チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密

イギリスのカルト小説をジョニー・デップ主演・製作で映画化
新キャラ、美術商で破産寸前の英国貴族チャーリー登場!
豪華メンバーによるサスペンス・コメディの行方は?

  • 2015/02/06
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チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密©2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ジョニー・デップが企画から関わりプロデュースを手がけ、英国の作家キリル・ボンフィリオリの小説をもとに新キャラクターとして登場。出演はデップ、映画『アイアンマン』シリーズのグウィネス・パルトロー、『スター・ウォーズ』新三部作のユアン・マクレガー、『トランセンデンス』のポール・ベタニー、『マジック・マイク』のオリヴィア・マンほか。監督は脚本家として知られ、2004年のデップ主演作『シークレット ウィンドウ』の監督・脚本をてがけたデヴィッド・コープ。
 イギリスでゴヤの幻の名画が盗難に。英国諜報機関MI5は、美術品の裏事情に通じる怪しげな美術商チャーリー・モルデカイに調査を依頼する。主役級の役者陣が顔を並べる個性派コメディに期待が高まるものの……果たしていかに。

イギリスのオックスフォードで美術修復家の女が殺され、アトリエからゴヤの絵画が盗まれる。破産寸前のイギリス人貴族にして怪しげな美術商チャーリー・モルデカイは、オックスフォード大学時代からの友人であるMI5の警部補マートランドの依頼を受け、調査を開始。その絵画は第2次世界大戦中にフランスの城からナチスに奪われ、行方知れずとなった幻の名画であり、キャンバスの裏には財宝のありかが記されているという情報を得る。探索を進めるうちに、国際テロリストにロシアン・マフィア、香港マフィアにアメリカの大富豪と、絵画と財宝を巡る熾烈な争奪戦に巻き込まれ……。

コメディって難しい。ギャグがスベり続けるとは、なんてツライことなのか。観終わるとしみじみとさせられる本作。これだけのメンバーで、原作の小説は有名ではなくとも通好みとしてその筋では知られている本で、原作に惚れ込んだインテリ青年が脚本を熱心に書き上げて、デップが懇意にしている脚本家出身のコープが監督をつとめ、とても円満かつ楽しい撮影現場だったとのことなのに。良い要素がこれだけそろい踏みでも、それでも映画として面白いとは言い難い仕上がりになってしまうこともある。全米での観客動員数はかなりの低空飛行で、メディアでは「Mortdecai Is A Box Office Disaster」とも(disasterには災害・惨事のほか、完全な失敗・失敗作という意も)。
 ……全体としてはアレなものの、衣装が凝っていてアクションがユニークという見どころもあるので、豪華な役者陣の顔合わせと個々のシーンを眺めるために観ると考えると、それはそれでいいかもしれない。

ブラッドリー・クーパー

チャーリー・モルデカイ役はデップが大げさにきどった動きやもったいぶった言い回しで仰々しく。自慢の口ひげを櫛でなでつけ、風変わりな美学に酔いしれるさまをユーモラスに演じている。チャーリー・モルデカイの愛妻ジョアンナ役はパルトローがヒゲアレルギーの才女として、モルデカイ夫妻とオックスフォード大学時代からの友人であるMI5警部補マートランド役は、マクレガーがジョアンナを一途に慕う不器用な英国紳士として、チャーリー・モルデカイの用心棒ジョック役はベタニーがご主人様命の忠実な部下にしてタフすぎる不死身の相棒として、またアメリカの大富豪クランプ役はジェフ・ゴールドブラムが、その娘ジョージナ役はオリヴィア・マンが、国際的なテロリストのエミール役はジョニー・パスヴォルスキーが演じている。

チャーリー・モルデカイの生みの親、原作者キリル・ボンフィリオリもまた、風変わりで才能ある人物だったそう。1928年イギリスのイーストボーン生まれ、オックスフォード大学の男子カレッジ、ベイリオルカレッジを卒業後、美術商を営み、俳優、SF雑誌の編集長、作家活動をしたとのこと。剣術もかなりの腕前だったとか。1985年に肝硬変により56歳で他界したそうだ。
 小説は1973年に本作の原作であるシリーズ第1作『Don't Point That Thing At Me(邦題:英国紳士の名画大作戦)』、1976年に第2作『Something Nasty In The Woodshed(邦題:ジャージー島の悪魔or深き森は悪魔のにおい)』、1979年に『After You With The Pistol(邦題:閣下のスパイ教育)』を発表(すべての邦題に「チャーリー・モルデカイ」を冠する)。本作の脚本を執筆したエリック・アロンソンが買ったモルデカイ三部作には、「P.G.ウッドハウスとレイモンド・チャンドラーを足して2で割ったような作品」と書かれていたとのこと。イギリスにはモルデカイ・シリーズのカルト・ファンがいるそうで、俳優のヒュー・ローリーやスティーヴン・フライ、脚本家のジュリナン・バーンズやクレイグ・ブラウンらも。ジョニー・デップもまた、脚本を受け取るより前に原作を読み惚れこんでいたとのこと。デップは原作シリーズについて語る。「大声で笑いだしてしまうほど面白かったよ。皮肉っぽくて狂気じみていたから、うまく映像化できそうだと思ったんだ」

ブラッドリー・クーパー,シエナ・ミラー

そもそもは、本作の脚本を執筆したエリック・アロンソンがモルデカイ三部作を本屋で見つけたことから始まったとのこと。ロンドンで育ち、アメリカのペンシルベニア大学とスタンフォード大学で政治経済を学んだアロンソンは当時、イギリス政府の役人として勤務しているなか、モルデカイ作品と出会い、キリル・ボンフィリオリ作品を管理しているボンフィリオリ家に連絡。そこで映像化の許可をもらうために苦心して脚本を書き上げたそうだ。アロンソンは脚本の執筆について語る。「原作には暗闇が内在しているが、私はコメディの部分をもっと生かしたかったし、現代のアメリカ人観客にアピールするよう一般に通じるものにしたいと思った。自分はイギリス英語とアメリカ英語の翻訳者だと思っている。私はイギリス英語の翻訳が得意だから」。そして脚本をハリウッドでたくさんの人に見せ、何度もボツになりながらもデップの手に渡り、彼が映画化したいと言ったことで、ようやくこの企画が実現したそうだ。

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マクレガーが「本作は1970年代の映画『ピンク・パンサー』を思い出させる」と語る本作。確かに『ピンク・パンサー』は、アメリカ人監督ブレイク・エドワーズがアメリカ映画で英国的コメディを完成させた人気シリーズだ。その趣を目指した、というのはとても魅力的であるものの、容易にできることではないことがよくわかる。サスペンスやヒューマンなど幅広いジャンルの脚本をハリウッドの第一線で手がけてきたアメリカ人のコープ監督が優れたクリエイターであることは間違いなくとも、マニアックな風合いの英国的ご当地風味で練り上げられたこの作品は、個人的に別の監督で観たかった気も……。イギリス人としての愛国精神をコメディにガッチリと落とし込む、映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『HOT FUZZ/ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』のエドガー・ライト、イギリスとアメリカのカルチャー・ギャップをSFコメディに取り入れた映画『宇宙人ポール』のグレッグ・モットーラとか。もっとも、彼らよりお上品なコメディが得意な監督のほうがいいかもしれないけれど。
 この不評ぶりでは、モルデカイ・シリーズの映画化は今回限りだろうか。原作はあと2作品あるし、うまいこといけば楽しい内容になる要素はたっぷりあるので、テコ入れしてリブートしてくれたらいいな、と少し思っているのだけれど、どうだろう。

作品データ

チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
公開 2015年2月6日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 1:47
配給 KADOKAWA
原題 MORTDECAI
監督 デヴィッド・コープ
原作 キリル・ボンフィリオリ
脚本 エリック・アロンソン
出演 ジョニー・デップ
グウィネス・パルトロー
ユアン・マクレガー
オリヴィア・マン
ジェフ・ゴールドブラム
ポール・ベタニー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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