ケイト・ブランシェットがオスカーを受賞したウディ・アレン最新作
現実逃避と自己矛盾、虚言と虚栄が崩壊したその先とは―
情緒不安定が悪化してゆく女性を見つめるシビアなドラマ
女優ケイト・ブランシェットがアカデミー賞主演女優賞を受賞した、ウディ・アレンの監督・脚本による最新作。共演は2007年の映画『ウディ・アレンの夢と犯罪』のサリー・ホーキンス、’12年のアレン作品『ローマでアモーレ』のアレック・ボールドウィン、’03年の映画『ニュースの天才』のピーター・サースガードほか。ニューヨークでセレブリティとして贅沢な暮らしをしていたジャスミンは実業家の夫ハルとの結婚生活が破たんし、アメリカ西海岸のサンフランシスコで庶民的に暮らしているシングルマザーの妹ジンジャーのもとに身を寄せるが……。転落した後の暮らしと心情、現実逃避と虚言でどんどん深みにはまっていく女性の様子を描く、シリアスなドラマである。
ニューヨークから西海岸へ向かう飛行機のファーストクラス、シャネルのジャケットを優美に着こなすジャスミンは、隣の老婦人に一方的に話し続けている。ニューヨークで裕福な夫ハルとの生活が破たんし、すべての資産を失って借金を背負ったジャスミンは、サンフランシスコで2人の息子を育てるごく普通のシングルマザーである妹ジンジャーの部屋に居候をすることに。ジャスミンは歯科医院の受付で仕事を、インテリア・デザイナーを目指してパソコンの勉強を始めるが、不慣れな状況に情緒不安定が悪化してゆく。そんな中、スマートでハンサムな外交官のドワイトと出会い、ジャスミンは自分の過去を都合よく脚色した、事実とは異なるプロフィールを伝える。
転落した女性がひたすら悪いスパイラルに落ちてゆく、痛くて苦い物語。大人の女性として観ていて愉快な内容では決してないし、正直つらい内容ながら、それでも惹きつけるものがあるのは、アレンの冷静な視点と演出、ウィンスレットの表現力によるところだろう。アレンは今回が初のコラボレーションとなったウィンスレットについて、「ケイトは世界で最も素晴らしい女優のひとりだ」と称賛する。「彼女はすべてをもっていて、すごく深みのある女優だ。数値化なんてできない。とても巧い女優を見つけることはできるだろうし、彼女たちはフラストレーションや絶望を演じることもできるし、ケイトと同じように泣くことだってできる。けれどなぜかはわからないが、ケイトはスクリーンに深みをもたらして、観ている者を吸い込んでしまう。彼女がどれだけその役柄を深く演じているかをただ感じてしまうんだ。これはケイトの天賦の才能だね」
ジャスミン役はウィンスレットが、時には滑稽に時には悲哀に満ちた様子を繊細に表現。共感されにくいキャラクターながら、よくない方へと加速してどんどん進み、自らを追い込んで、内面が崩壊してゆくさまから目が離せない。血の繋がっていない妹ジンジャー役はホーキンスが明るくたくましく、問題のある姉を居候させて面倒をみる素朴なやさしさがよく伝わってくる。ジャスミンの回想シーンに登場する夫ハル役はボールドウィンが、一見ソツのない良い夫でありながら悪気なく浮気をし続ける男として、政治家を目指す外交官ドワイト役はサースガードが、ハーレクインの男性キャラさながらの“理想的な”男性を演じている。
社会的立場のあるホワイトカラーの男性とともに、洗練された暮らしをすることこそが人生のすべてであるかのような姉ジャスミンと、粗忽でややDV傾向がありつつも気のいい肉体労働者の男性と、身の丈の暮らしを自然体でしている妹ジンジャー。静かに人を見つめる冷たさと優しさ、シビアさとゆるさという対極があるところ、恋愛の愉しみやザンネンな顛末をまざまざと描くところはいかにもアレンらしい。彼は語る。「アメリカには食べることにも困る人が大勢いる。それでも観客がジャスミンのことを気にかけるのは、この物語がただ単に経済的な損失ではなく、彼女のキャラクターにある悲劇的な欠点が彼女自身の終焉を作りだしているからなんだ。人は過ちを犯すし、それは皆に共通している。人は皆、自分の子どもたちや夫、妻に対して、ささいなことで始終過ちを犯すんだよ」
「幸せとは、世間のものさしではかれるものか?」とアレンから投げかけられるような感覚に、ピリリと唐辛子のように香りの効いた辛辣さをかみしめる本作。ジャスミンの転落の詳細が明らかになるくだりでは、アレンの元妻ミア・ファローが起こした訴訟問題がふとよぎった。この映画を企画したきっかけについてアレンは、現在の妻スン・イー(アレンとファローのもと養女)から聞いた、資産を没収され働いて苦労したというある女性の身の上話がきっかけ、とコメントしている。1934年のスタンダード・ナンバー「ブルームーン」の明るく軽妙なメロディがまた、キャラクターたちの滑稽さやもの悲しさを引き立てるシリアスな物語。ビターな後味がしっかりと残るこの作品を、あなたはどう思うだろうか。
公開 | 2014年5月10日公開 新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 1:38 |
配給 | ロングライド |
原題 | Blue Jasmine |
監督・脚本 | ウッディ・アレン |
出演 | ケイト・ブランシェット アレック・ボールドウィン サリー・ホーキンス ピーター・サースガード |
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