ゼロ・グラビティ

サンドラ・ブロック×ジョージ・クルーニー初共演
映像技術を開発し、無重力空間のリアルな感覚を表現
アルフォンソ・キュアロン監督によるSFドラマの傑作

  • 2013/12/13
  • イベント
  • シネマ
ゼロ・グラビティ© 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

時代をこえて継がれてゆく、SF映画にしてヒューマンドラマの傑作が完成。出演は2009年の映画『しあわせの隠れ場所』のサンドラ・ブロック、近年は監督やプロデューサーとしても活躍しているジョージ・クルーニー、昔からずっと友人だったというオスカー俳優2人が初共演。監督・脚本・製作・編集は、『天国の口、終りの楽園。』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』など、味のある小規模の作品からハリウッド大作まで手がけるメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン。スペース・シャトルの通信システムの故障を調査していたストーン博士と、ベテランの宇宙飛行士のマットは、突然のトラブルによりシャトルから切り離され宇宙に投げ出されてしまう。宇宙空間のリアリティを追求し、本作のために開発された装置と撮影システムによる映像が圧巻。ただのSFパニックに終わらない、生死のはざまに直面し、苦悩と葛藤のせめぎ合いの中でつかみとる真実とは。心に深く染み入るヒューマンドラマである。

地球の上空60万メートル。音も酸素も気圧もない、地球の生命は存続できない場所、無重力空間(ゼロ・グラビティ)。今回が初の宇宙飛行となる女性エンジニアのライアン・ストーン博士は、スペース・シャトルの船外ミッションの作業に集中し、ベテラン宇宙飛行士のマット・コワルスキーは最新の宇宙遊泳用ジェットでテスト・フライトを楽しんでいた。そのとき突然、「作業中止!至急、地球へ帰還!」とヒューストンから逼迫した通信が響く。破壊された人工衛星の破片(スペース・デブリ)が別の衛星に衝突して新たなデブリが発生し、彼らのいる方向へ猛烈な速さで周回を始めたのだ。そして回避する時間もなくシャトルは大破、船外にいたライアンとマットは宇宙空間に投げ出されてしまう。

出演者はほぼ2人のみ。はじまりはSFパニックであるものの、死への本能的な恐怖と混乱、孤独と苦しみを生きることへの葛藤、最悪の惨事のなかでもあきらめずに知恵を絞り、困難に立ち向かう精神力と生命力について。とても深淵かつ普遍的なテーマを静かに伝えるヒューマンドラマとして観る側をぐいぐい引き込んでゆく。SF作品で、主人公がネガティブで暗めの女性エンジニアという地味な設定もユニークだし、彼女の細やかな心の動きがとても丁寧に描写され、同性として観ていてとても共感できる。

サンドラ・ブロック

新人宇宙飛行士のライアン役はブロックが熱演。感情を排除して仕事に生きる女性が、突発的な事故により混乱に陥りながらも、同僚マットの助言と自らの意思により希望を見出してゆく姿がとても熱い。マット役はクルーニーが陽気に。どんな悲劇的な瞬間にも明るい面を見出し、あたたかな思いやりとともに周囲を良い方向へと導くさまを自然体で表現している。ブロックは撮影前に宇宙飛行士たちと話して、考え方に変化があったそう。「以前は、宇宙飛行士のことを、スリルと冒険が欲しいから宇宙へ出ていくんだと思っていたのよ。でも、実際に宇宙飛行士たちと話したとき、彼らの世界に対するとても深い愛情と、地球の海や山、街の灯りなどを宇宙から見ている彼らの視点からの地球の美しさに強く胸を打たれたの。この広大な宇宙で私たちがどれだけちっぽけな存在か。それに改めて気づくのはすごいことだった」。そして本作について、クルーニーが語る。「これは、非常に優れたフィルムメーカーが舵をとり、その中心にはすばらしい女優がいる映画なんだ。人がいわゆる“スペース・ムービー”に予想する以上の、信じられないほど深いテーマがある。それは自分自身の死……あるいは、自分自身の生をどのように受け入れるかを描いているんだ。そしてこの映画を観たあとは、きっといろんな会話が生まれると思うよ」。

本作の脚本はアルフォンソ・キュアロン監督と息子のホナス・キュアロンが共同で手がけ、監督は「ホナスのアイデアにインスピレーションを受けた」そうで、公式には初のコラボレート作品とのこと。男性2人によるSFストーリーの脚本でありながら、大人の女性の心情がよく描かれているところはとても興味深い。ホナスは語る。「僕たちにとって“重力(グラビティ)”というのは単に人の足を地に着けておくためのものではなくて、人々をつねに故郷に引き戻す力なんだ」。そしてキュアロン監督も本作についてこう語っている。「全編を通して、美しく、育む場所としての地球が絶えず見えている。そしてその上を漂っている女性は、自分から母性を切り離している。私たちは、宇宙という環境の中で、ひとりのキャラクターを通してどれだけアレゴリー(比喩)を表現できるかを追究したかったんだ。彼女は、生命があり、人間が暮らす地球から遠ざかり、空虚な心を抱えたまま、ぐるぐる回りながら宇宙空間の奥へどんどん入っていく。これだけのツールやエフェクトを使いながらも、私たちにとってつねにはっきりしていたのは、ライアンの葛藤は、人生における逆境を克服し、そこから歩み出さなければならないどんな人のメタファー(暗喩)にもなるということだった。これは再生のための旅なんだ」。

マニアックなことをいうと、“宇宙における慣性の法則”について、とてもきちんと描かれていることが実はものすごく面白い! 深刻なトラブルも生存への希望も、すべてはこの“宇宙における慣性の法則”が鍵となっている。「地球の上空60万メートル。音もない、酸素もない、気圧もない、地球の生命は存続できない場所、無重力空間(ゼロ・グラビティ)」。個人的に子供のころからSFのコミックやアニメを夢中になって観てきたなかで、頭の中でずっと想像してきた無重力空間特有の慣性の法則、回ったら回りっぱなし、一方向に押したらその方向に行きっぱなし、水も火も粒のようになり、動いてゆく。ごく単純でありながら個々の意思だけではどうにもできない、恐ろしくも神秘的な動きのこと。それがビジュアルとしてとても美しく、まるで本物であるかのように映し出されている。自分の五感で体験しているかのようなこの感覚は、IMAX 3Dで観る価値が十二分にある作品だ。

ジョージ・クルーニー

最初の段階から3D映画体験のために製作された本作。複雑な照明の問題を解決するために、内部に60cm×60cmのパネル196枚と4096個のLED電球をはめ込み、TVやPCモニターの画素のように機能させる装置「ライトボックス」(外寸はだいたい高さ6m×幅3m)を開発。その内部で撮影するために、ボット&ドリー社の自動車製造で使われるタイプのロボット・アームの先端に、特別仕様の動作制御カメラを取り付け、正確なショットによる撮影を実現したそうだ。またライアンがISS内部を通る、とても印象的な無重力のシーンは、従来のワイヤーでは漂う雰囲気がだせないため、特殊効果監修のニール・コーボールドが12本のワイヤーを使う革新的なシステムを開発。どの方向にも進み、どの角度にも昇降させ、最高で秒速75mの速度で動かすことができるこの装置は、とてもハイテクながら操り人形に似ているため、操作に超一流のパペッティア(操り人形師)たちを起用したとのこと。ブロックは撮影の数か月前から撮影終了までハードなトレーニングを続け、撮影中にパペッティア・チームとの信頼関係を築き、あの“無重力”の撮影が実現したそうだ。ホナスは語る。「この映画を3Dで作る。これは僕たちが最初から考えていたことなんだ。観客に、ストーリーと同様に映像にも完全に入り込んでもらいたかったから」。キュアロン監督は語る。「だが、物が飛び出してくるのを見せるために3Dにしたかったのではないよ。私たちはできるだけさりげなくしようとした。観客に自然にこの“旅”の中に入り込んでいると感じてもらえるように」

ゼロ・グラビティ

作りこまれた映像によって宇宙空間という非日常を体感し、時折、雑音のない瞑想の境地を思わせるような瞬間もある本作。その感覚は、人生にゆきづまり、深い絶望から動き出せないでいるときに射す、ひとすじの光にも似た。キュアロン監督は本作に込めた思いを語る。「この映画は、映像、音響、そして圧倒的な演技などさまざまな要素がすべて組み合わされた、総合的なコラボレーションで出来上がった作品だ。私たちは観客にこの“旅”に付き合ってもらいたい。そして、美しくも恐ろしい宇宙という空間を無重力で漂う体験を一緒に味わってほしい」

これほど良質な作品について、賞レースに触れるのは無粋なことと思いながらも、すこしだけ。本作がアカデミー賞で受賞を果たすことはほぼ確実だろう。メキシコ出身で根回しをするタイプには見えないキュアロン監督がアカデミー賞で受賞することは容易ではないと思うものの、ここまですばらしい作品を打ち出せば、すがすがしい受賞を果たせることが大いに期待できる。宇宙空間から熱く深いメッセージを放つヒューマンドラマ、傑作SFの世界を、ぜひ体感してほしい。

作品データ

ゼロ・グラビティ
公開 2013年12月13日公開
丸の内ルーブルほか全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:30
配給 東宝東和
原題 GRAVITY
監督・脚本・製作・編集 アルフォンソ・キュアロン
脚本 ホナス・キュアロン
出演 サンドラ・ブロック
ジョージ・クルーニー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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