こもごもがしっかりと伝わってくる。そしてマネージャーのシーモア役にダン・エイクロイド、2人を結びつけるもと振付師のボブ役にスコット・バクラ、セレブ専門の美容整形外科医ジャック役にロブ・ロウ、リベラーチェの母親役に1952年の名画『雨に唄えば』のデビー・レイノルズなど演技派が脇を固めている。

ヴワツィーウ・ヴァレンティノ・リベラーチェは、1919年アメリカ生まれ。父親がパートタイムのフレンチホルン奏者で幼いころから音楽に親しみ、4歳でピアノを弾き始めて7歳までに難曲も覚え、20歳でソリストとしてシカゴ交響楽団と初めてのコンサートを行う。その後ポピュラー音楽を演奏してナイトクラブを巡業するようになり、確かな技術による演奏テクニック、陽気な人柄と軽妙なトーク、クリスタルやスパンコールを多用したド派手な衣装で大衆から不動の人気を獲得する。そして1952年からTVシリーズ『The Liberace Show(原題)』が始まり、全米および20ヵ国で放送され、1950年代の人気音楽番組のひとつに。マディソン・スクエア・ガーデンでのライブパフォーマンスの伝説的な成功を経て、30年以上の間ラスベガスをはじめ世界中で豪華なショーを成功させてゆく。エルヴィス・プレスリーは「リベラーチェの音楽的才能を深く尊敬している」と語り、エルトン・ジョンらに大きな影響を与えたとも。晩年までステージ演奏、映画やトーク番組への出演を続け、1987年に67歳で他界。同性愛者であったことは周知の事実でありながら生涯にわたって否定し続け、エイズによって死亡したことはのちに発表された。

マット・デイモン、マイケル・ダグラス

2013年9月22日(日本時間23日)に発表された第65回エミー賞にて作品賞、監督賞、主演男優賞の主要3部門で受賞し、クリエイティブ・アート・エミー賞の8部門とあわせて本年度のエミー賞で最多11部門を受賞した本作。エミー賞の授賞式ではダグラスとデイモンがプレゼンターを務め、リベラーチェへのトリビュートとしてエルトン・ジョンがライブ演奏を行ったそうだ。主演男優賞を受賞したダグラスはデイモンに、「(この作品の演技は)パートナーに依存しなければならなかった訳ですが、あなたは素晴らしかった。この受賞の半分はマットの賞です」とスピーチしたそう。また、マット演じるスコットの整形した後の顔や、ロブ・ロウ演じる整形外科医のいかにもな風貌など、特殊メイクを手がけた日本人スタッフの矢田弘さんが特殊メイク賞を受賞したというニュースも喜ばしい。

マイケル・ダグラス

映画『サイド・エフェクト』と本作を撮り終えた後、長期休暇に入ることを発表したソダーバーグ監督は、「これが最後の作品だとは言えない。でも、もしそうなったとしてもとても誇りに思う」と記者会見で発表。本当にこれで引退なのか、小説やテレビなど活動の場が変わるのか、充電を経て映画界へ復帰となるか。個人的にはできることなら、今回のように本人が「これだ!」と強く思うテーマを掘り下げて、映画作家としてもどってきてくれたらと思う。多作の監督だけに波もあるものの、これまで通り多作のままウディ・アレンのように飄々と作り続けるのもよし、これを機に寡作となって時間をかけてひとつひとつの作品を練り上げてゆくもよし。「ひとまずおつかれさまでした。また戻ってきてね。みんな待ってる」という声は、きっとたくさん届いていることだろう。ソダーバーグ監督の胸の内はどうなのか、もしかしたら彼本人も風まかせ、というところなのかもしれない。

作品データ

恋するリベラーチェ
公開 2013年11月1日公開
新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 東北新社
原題 Behind the Candelabra
監督 スティーヴン・ソダーバーグ
原作 スコット・ソーソン
監督 スティーヴン・ソダーバーグ
脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ
製作 ジェリー・ワイントローブ
製作総指揮 グレゴリー・ジェイコブズほか
出演 マイケル・ダグラス
マット・デイモン
ダン・エイクロイド
スコット・バクラ
ロブ・ロウ
トム・パパ
ポール・ライザー
デビー・レイノルズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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