ミュージカル映画の傑作『メリー・ポピンズ』誕生秘話を映画化
ウォルト・ディズニーの熱意と原作者P.L.トラヴァースの厳格さ
険悪な対立から最高のファンタジーが完成するまでを描く
数々の名曲で彩られ、ミュージカル映画の金字塔と呼ばれる1964年の傑作『メリー・ポピンズ』。この映画はどのように生まれたのか? 完成までにたどった紆余曲折、知られざるエピソード、映画製作の舞台裏を、実話をもとにフィクションとして描く。出演は、2013年の主演映画『キャプテン・フィリップス』も高い評価を得たトム・ハンクス、イギリス出身のオスカー女優エマ・トンプソン、映画『サイドウェイ』のポール・ジアマッティ、映画『ムーンライズ・キングダム』のジェイソン・シュワルツマン、『イングロリアス・バスターズ』のB・J・ノヴァク、『フォーンブース』のコリン・ファレルほか。監督は'09年の映画『しあわせの隠れ場所』のジョン・リー・ハンコック。映画化を切望するウォルト・ディズニーと完全に納得のいく形を求める厳格な作家P.L.(パメラ・リンドン・)トラヴァース、ディズニー専属の作詞・作曲家であるシャーマン兄弟らによる映画制作のエピソードを映す。ファンタジーやマジックがあふれるたくさんの名シーンが生まれるまでの、激しい対立や言い合い、切り捨てるような批判など、キレイごとだけではすまない映画作りの現場にあるシビアな様子を伝える。映画製作に懸ける情熱、相互協力や理解、、物語の原点に込められた思いを丁寧に描くヒューマンドラマである。
1944年にウォルト・ディズニーが愛娘ダイアンのお気に入りの本に魅了され、映画化を思いたってから10数年。企画は原作者の了解がとれないまま、’61年になっても映画化できずにいた。作者P.L.トラヴァースはアニメーションによる映画化に抵抗があり、長年にわたるディズニーからのオファーをずっと断り続けていたのだ。が、トラヴァースは本の売れ行きの低下による経済的な背景から周囲に説得され、渋々ながら映画化の話し合いに応じることになる。イギリス在住のトラヴァースはウォルト本人から映画のアイデアを聞くことになり、2週間の滞在予定でロサンゼルスへ。気難しいトラヴァースは空港で出迎えた気のいいリムジン運転手のラルフに難癖をつけ、ウォルトの絵コンテやシャーマン兄弟が歌う軽快なピアノ曲にも次々と厳しい言葉を浴びせかける。
「私の物語がハリウッドの軽薄さで台無しにされてしまう」「アニメーションはダメ。ミュージカルなんて論外よ!」。トラヴァースの厳しい言葉がするどく飛ぶ場面も少なくない本作。偏屈で強情、キツイ言葉を次々と言い放つ女性作家は観ていて感情移入しやすい人物とは言い難いが、トラヴァース役を演じるトンプソンの力量により、彼女の奥深い悲しみや寂しさ、作家としての性(さが)や創造性がとてもよく表現され、だんだんと彼女の世界観に引き込まれてゆく。トラヴァースについてトンプソンは語る。「私が知る人物の中で、最も複雑な人間の1人よ。あれほど矛盾に満ちた人を、私はこれまで演じたことがないわ。だからこそ大きな魅力を感じたの。彼女はいつも感情がぐらついているのよ。父親の情緒が不安定で拠り所がなかったため、彼女にとって愛情というものは非常に難しい問題だった。彼女の心の中には壊れてしまった何か、空虚さ、そして悲しみが宿っていたの」
ウォルト・ディズニー役はハンクスが好演。大らかで楽天的、堂々としたカリスマ性とともに、作品制作への情熱を熱く伝えている。実の父親へ抱く強い思いから、トラヴァースと気持ちを通わせるくだりが胸に沁みる。ディズニー専属の作詞・作曲家として映画史に残る数々の名曲を生み出してきたシャーマン兄弟は、兄ロバート役のノヴァクと弟リチャード役のシュワルツマンが息の合ったコンビで。トラヴァースに窓から脚本を投げ捨てられる脚本家ドン・ダグラディ役はブラッドリー・ウィットフォードが、トラヴァースのアメリカ滞在中に送迎をするリムジン運転手ラルフ役はジアマッティが持ち前のほのぼのとしたやさしさで。また、トラヴァースがまだ幼くギンティと呼ばれていたころの父親トラヴァース・ゴフ役はファレルが、その妻でギンティの母マーガレット役はルース・ウィルソンが、マーガレットの姉のエリーおばさん役はレイチェル・グリフィスが演じている。
「お砂糖ひとさじで(A Spoonful of Sugar)」 、「チム・チム・チェリー(Chim Chim Cher-ee)」、「2ペンスを鳩に(Feed the Birds (Tuppence a Bag))」「凧をあげよう(Let's Go Fly a Kite)」 など、映画『メリー・ポピンズ』のサウンドトラックとして知られる名曲の数々が生まれた時のことが描かれている本作。本作の製作開始前、この作品の脚本を今も健在のソングライター、リチャード・シャーマン本人に見せたところ、喜んで是認し、積極的に製作のサポートをしたとのこと。リチャード役を演じたシュワルツマンは、俳優のみならずバンドでドラマーとして活動し作曲も手がけ、映画『素敵な人生の終わり方』では音楽を担当している人物で、今回は役作りのために本人の映像を見ながら演奏の練習をしっかり積んだとのこと。またリチャードの自宅を何度も訪ねて、本人によるレッスンを受けて長時間も猛練習したそうで、劇中では朗らかな弾き語りを披露している。
「幸せな物語はすべて悲しみが基になっている」、「大人も子どもも杯の大きさは違っても、悲しみの杯はいつもいっぱい」。’96年に癇癪の発作により96歳で他界したP.L.トラヴァースが、生前のインタビューで語ったという言葉には胸を突くものがあり、人々の心に深く入り込む彼女の物語の原点を感じさせる。原作の「メアリー・ポピンズ」シリーズは、’34年の第1作『風にのってきたメアリー・ポピンズ』が20カ国語以上に翻訳されベストセラーとなり、'88年の『メアリー・ポピンズとお隣さん』まで本編シリーズとして全6冊を発表(数冊の番外編を除く)。そして'64年のミュージカル映画『メリー・ポピンズ』は’65年の第38回アカデミー賞にて主演女優賞(ジュリー・アンドリュース)、作曲賞、歌曲賞など5部門を受賞し、大ヒットを記録。原作が続いたことから映画の続編も望まれていたそうだが(トラヴァース本人にも!)、ウォルト・ディズニーの死や、トラヴァースの理想が高すぎることから企画がとん挫し、実現しないまま今に至るそうだ。一流のスタッフとキャストたちがこれほどに精魂込めた伝説的な映画というのは、容易に続編を作れるものではないし、むしろ作るべきではないというレベルのものかもしれない。それでも長い年月のなかでは、いずれは野心とか金儲けとは別のところから、物語への愛情や後世に伝える使命、またはもっとちがうなにか創造や社会につながるところから、このシリーズに取り組む人が現れるかもしれない。だって、「しなくちゃいけない仕事には、何か楽しめる要素があるものよ」
公開 | 2014年3月21日公開 TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 2:06 |
配給 | ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン |
原題 | Saving Mr. Banks |
監督 | ジョン・リー・ハンコック |
脚本 | ケリー・マーセル スー・スミス |
製作 | アリソン・オーウェン イアン・コリー フィリップ・ステュワー |
出演 | トム・ハンクス エマ・トンプソン ポール・ジアマッティ ジェイソン・シュワルツマン ブラッドリー・ウィットフォード ルース・ウィルソン B・J・ノヴァク レイチェル・グリフィス キャシー・ベイカー メラニー・パクソン アニー・ローズ・バックリー コリン・ファレル |
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