山田洋次監督が中島京子の直木賞受賞作品を映画化
昭和モダンの時代を生きた女性が胸に秘めた出来事とは?
ノスタルジックなぬくもりのあるヒューマンドラマ
まだ女性の自由が今ほどはなかった60年前、あの娘(こ)が、あの女性(ひと)が、胸に秘めたこととは。山田洋次監督が、2010年に第143回直木賞を受賞した中島京子の同名小説を映画化。出演は、’04年の映画『隠し剣 鬼の爪』以来9年ぶりに山田作品に出演となる松たか子、’10年にNODA・MAPの番外公演『表に出ろいっ!』で娘役を演じた黒木華、歌舞伎と現代劇の両方で活躍する片岡孝太郎、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの吉岡秀隆、映画『悪人』の妻夫木聡、山田作品の常連である倍賞千恵子ら、演技派俳優が多数出演。一人暮らしをしていた老齢の女性が孤独死をした。付き合いのあった親類で部屋の片づけと遺品整理をしていると、彼女が自伝を綴ったノートが見つかる――。第二次世界大戦前、昭和モダンの古き良き時代を生きた女性が心に秘めたある出来事、ある小さな秘密がそっと明かされるミステリー。そして “赦し”がしずかに染み入り、郷愁を感じさせるヒューマンドラマである。
身内だけの簡易な葬儀。親類たちで、変わり者で独身のまま孤独死をした女性・布宮タキを荼毘(だび)に付す。親類で彼女の暮らしていた部屋を片づけていると、彼女の自伝を綴った大学ノートが見つかる。そこには、彼女が田舎から東京に出て、家政婦としてある裕福な一家のもとに奉公していたときのことが丁寧に記されていた。その内容と、添えられていた未開封の宛名のない手紙に興味をもった親類の青年・健史は、当時のタキの人生に興味を抱く。そして調べていくうちに、ある秘密に気づき……。
60年前にタキが家政婦をしていた昭和初期の時代、晩年のタキが家に出入りする健史にすすめられて自伝を書いていた平成の時代、そして今という3つの時期を行き来して、ある秘密の真相がゆっくりと明かされてゆく物語。おだやかでゆったりとしたノスタルジックな雰囲気のなか、ひとりひとりがそれぞれに懸命に生きる姿が丁寧に描かれてゆく。
若いころのタキ役は黒木華が素朴な働き者の女の子として好演。奉公先の素敵な奥様・時子役は松たか子がはんなりと、旦那様の平井役は片岡孝太郎が仕事熱心な様子で、平井の部下でデザイナーの板倉役は吉岡秀隆が心やさしい青年らしく、そして晩年のタキ役は倍賞千恵子が率直で裏表のないしっかり者として、タキの親類の青年・健史役は妻夫木聡が悪びれない様子で好奇心旺盛に、それぞれが豊かに表現している。また脇にも、小林稔侍、夏川結衣、木村文乃、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、笹野高史ら、ベテランから若手まで実力派が多数出演している。
映画化のきっかけは、山田監督が原作の小説をとても気に入ったことだそう。監督は小説を読んですぐに、「自分の手で映画化したい」と熱望し、作者の中島京子氏に手紙を書いたとのこと。これまで50年以上ずっと、秘密のない家族を描いてきた監督が、82作目にして初めて“家族の秘密”を描くことについて、山田監督自身が「初めての体験」と語り、身を引き締めて取り組んだとも。監督は撮影前にこの作品について、このように語っている。「この作品は、東京郊外のモダンな家で起きた、ある恋愛事件の秘密を巡る物語が核にあるけれども、そのストーリーの向こうに、あまり見つめられてこなかった当時の小市民家庭の暮らし、戦前から敗戦の時代を描きつつ、更にはその先に、果たして今の日本がどこへ向かっていくのか、というようなことも見えてくる作品にしたい」。
具体的に劇中の時代背景は、昭和10年〜第二次世界大戦の終戦直後と、平成12年?21年ごろ。昭和初期のころは西洋文化と日本の文化がミックスした、昭和モダンの世界がはなやかに映し出されている。赤い三角屋根をもち、扉や窓にステンドグラスがはめ込まれた、平井家が暮らす“小さいおうち”、室内にはラッパ型のスピーカーからレコードの音色が流れる蓄音機、コーヒーや紅茶を愉しむシルバーのティーセットなどが配され、戦争前の豊かな生活を楽しむ様子が伝わってくる。映画の公式HPでは「昭和モダンな世界へご案内」という文字をクリックすると、久石 譲氏によるテーマ曲を楽しみながら、小さいおうちの室内セットをじっくりとヴァーチャル体験できる。また現在、日本橋三越本店本館にて、この作品とのコラボレーションで「昭和モダンカフェ」が展開中。2014年1月8日〜28日期間限定オープンで、撮影に使用された小物の展示も。興味があるなら、映画を観る前後に立ち寄ってみるのも楽しいだろう。
日本のこころをしみじみと感じさせる山田作品。独居老人の孤独死という現代のテーマから始まりながら、観終わると後味はとても心地よく、おだやかでやさしい。エンディングにはアコーディオンの音色が郷愁を誘う、久石譲によるテーマ曲が流れ、転調をするタイミングで(観る前は資料を極力読まないため、個人的に「あれっジブリ?」と思った)、ふわっとかわいらしい幸福なイラストに差し替わるところもとてもすてきだ。観る人すべてに、どこか「もっと幸せに生きていいんだよ」と語りかけるようなぬくもりのある、モダンなヒューマンドラマである。
公開 | 2014年1月25日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2014年 日本 |
上映時間 | 2:16 |
配給 | 松竹 |
監督・脚本 | 山田洋次 |
脚本 | 平松恵美子 |
原作 | 中島京子 |
音楽 | 久石譲 |
出演 | 松たか子 黒木華 片岡孝太郎 吉岡秀隆 妻夫木聡 倍賞千恵子 |
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