宇宙飛行士の父は娘に「必ず帰る」と約束した――
物理学者キップ・ソーン×クリストファー・ノーラン監督
現時点の科学を映像と物語に取り入れた熱意あるSF大作
近未来、人が移住できる惑星を探して、宇宙の彼方へ――。宇宙飛行士の父は、ティーンエイジャーの愛娘に、今の自分と同じ年齢になる前に必ず帰ると約束する。
出演はオスカー俳優のマシュー・マコノヒーとアン・ハサウェイ、映画『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステイン、ベテランのオスカー俳優マイケル・ケインとエレン・バースティン、そして声の出演で映画『レイチェルの結婚』のビル・アーウィンほか、ある大物俳優のカメオ出演も。監督・脚本・製作は映画『ダークナイト』シリーズ、『インセプション』のクリストファー・ノーラン、共同脚本は『メメント』や『ダークナイト』などでもタッグを組んできた実弟のジョナサン・ノーラン。ハッブル宇宙望遠鏡からの高解像度画像やアメリカ航空宇宙局(NASA)の250万個の星のデータベース、現時点の物理学の理論などを映像とストーリーに取り入れた、熱意あるSF作品である。
近未来の地球。大地が枯れ作物の育成が難しい環境下、人々は日々起こる砂嵐をしのぎ、コーンを育てながらなんとか暮らしている。以前は宇宙飛行士だったクーパーは、今は農夫となり、息子トムと娘マーフィー、義父ドナルドとともに作物を育てている。ある日、不可思議なサインに導かれ見知らぬ場所へ行くと、すでに活動していないはずの旧アメリカ航空宇宙局(NASA)による組織が。そこでは、人類が移住できる惑星の探索が密かに行われていた。
物理学者キップ・ソーンの協力を得て製作されたノーラン監督のSF作品。実際の惑星の映像や情報、物理学の理論をもとにしたヴィジュアルをたっぷりと取り入れているところがとても興味深い。遠い時空をつなぐというワームホール、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論による“時間の遅れ”(ある重力の強い惑星では時間の経過が1時間で地球の約7年分となる、という劇中のエピソード)、時空を超える5次元の表現などわくわくする要素がたくさんある。
宇宙飛行士のクーパー役はマコノヒーがベテランのパイロットであり子どもたちを思う父親として表現。重要なミッションの発案者ブランド教授役はケインがおだやかに、その娘アメリア・ブランド博士役はハサウェイが任務に打ち込む女性として、クーパーの娘マーフィー役はマッケンジー・フォイがいじらしく、クーパーの義父ドナルド役はジョン・リスゴーが昔気質の男として、成長した息子トム役はケイシー・アフレックが、成長したのちのマーフィー役はチャステインが演じている。後半、大物俳優のカメオ出演に「えっ!?」と驚かされるのも一興だ。
なかでも個人的に惹かれたのが、軍用ロボットのTARS(ターズ)とCASE(ケース)のキャラクター。いかつくて味気ない関節構造のマシンながら、ジョーク好きのTARSと寡黙なCASEといった個性がそれぞれにあり、いかにもベテランの軍人のようなもの言いをするのがユニークだ。TARSの声は俳優であり、コメディアンでステージ・パフォーマーのビル・アーウィンがいい味わいで表現。彼はTARSやCASEの形をした圧縮空気による液圧式パペッティア装置の操作を特殊効果工房に通ってマスターし、大きなロボットの体のさまざまな部分を動かすコントローラーを巧みに操れるようになったとのこと。撮影現場でアーウィンはその装置を操作し、シーンに応じてTARSやCASEとしてほかのキャストとともに演じたそうだ(CASEの声はジョシュ・スチュワートが担当)。アーウィン曰くTARSのイメージは、「元海兵隊員っぽいユーモア感覚をもつ、白髪まじりの中くらいの階級の将校タイプ」なのだそう。
人間とマシンでありながら、クーパーとTARSの相棒としての関係が中盤〜ラストに強まっていくのも好い。マコノヒーは語る。「ビルのおかげで、TARSがユーモアたっぷりで個性豊かなキャラクターになったんだ。クーパーとTARSの関係を個人的でリアルなものにするプロセスはすごく興味深かったよ。クーパーはTARSのいろいろな点がとても気に入っている。生意気だけど、仕事はきっちりやる、とかね。そして、ある意味でTARSはこの旅におけるクーパーの親友になるんだ」
本作の製作総指揮には、アメリカ物理学会賞の受賞経験をもち、著書『ブラックホールと時空の歪み−アインシュタインのとんでもない遺産(原題:Black Holes & Time Warps: Einstein’s Outrageous Legacy)』で知られるアメリカの物理学者キップ・ソーンが名を連ね、製作現場にも積極的に参加したとのこと。俳優たちが劇中の科学的な概念を理解することも熱心にサポートしたそうだ。なにより、ソーンは理論の映像化にあたり、ロンドンに赴きダブル・ネガティブ社の視覚効果チームとともに、現時点の科学にできるだけ忠実に宇宙の中の“物体”を作ろうと、同社のデザイナーやソフトウエア開発者たちと密に連携したとのこと。映像チームはソーンの方程式を使いながら、宇宙で解明しきれていない物体のひとつである“重力レンズ”を科学的な正確さのもと、高解像度で作ることができたそうだ。ソーンもまた映像化までの過程に心を動かされたそうで、「とにかく驚かされたよ。私に言えるのはそれだけだ。この映画を作るプロセスで、私もブラックホールやワームホールの視覚的な様相に関して興味深いことを学んだよ」とコメントしている。
説明っぽいセリフも少なくなく、ドラマとして入り込みにくいように思えたり、難解に感じる面もあるかもしれない。ただ最新の科学を熱心に学び取り入れ、真摯に製作された作品であることは間違いない。筆者はもともとSF好きなので、観ていて脳の感覚がぶわっと拡大するかのような不思議な昂揚感を感じた。
最後にノーラン監督からのメッセージを。「この映画を作るうえで僕が第一に考えたのは、観客を宇宙に連れていくということなんだ。そしてこれらの新しい世界、新しい銀河を探査している宇宙飛行士たちと同じ気持ちになってもらいたい。観客がすばらしい惑星間移動の壮大な雰囲気を実感できることを、僕は心から楽しみにしている」
公開 | 2014年11月22日公開 新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 2:49 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
原題 | INTERSTELLAR |
監督・脚本・製作 | クリストファー・ノーラン |
脚本 | ジョナサン・ノーラン |
製作総指揮 | エマ・トーマス リンダ・オブスト キップ・ソーンほか |
音楽 | ハンス・ジマー |
出演 | マシュー・マコノヒー アン・ハサウェイ ジェシカ・チャステイン ビル・アーウィン エレン・バースティン マッケンジー・フォイ ジョン・リスゴー ティモシー・シャラメ ウェス・ベントリー トファー・グレイス マイケル・ケイン |
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