2つ目の窓

奄美大島の地に脈打つ生命を力強くとらえ、
島の民俗や信仰、子々孫々と続いてゆくつながりを映す。
「受け入れて許し、2つが一緒になった時、新たな窓が開く――」

  • 2014/07/25
  • イベント
  • シネマ
2つ目の窓©2014“FUTATSUME NO MADO”JFP, CDC, ARTE FC, LM.

2007年の第60回カンヌ国際映画祭にて映画『殯の森』がグランプリ(審査員特別大賞)を受賞、’09年にはカンヌ国際映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車賞」を、女性としてアジア人として初めて受賞した映画監督・河P直美の最新作。奄美大島で暮らす高校生の少年と少女、2人を見守る家族たちの物語を描く。出演は、本作が映画デビューとなる歌手・UAと俳優・村上淳の実子である17歳の村上虹郎、’10年に『リアル鬼ごっこ2』で映画デビューをした吉永淳、そして杉本哲太、松田美由紀、渡辺真起子、村上淳ほか。奄美大島の地に脈打つ生命を力強くとらえ、島の民俗や信仰、子々孫々と続いてゆくつながりを映す、家族の物語である。 

旧暦8月。奄美大島で毎年行われる八月踊(はちがつおどり)の満月の晩、海に浮かぶ男の溺死体を目撃した高校生の界人は、足早に立ち去る。両親が離婚し母親と2人暮らしの界人は、母が仕事やデートで帰宅が遅く、ひとりで食事をすることも多い。ある日、同級生の杏子の父親が経営する店で、食事をしながら、病で入院している杏子の母イサの容態が悪化していると聞く。イサが民間の巫女“ユタ”であることから、界人は「杏子のお母さんはユタ神様だから死なない」となぐさめる。杏子はユタの親神様に会いに行き、「たとえこの世を去っても、お母さんの想いはここにたしかにあるし、ぬくもりはあなたの心に残る」と聞いても、死期を迎えつつある母との別れを受け入れられずにいた。

吉永淳、村上虹郎

奄美大島の民俗や自然、母と子の絆、家族のつながりを描く本作。製作のきっかけは、河瀬監督が約10年前に実の母と祖母、養母とともに旅行している時に、実の祖母から「あんたの血は奄美にあるんだよ」と聞き、自身のルーツが奄美大島にあると知ったことから始まったとのこと。それから’08年に奄美を訪れ、戸籍を辿って土地を歩き、’12年末から本作の企画を進め始めたそうだ。育ての親である養母が’12年2月に他界したこと、本作を制作したことについて、河瀬監督は本作のプレスリリースに綴っている。「わたしを育ててくれた最愛の養母が2年前他界した。“別れ”はそこに遺された人間の“孤独”と“焦燥”をもたらす。 しかし、その“孤独”は人の痛みを知る“やさしさ”に昇華され、人々の心をあたためるのだろう。その“孤独”が深ければ深いほど、そのやさしさも増してゆくように。けれど人の孤独や焦燥などはおかまいもせず、この宇宙の摂理は等しく人々の上にある。養母が逝ってしまっても、また太陽は昇り、月は満ちてゆくのだ。その偉大さ。わたしはその自然の偉大さをこの作品で最大限に描きたいと思う」  

吉永淳、松田美由紀

界人役は、本作が俳優デビューとなる村上虹郎が影のある雰囲気で。実の父である村上淳と、父と息子というそのままの役柄で親子共演を果たしている。物語の設定は、“両親は離婚し、父は東京で、母と息子は南方の島で暮らしている”と、村上虹郎がカナダに留学前の実生活そのもの。劇中の居酒屋のシーンで、「何で母さんと別れたの」「ストレートな質問だな」という会話はリアルだ。杏子役は吉永淳がのびのびと。界人を慕い、体当たりでアプローチしていく幼くもストレートな感じが甘酸っぱい。あれだけのかわいい子にあんなふうに何度も何度も本能に訴えかけられてもなびかない16歳男子に、非現実性と、平成にはなかなかないだろう昭和の倫理を感じつつ。杏子の父親役は杉本哲太がおおらかに、重い病を患う母イサ役は松田美由紀が愛情豊かに、杏子の祖父・亀次郎役は常田富士男がほのぼのと、界人の母・岬役は渡辺真起子が母であり女である現実を、界人の父・篤役は村上淳がひょうひょうと演じている。

2つ目の窓

7月21日には、本作の先行上映をロケ地&舞台である奄美大島の映画館「ブックス十番館シネマパニック」にて開催。この上映会は、本作の撮影を全面的にサポートした、島民による実行委員会によって準備されたそうだ。舞台挨拶に立った河瀬監督は感極まり涙しながら、感謝の気持ちと作品に込めた思いを伝え、タイトル『2つ目の窓』の意について語った。「10年ほど前に奄美大島にルーツがあると知り、その後初めてこの島にきました。自分は両親を知らずに育ってきて『なんで自分は生まれてきたんだろう』と思って生きてきたのですが、この島のみなさんが『お帰り』と言ってくれて、そこからすべてが始まりました。そして今、世界の人たちにこの映画を通して奄美の文化や人のぬくもりを伝えることが、自分の役割だったような気もしています。本当にうれしいです。海や山、男性や女性など、自分と違うものを受け入れて許して2つが一緒になった時、新たな窓が開くのではないかなと思っています。違いを全部含めて一緒だよ、とこの島のみなさんが私を受け入れてくれたように、この感覚は世界を救うと思っています。その思いを込めてこの作品を作りました」

作品データ

2つ目の窓
公開 2014年7月26日公開
テアトル新宿ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 日本・フランス・スペイン
上映時間 2:00
配給 アスミック・エース
監督・脚本 河P直美
出演 村上虹郎
吉永淳
杉本哲太
松田美由紀
渡辺真起子
村上淳
榊英雄
常田富士男
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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