ヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞したSF小説を遂に映画化
異種族間の紛争や報復の連鎖、人種や階級をこえる融和の精神
人間v.s.エイリアンの宇宙戦争に奥深いテーマを描くSF大作
傑作SFとして知られる、アメリカの作家オースン・スコット・カードが1985年に発表した長編小説を、満を持して初の実写映画化。出演は映画『ヒューゴの不思議な発明』のエイサ・バターフィールド、『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリン、『トゥルー・グリット』のヘイリー・スタインフェルドら演技派の子役たち、そして『インディ・ジョーンズ』シリーズのハリソン・フォード、『ガンジー』のオスカー俳優ベン・キングズレーほか。監督・脚本は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』を手がけたギャヴィン・フッド、そして原作者のカードが製作に参加。近未来の地球。異星人から激しい攻撃を受けた地球ではその脅威に対抗するため、世界中から天才的な能力をもつ少年少女を集め、一流の兵士としての英才教育を施す養成プロジェクトを開始。それから20年、抜きんでた才能をもつ10歳の少年エンダーがやってくる。激しい暴力と戦争、その引き金となること、その果てにあるもの。ぶつかり合いながらも理解を深めてゆく少年たち、人種や階級をこえる融和の精神など、宇宙戦争をモチーフに奥深いテーマを描くダークなSF大作である。
西暦2070年の地球。50年前に昆虫型異星生命体フォーミックから侵略を受け、数千万人もの犠牲者を出した戦いは、勇敢な兵士メイザー・ラッカムの決死(けっし)の活躍により防衛。国際艦隊(インターナショナル・フリート)はメイザーを伝説の英雄としてアイコンに掲げ、さらなる攻撃に備えて世界中から天才児を集めてバトル・スクールを設立する。それから20年、少年少女たちを新世代の兵士として育成するなか、IFの訓練長官グラッフ大佐は未来の優秀なコマンダーとして、天才的な頭脳をもつ10歳の少年アンドルー・“エンダー”・ウィッギンを引き入れる。
1977年に最初に発表されたシリーズの物語でありながら、まったく古臭さを感じさせないSF作品。エイリアン対人間の宇宙バトルという王道のストーリーの奥には暗喩として、人種や階級をこえて理解し合い力を合わせてゆく融和の精神、異種族間の紛争や報復の連鎖へと結びつく背景のこと、争いの解決は破壊と殺害がすべてではないこと、相互理解の必要性、起きてしまったことへの贖罪などが感じられる演出となっている。
“終わらせる者”という意の名前で呼ばれる少年エンダー役は、バターフィールドが熱演。子どもは2人までという地球の少子化政策のなか、悪魔のような兄と天使のような姉が優秀であったことから、特例で出産が許された第3子という特殊な存在であることで、エンダーは常に差別やいじめの対象となっている。常人ばなれした高い知能により周囲から疎まれ恐れられるも、それを上回る戦略を周囲に仕掛けて状況を動かしてゆく冷徹なさま、一方で自らの突出した能力を戦争に投じてよいのかを苦悩し、愛情深い姉を精神的に頼る面など、狂暴さと繊細さ、相反する心情を丁寧に表現している。エンダーの優しい姉ヴァレンタイン役はブレスリンが、エンダーを時にはやさしくいたわり、時には叱咤激励する心の支えとして。射撃の名手であるバトル・スクール訓練生の少女ペトラ役はスタインフェルドが凛として、ムスリムで温和なアーライや路上育ちで反骨精神をもつビーンら信頼できる仲間たちとともに孤高の天才エンダーをサポートしてゆく。地球と人々を守るためには手段を選ばないIFの戦闘科、バトル・スクールの監督官であるグラッフ大佐役はフォードが、天才とはいえ10歳の少年を軍事戦略の中枢に巻き込むことに疑問をもつIFの軍事心理学者アンダースン少佐役はヴィオラ・デイヴィスが、伝説の英雄メイザー・ラッカム役はキングズレーが確かな存在感で、それぞれに表現している。
全力で殴り倒せば人の命が脅(おびや)かされることもあるし、確かな戦略があればどんなに不利な状況でも目的を達成することが可能となることもある。人が成長の過程で経験を通じて知ってゆくこと、命や人生に関わることをヴァーチャルで体感し肌で感じさせる内容となっている本作。IFの実戦訓練に使用される無重力訓練エリア(バトル・ルーム)にて、部隊に分けられた少年兵士たちが対決するシーンでは、『ハリー・ポッター』シリーズにある競技“クィディッチ”のような感覚も。このシーンでは“宇宙における慣性の法則”の動きがよく描かれていて、バトルに勝つためにはいかに無重力空間のそれを生かしていくか、という知恵の対決であるところもおもしろい。
原作の小説は、優れたSF小説を選出するアメリカの権威ある賞、ヒューゴー賞とネビュラ賞をW受賞した作品。もともと原作者のオースン・スコット・カードが1977年にアメリカのSF雑誌『アナログ・サイエンス・ファクト&フィクション』に短編小説として発表し、この短編をもとに1985年に長編として発表された『エンダーのゲーム』を原作として本作は映画化された。原作者のカードは『エンダーのゲーム』の短編をきっかけに小説家としてデビューし、’85年の長編版と’86年に発表した続編『死者の代弁者』の2作品でヒューゴー賞とネビュラ賞の2冠を連続受賞。世界で翻訳され、たくさんの小説やコミック、アニメーションに多大な影響を与えたシリーズであり(物語の内容から、『エヴァンゲリオン』を思い出す人も多いだろう)、その確立された世界観から複数の映画化の企画があったものの実現できないまま、日本でも2008年には翻訳版『エンダーのゲーム』が絶版になるなどの流れに。そして今回、フッド監督の脚本・監督による企画で著者のカードも製作に参加、という充実の布陣により、悲願の映画化が遂に実現したそうだ。
エンダー関連作品は14作(短編集を含む)にわたってシリーズ化され、近年は新たにエンダー誕生以前のことを描く3部作がスタートし、現在62歳であるカードは今もシリーズを執筆し続けているとのこと。フッド監督をはじめ、複雑で骨太なSFの世界観にある思想やメッセージを表現できるスタッフと役者陣が結集し、最先端の映像技術が開発され、20年以上の時を経て、ようやく現実が作品に追いついたともいえる本作。2013年11月1日の全米公開からの興行収入ランキングでは、初登場で首位はとったものの、そのあとがさほどふるわない様子。ストーリーに子どもの暴力、戦争の是非と贖罪というデリケートで触れることの難しい内容が含まれ、ファミリー層の支持が得にくいのだろうか。スター・ウォーズのように魅力的なクリーチャーたちがとくにいないこともつらいところかもしれない。傑作SFの映画化がこの1作品のみで終わってしまうのはあまりにも惜しいし、SFが好きな筆者には個人的に響くものがあって。ハリー・ポッターさながら、子役たちが子役であるうちに続編を、とついつい思うものの、どうだろうか。容易に数字に結びつくタイプの作品ではないかもしれないものの、カルト的に認められるだろう本作。必要な人に届きますように、と祈りつつ、今後の展開を見守りたい。
公開 | 2014年1月18日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 1:54 |
配給 | ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン |
原題 | Ender's Game |
監督・脚本 | ギャビン・フッド |
原作 | オースン・スコット・カード |
出演 | エイサ・バターフィールド ヘイリー・スタインフェルド ベン・キングズレー ヴィオラ・デイヴィス アビゲイル・ブレスリン ハリソン・フォード |
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