ストックホルムでワルツを

シングルマザーの電話交換手がスウェーデンを代表する歌手に!
ジャズの名曲や‘50〜‘60年代の北欧デザインとともに
実在のシンガー、モニカ・ゼタールンドの栄光と挫折を描く

  • 2014/11/28
  • イベント
  • シネマ
ストックホルムでワルツをCarlo Bosco © StellaNova Filmproduktion AB, AB Svensk Filmindustri, Film i Vast, Sveriges Television AB, Eyeworks Fine & Mellow ApS. All rights reserved.

ジャズも野心も恋も家族も、わたしのすべて。母国のスウェーデン語で初めてジャズを歌い人気を得て、北欧を拠点に活躍した女性シンガー、モニカ・ゼタールンド(1937?2005年)の半生を描く。出演は本作が俳優デビューとなるスウェーデン人の歌手エッダ・マグナソン、アイスランド出身の俳優スベリル・グドナソン、スウェーデンのベテラン俳優シェル・ベリィクヴィストほか。監督はデンマーク・アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞しているデンマーク出身のペール・フライ、スウェーデンで脚本家や劇作家として知られるペーター・ビッロが手がけ、北欧で活躍するスタッフとキャストが集結。
 シングルマザーのモニカは、スウェーデンの田舎町で電話交換手をしながら、歌手として地元で活動しスターを夢見ているが……。1950〜60年代のスウェーデンを舞台に、ジャズの名曲の数々、魅力的な北欧デザインのインテリアやヴィンテージ・ファッションとともに、ひとりの女性シンガーの光と影を描く物語である。

スウェーデンの首都ストックホルムから300km離れた田舎町、ハーグフォッシュ。離婚してシングルマザーとなったモニカは、幼い娘エヴァ=レナを連れて実家で両親とともに暮らしている。電話交換手として働きながら、ジャズ歌手として地元の店でステージに立ち、バンドとともに国内でツアーにでることも。モニカは歌手として成功し父ベントにも認められたいと思っているものの、父はエヴァ=レナにさみしい思いをさせているモニカを母親失格だと批判する。そして1960年、いつものように店で歌っていると、ジャズ・ピアニストにして作曲家、音楽評論家としても活躍しているレナード・フェザーから声をかけられ、「ニューヨークで歌わないか?」とオファーを受ける。

モダンジャズを代表するピアニスト、ビル・エヴァンスの曲「ワルツ・フォー・デビイ」のカヴァーで世界的に知られる、モニカ・ゼタールンドの栄光と挫折の軌跡。歌手としての野心と母親としての責任との葛藤、娘と孫を案じるモニカの父ベントとの対立と確執、母国語のジャズでシンガーとして成功するもコンテストでの失敗からアルコール中毒へ……。
 愛娘との時間よりも自身の歌手活動を優先するモニカはいい母親とは到底いえない。それでもそんな母を仕方ないと受け入れ、反発もせずに見つめる幼い娘の姿にしみじみとさせられる。モニカの成功は自身の才能と気概に加えて、実直な両親と理解のある娘と友人たちの支えがあってのことだとよくわかり、その関係は観ていてときにはつらく、時にはとてもあたたかい。

エッダ・マグナソン

モニカ役はエッダ・マグナソンが好演。歌手としての野心と葛藤、歌うシーンをとても自然に表現している。モニカのそばで静かに見守り続ける、ベーシストのストゥーレ役はスベリル・グドナソンが物静かなインテリとして柔和に、モニカの父ベント役はシェル・ベリィクヴィストが昔気質の父親として頑固一徹に演じている。

本作の見どころは、モニカ役のエッダ・マグナソンがステージで歌うシーンの数々。マグナソンは実際に歌手であるため、のびのびとした歌いっぷりは観ていて気持ちがいい。友人シンガーと2人ではじけるように歌う「Hit The Road Jack」、ジャズの名曲「Take Five」に、スウェーデンの詩人ベッペ・ヴォルゲシュの詩をのせて歌った「I NewYork(イ・ニューヨーク)」など、誰もが知るナンバーを軽快に歌っている。世界初、スウェーデン語でジャズを歌い、モニカの代表作といわれている「Sakta Vi Gå Genom Stan(サクタ・ヴィ・ゴー・ジェノム・スタン)」(原曲はナット・キング・コールが歌いヒットした「Walkin' My Baby Back Home」、邦題は「歩いて帰ろう」)も。低迷から再起のきっかけとなった「ワルツ・フォー・デビイ」については、モニカが自身で作ったデモテープを作曲者のビル・エヴァンスに送付したところ、エヴァンス本人から直接連絡が、という実話をもとにしたエピソードが描かれている。

エッダ・マグナソン

’50〜’60年代を描く本作では、当時のアメリカやスウェーデンの背景が映されているのも特徴。アメリカでは人種差別が色濃い時代であり、1960年にモニカがニューヨークのステージに立った際、黒人ミュージシャンと同じ舞台に白人である彼女が立つことが観客の気を害するという理由から、ステージを下ろされた、という事実があったとも。
 一方、この頃の北欧ではデンマークのアルネ・ヤコブセン、フィンランドのアルヴァ・アールト、スウェーデンのオーレ・エクセルらが活躍し、いわゆる“北欧デザイン”全盛期とのこと。カフェや自宅のインテリアや街中の建物のデザイン、登場人物たちの当時のファッションも魅力的だ。

ストックホルムでワルツを

「誰かのマネじゃなく自分の気持ちを歌ったら? ビリー・ホリデイは自分の心で歌ったわ」。初めてニューヨークでステージに立ったのち、エラ・フィッツジェラルドからモニカが言われたこの言葉は、ストレートによく響く。そしてスウェーデンに帰国したモニカは、母国語でジャズを歌い大きな成功を収める――。“禍福は糾える縄の如し”というのだろうか。失敗や挫折をしても、それをバネにして成功への足がかりにする、彼女のタフさと知性と野生の勘たるや。モニカは聖女ではないし、誰もがこんなにもくじけずに何かを追求できるわけではないけれど。なにかと込み入ったことの多い複雑な今の時代には、時には転落したり時には暴発したりしながらも猪突猛進し続けるモニカのタフさがまぶしく見えるような。そんな作品である。

作品データ

ストックホルムでワルツを
公開 2014年11月29日公開
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2013年 スウェーデン
上映時間 1:51
配給 ブロードメディア・スタジオ
原題 Monica Z
監督 ペール・フライ
脚本 ペーター・ビッロ
音楽 ペーター・ノーダール
出演 エッダ・マグナソン
スベリル・グドナソン
シェル・ベリィクヴィスト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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