マジック・イン・ムーンライト

尊大なマジシャンが天真爛漫な霊能ガールに挑む?
1920年代の南仏コート・ダジュールを舞台に描く
ウディ・アレン監督・脚本によるロマンティック・コメディ

  • 2015/03/20
  • イベント
  • シネマ
マジック・イン・ムーンライトPhoto: Jack English © 2014 Gravier Productions, Inc.

ウディ・アレン監督・脚本による最新作は、1920年代のヨーロッパを舞台に描くロマンティック・コメディ。出演はオスカー俳優のコリン・ファース、映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエマ・ストーン、映画『ミスティック・リバー』のマーシャ・ゲイ・ハーデン、ベテランの女優アイリーン・アトキンスほか。
 自他ともに認める天才マジシャンのスタンリーは、評判の美人霊能者ソフィが本物かどうか見極めてほしい、と友人から頼まれる。南フランスのコート・ダジュールに広がる美しい景色のなか、偏屈なイギリス人マジシャンと天真爛漫なアメリカン・ガールの霊能者との腹の探り合いに、資産家の御曹司やマジシャンの叔母が加わり……。ある種の男性たちが抱くロマンを投影する展開に好き嫌いが分かれる、ウディ・アレン流のラブ・コメディである。

1928年。1929年に起きる世界恐慌を目前に、黄金の、もしくは狂騒の20年代と呼ばれる豊かな時期。傲慢で自信家のイギリス人男性スタンリーは、中国人の扮装とウェイ・リン・スーの名前で天才マジシャンとして活躍し、今日もベルリンのステージで喝采を浴びている。公演後、楽屋に幼なじみのハワードがやってきて、大富豪のカトリッジ家が夢中になっている美人霊能者が本物かどうか見極めてほしい、とスタンリーに依頼。スタンリーはハワードとともに南仏コート・ダジュールのカトリッジ家の館へ赴き、若く美しい霊能者ソフィと対面する。貿易商と名乗ったスタンリーを、ソフィは“東洋のイメージが浮かぶ”と霊視。館で開かれた降霊会ではカトリッジ家の他界した主人の呼び出しに成功し、現実主義者のスタンリーは混乱しながらもソフィを認め始める。

エマ・ストーン,コリン・ファース

偏屈で皮肉屋のスタンリーは、まさにウディ・アレンそのもの。やや意地悪な見方をすれば、俺様最高アピールをわかりやすく感じさせる作品であり、良心的な見方をすれば、シェイクスピアの物語などにある“人って馬鹿だけどそこがかわいいよね” “恋とはそういうものさ”というテーマを思い出すような。このストーリーは女性をバカにしている、という向きもあるようだが、1928年というと、女性はよほどの才覚と自立心がある場合を除いて、現代の女性ほど生き方の選択肢をもつことができなかった時代。こういう展開で人物を描きたいためにこの年代にしたのでは、と思ったりも。筆者はアレン贔屓なので、恋とはかわいらしい女の子だけがするものだけでなく、どんな偏屈なオッサンでも桁外れの富豪でもこんなふうになることも、という描写がそれなりに面白かったものの、一般的にはどうだろうか。

天才マジシャンのスタンリー役はファースが皮肉っぽくもユーモラスに。霊能者のソフィ役はストーンがチャーミングに表現。スタンリーの幼なじみのハワード役はサイモン・マクバーニーがどこか影の薄い様子で、ソフィの母親役はハーデンがやり手マネージャーとして、ソフィに惚れこむ大富豪の御曹司ブライス役はハミッシュ・リンクレイターがどこまでも優しく、ブライスの母親グレース役はジャッキー・ウィーバーがおっとりと、スタンリーの婚約者オリヴィア役はキャサリン・マコーミックがくっきりとした女性として、それぞれに演じている。またベルリンのキャバレーで歌うシンガー役として、ドイツ出身の歌手で女優のウテ・レンパーの出演も。

風景やファッションなど、美しい映像は見どころのひとつ。クラシックのオープン・カーでドライブ、紺碧の海が広がる景色、バラの小道や庭のブランコなど、1920年代のゆったりとした豊かな雰囲気が味わえる。 スタンリーとソフィが雨宿りに入る天文台は、フランスのニース、モン・グロの頂上にあるコートダジュール天文台(旧・ニース天文台)で撮影したとのこと。この建物はパリ・オペラ座(ガルニエ宮)を手がけた建築家シャルル・ガルニエが設計し、メインドームはエッフェル塔の設計者ギュスターヴ・エッフェルが設計を手がけ、1887年に建設。今も研究機関の施設として機能しているそうだ。天文台のシーンは、俗世と切り離された異空間のような特別な雰囲気を醸し出し、この映画のタイトルをシンプルに表す映像となっている。

エマ・ストーン,コリン・ファース

恋は人を幸福にすることもあれば、失望や絶望につながることもあり。そこは当事者の心のタフさと生き方の手腕が試されるところだったりして。ウディ・アレンは語る。
「誰かに出会ってその人にたちまち魅了されてしまうというのは、説明のつかないことだ。人はそこに理由を見つけようとする。その人のスタイルが好きだ、ユーモアのセンスが好きだ、考え方が好きだ、容姿が好きだ、とね。でも結局のところ、理由は絶対わからない。なぜなら同じスタイルで同じユーモアのセンスで、いろいろ同じだったとしても、別の相手には魅了されないからだ。恋はとても複雑だ。なぜならそれは実体のないものだから」
 現実主義者でペシミストというアレンが唯一、経験として納得し実在すると認めている世にも不思議なマジックが恋、ということか。この映画の結末が多くの女性から「ないわー」と思われるものだったとしても、アレン自身に成功体験があるから描き倒せてしまうのだろうな、とか、「蓼食う虫も好き好き」と言うし、とか。

エマ・ストーン,コリン・ファース

ウディ・アレンの次回作はアメリカを舞台にしたミステリーで、エマ・ストーンが2作続けて出演、個性派俳優のホアキン・フェニックスの出演が発表されているとのこと。79歳にして第一線で淡々と活動し続ける気力とパワー、これもまた、枯れることも懲りることもなく湧き続ける煩悩とともに、一生現役の恋愛体質を誇るアレンの成せる技、ということかもしれない。

作品データ

マジック・イン・ムーンライト
公開 2015年4月11日公開
新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 アメリカ=イギリス
上映時間 1:38
配給 ロングライド
原題 Magic in the Moonlight
監督・脚本 ウディ・アレン
出演 コリン・ファース
エマ・ストーン
アイリーン・アトキンス
マーシャ・ゲイ・ハーデン
ハミッシュ・リンクレイター
サイモン・マクバーニー
ジャッキー・ウィーバー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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