『マトリックス』以来、ウォシャウスキー姉弟の完全オリジナル
ロシア移民の女性が宇宙の覇権争いの鍵を握る!?
アクション×ロマンスのSFエンターテインメント
『マトリックス』以来16年ぶりに、ラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督が完全オリジナル・ストーリーによる新作を発表。出演は映画『フォックスキャッチャー』のチャニング・テイタム、映画『ブラック・スワン』のミラ・クニス、今年『博士と彼女のセオリー』でオスカーを受賞したエディ・レッドメイン、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のショーン・ビーン、『クラウドアトラス』のペ・ドゥナほか。脚本・監督・製作はウォシャウスキー姉弟、クリエイティブ・チームは監督と長年コラボレーションをしてきたスタッフが集結し、視覚効果監修はダン・グラス、視覚効果デザインはジョン・ゲイターというマトリックスのスタッフが担当。
ロシア移民としてアメリカで貧しい暮らしをしているジュピターは、謎の襲撃に遭い、宇宙を統べる女王の生まれ変わりであると知らされる。美しい景色と美術セット、作り込まれたCGや視覚効果で魅せるSFアクションである。
ロシアからアメリカに向かう船の中、星空に見守られながら洋上で生まれたジュピター。成長したジュピターは母や親戚とともにアメリカで家政婦をしながら、貧しく忙しく単調な日々をやりすごしている。そんな折、突然謎の生命体から襲撃を受けて殺されそうになったジュピターは、見ず知らずの強靭な戦士ケインに助けられる。そしてジュピターは宇宙を統べる女王の生まれ変わりであり、宇宙最大の王朝の覇権争いの渦中にいることを告げられる。
SFアクション、シンデレラ・ストーリー、ロマンス、という幕の内弁当さながらのいいとこどりで、シンプルに楽しめるSFエンターテインメント。キャラクターひとつひとつの衣装やメイクが凝っていて細かい設定や背景がたくさんあるものの、そこまで追いきれないという少しもったいない部分も。物語もキャラクターも魅力はあるものの、『マトリックス』ほどの衝撃があるとは言い難く、キレイにまとまっているイメージだ。
『マトリックス』といえば180度回転する斬新で画期的な撮影技法などが開発され、主演のキアヌ・リーブスを筆頭にSFにハマるどこか浮世離れした俳優陣がいて、さまざまなことが劇的に重なって化学反応が弾けた伝説的な作品なので、そこと比べるものではないかもしれない。
本作はシカゴの夕暮れをはじめとする美しい風景、いろいろな星々や宇宙船などのビジュアル、古代ローマのようなクラシックと近未来を掛け合わせたインテリアや衣装の数々など、凝った映像が見どころだ。
ケイン役はテイタムが勇猛かつ忠実に。オオカミのDNAとの組み合わせにより突出した戦闘能力をもち、一流の戦士らしい戦いぶりを披露している。ジュピター役はクニスがタフな女の子として。貧乏な労働者だったため宇宙の女王としての自分に戸惑い、覇権争いの最中サバイバルしながら恋をするという忙しいキャラクターを熱心に演じている。個人的にテイタムとクニスの肉体や存在感には生身の人間らしさや現実味がくっきりとあり、SFストーリーとの(あえての?)ちぐはぐさに不思議な感覚を覚える。
ケインの元上司で昔なじみのスティンガー役はビーンが渋く、覇権争い3兄弟の長女カリーク役はタペンス・ミドルトンが気だるく、長男バレム役はレッドメインが優秀かつ冷徹に、次男タイタス役はダグラス・ブースが享楽的に、ジュピターの命を狙う賞金稼ぎのラゾ役はペ・ドゥナ、ジュピターの父役はジェイムズ・ダーシー、ふくろうのDNAをもつカリークの側近マリディクテス役はティム・ピゴット=スミスが演じている。
前半の見どころは、ジュピターをめぐりケインと賞金稼ぎが激しく戦う戦闘シーンだろう。ジュピターを抱え、攻撃し続ける刺客をかわしながら、重力を自在に操るローラーブレードふうのブーツでテイタムが宙を舞うバトル・シーンだ。さまざまな戦闘機や宇宙服など戦闘シーンの数々はどれも作り込まれている。
また、さまざまな個性のある星々が登場するのも本作の魅力のひとつ。個人的に可笑しかったのは、入国審査ならぬ入星審査のために訪れる連邦本部・惑星オーロスのくだりだ。大昔に人類が生まれた場所であり、現在は登記所として機能しているというこの惑星は妙にアナログな雰囲気が特徴。ジュピターとケインは並ばされ、たらいまわしにされ、袖の下を渡し、ようやく王家の紋章印を管理する窓口へ。その紋章を受け持つよぼよぼの大臣役として、俳優・脚本家・監督として知られるテリー・ギリアムが出演しているところがたまらない。ギリアムは語る。「気難しい老いぼれじいさんを演じるのはけっこう楽なもんだよ。私がカメラの前で何かしたのはじつに久しぶりだったが、ウォシャウスキー兄弟から、『未来世紀ブラジル』風の世界で、化石みたいな役人をやってくれないかと頼まれたら、嫌だと言えると思うか? 私は前から彼らのファンなんだよ。彼らは頭がいいし、実にすばらしい作品を作る」
ジュピターとは木星を指し、木星は占星術では幸運の星とされていて。またローマ神話では最高神ユピテルの英語名でもあるとのこと。原題『JUPITER ASCENDING』には、少し前にスピリチュアリストの間で“ascension”という言葉がよく用いられ、「これから世界の次元や意識が大きく上昇する」と話題になっていたことを思い出したりも。
本作のストーリーについてラナが語る。「『マトリックス』三部作に10年ほどの時間を費やした後で、私は両親の家で感謝祭を祝い、その休暇の間にホメロスの『オデュッセイア』を読んだの。その後、家族で『オズの魔法使い』を観たんだけど、このふたつのストーリーは、とくに“故郷”の概念がとてもよく似ていることに私は驚いたわ。故郷を説くのは引力の中心であり、人が自分自身を理解する手がかりのひとつなのよ。故郷に戻ると、自分がどう変わったか、そしてどんな点が以前と変わらないかについて考えさせられるものよね。そう考えたときにアンディと私はハッとして、ジュピターのキャラクターを考え始めたの。幸せではなく、日々の退屈な仕事から逃れられないと感じている女性。そんな彼女が宇宙で飛び立ち、自分について学んでゆく。それはちょうど、人生に不満を抱いている人の多くが、自分がほしいもの、自分に必要なものを見つける旅に出ると、戻ってきたときには、自分の起源に対して新しい視点と感謝の気持ちをもつようになるのと同じよ」
ウォシャウスキー姉弟のこれからの活動は、2015年からスタートするアメリカのネットフリックス用SFドラマ・シリーズ『Sense8』で、ほかのフィルムメーカーたちと共同で脚本・監督・製作総指揮をつとめるとのこと。引き続き、ウォシャウスキー姉弟の活動に注目したい。
公開 | 2015年3月28日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 2:07 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
原題 | JUPITER ASCENDING |
脚本・監督・製作 | ウォシャウスキー姉弟 |
出演 | チャニング・テイタム ミラ・クニス ショーン・ビーン エディ・レッドメイン ダグラス・ブース タペンス・ミドルトン ペ・ドゥナ ジェイムズ・ダーシー ティム・ピゴット=スミス |
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