小さな世界はワンダーランド

原生林で暮らすシマリスと砂漠に生きるスコーピオンマウス
若い彼らが挑む闘いと冒険、野生の姿を最新の機材で撮影
BBCアースがピクサーの協力を得て贈るマジック・ワールド

  • 2015/04/27
  • イベント
  • シネマ
小さな世界はワンダーランド© BBC 2014

ネイチャー・ドキュメンタリーの映画『アース』『ライフ−いのちをつなぐ物語−』『ネイチャー』などを製作してきたBBCアースが、ピクサー・スタジオの協力を得て製作した作品。主役は北東アメリカの温帯落葉樹林に暮らす体長約10cmのシマリスと、アリゾナのソノラ砂漠で生きる体長約8cmのスコーピオンマウス。手つかずの自然や大きな生き物たちなどをダイナミックに撮影してきたこれまでの映像に対して、今回は小さな生き物たちの視点から、彼らの暮らす世界と冒険、成長を描く。
 監督・脚本・製作は第59回プライムタイム・エミー賞のノンフィクション・シリーズ部門にて作品賞を含む4部門を受賞したBBCのドキュメンタリーシリーズ『プラネットアース』を手がけたマーク・ブラウンロウ、脚本・製作は映画『ライフ−いのちをつなぐ物語−』の共同監督を務めたマイケル・ガントン。小さな生き物たちが果敢に生きる姿に惹きつけられるドキュメンタリー作品である。

北東アメリカに広がる神秘的な原生林で暮らす若いシマリスは、冬支度に余念がない。たくさんの食料を蓄えることで死なずに越冬できる、とても重要なことだからだ。若いシマリスが天から降ってくる大好物のどんぐりをせっせと集め、住み処に充分に蓄えた晩秋の頃、見知らぬ年長のシマリスによってそれらのどんぐりがほぼまるごと、その巣からごっそりと盗まれてしまう。
 一方、生き物が生き抜くにはとても厳しい環境にあるアリゾナのソノラ砂漠。子ねずみたちが母ねずみに育てられている。小さな体でありながらさそりの毒への耐性をもち、サソリやトカゲ、ムカデ類などを捕食する姿がいさましい、スコーピオンマウスことバッタネズミだ。そしてある日、好奇心旺盛な1匹の子ネズミは巣にいる兄弟たちから離れ、単独で外の世界へ。そこはガラガラヘビやハリスホークに獲物として狙われ、スコールが降れば小さい体が飲み込まれるほどの濁流が押し寄せる危険な場所だった。

小さな動物と彼らの目線による景色を最新の特殊な機材で根気よく撮影し、独特の世界をとらえたドキュメンタリー作品。ピクサー・スタジオとは、製作陣がアニメーションなどにより小動物の生態を描く多くの専門家と話をしていくなかで出会い、ストーリー構成やキャラクター設定などのアイデアの部分でサポートを得たとのこと。アニメーションのシーンがあるわけではなく、映像はすべて実在する自然を撮影したもので構成されている。

小さな世界はワンダーランド

本作のメイン・キャラクターに若いシマリスとスコーピオンマウスを選んだ理由について、脚本・製作を手がけるマイケル・ガントンは語る。「1つ目に彼らの生きている世界がとても不思議であること、2つ目はどちらも超常能力ともいうべき身体能力(空中に飛び上がる、映画『マトリックス』並の身のこなし、ガラガラヘビに勝る反射神経など)を持っていること、3つ目は私たちが映像の中で捉えた彼らの驚くべき日常に、人間が生きていくうえで直面するであろう難題と共通するものが存在していたからです。本作では彼らの日常がとてもエキサイティングであり、彼らに備わっている驚異的な能力に驚くことでしょう。ぜひ、このすべての動物がヒーローの不思議な世界に、皆さんの想像力を連れて行ってもらいたいです」

まず登場するのは若いシマリス。原生林をリズミカルに跳ね回り、口いっぱいにどんぐりをほおばって運ぶ姿がなんとも愛らしい。この北東アメリカの温帯落葉樹林では、哲学的なたたずまいに目がギラリと光るアメリカワシミミズク、立派なツノをもちどんぐりを好むヘラジカ、そしてアメリカアカガエル、アカトンボ、スポットサラマンダー、カタツムリなどが登場する。
 そして巣から単独で外界へ出る小さな子ネズミことスコーピオンマウスは、自立心旺盛でたくましい。外敵から敏捷に身をかわし、たくさんの危険が潜むなかを気ままに動き回る姿にハラハラドキドキの連続だ。このアリゾナのソノラ砂漠ではほかに、大きな口をぱっくりと開けて獲物に迫るニシダイヤガラガラヘビ、鋭い爪とくちばしをもち仲間と集団で狩りをするハリスホーク、毒針で闘いを仕掛ける飴色のボディのデザートヘアリースコーピオン、そしてシマオトカゲ、クビワトカゲ、リーガルツノトカゲなどの姿がとらえられている。 

映像は体長8cm〜10pの彼らの目線でとらえられ、とてもユニークだ。特にスローモーション映像が秀逸で、落下するどんぐりがゆっくりと天から降ってくる冒頭のシーン、人間の肉眼では一瞬となるシマリスのバトルは興味深い。撮影では小型のスーパーハイスピードカメラや潜望鏡レンズ、3D映像で超マクロ撮影が可能な特製ストレート型スコープを使用したとのこと。毎秒100フレーム以上の撮影が可能な超高速カメラを使用することで、人の肉眼では正確に認知しにくい動物や自然界の微細な動きを正確に撮影。動物たちの行動の多くは初めて映像に記録されたものであり、これまでに動物学者や現地調査をした人々が目撃したことはあっても映像にとらえることはほぼ不可能たった生態が、今回の撮影で明らかになった、と脚本・製作のガントンが語っている。
 生物学的に価値の高い記録であることはもちろん、その内容をスローモーションで映し出すことで、現実の映像でありながらどこか異世界のような非日常の風合い、ファンタジーに似た感覚が味わえる仕上がりとなっている。
 撮影には基本的に照明を使わない超高感度カメラが使用され、夜間撮影で照明を導入する場合は明るさの度合いを徐々に引き上げていくなど、動物たちを尊重して慎重に行われたとのこと。対象となる動物にカメラに慣れてもらうことに長い時間を費やしたそう。また機材に頼るだけではなく、動物の行動を熟知した大勢の専門家のサポートがあって製作されているとも。
 こうした撮影で必要なのは長い時間と相当な忍耐、と前述のガントンは語る。たとえばシマリスの巣穴に張り込み、出入りする場面やライバルと戦う場面まで根気よく待つことで撮影に成功したとのこと。なかでもシマリスやスコーピオンマウスのなかでどの個体がヒーローになれるかを見極めるのに、長い時間をかけたそうだ。

小さな世界はワンダーランド

良質なネイチャー・ドキュメンタリーを手がけることで信頼の厚いBBCアースとは?1922年に設立されたイギリスの公共放送局、英国放送協会ことBBC(British Broadcasting Corporation)内で、ネイチャー関連の番組制作を担う部門のナチュラル・ヒストリー・ユニット(NHU)が'57年に設立。'99年の映画『ディープ・ブルー』や'08年の『アース』をはじめテレビ番組や映画など数々のドキュメンタリー・コンテンツを製作。そしてNHUをさらなる世界的なブランドとし、マルチなプラットフォームで展開していくようNHU内に'09年に創立されたグローバルブランドが「BBC EARTH」だそう。BBCアースが初めて手がけた映画が'11年の映画『ライフ−いのちをつなぐ物語−』であり、'14年の『ネイチャー』でも大きな成功を収め、現在に至るそうだ。
 野生動物を撮影する通常の作品ではほとんど描かれることのない、小さな生き物の生態と目線に着目した本作は、エキサイティングな手法だと認められ、BBC史上で最も革新的なプロジェクトのひとつとして局内でも高い評価を得たとのこと。
 ドキュメンタリーというと、フィクションのエンターテインメント作品と比べると地味で退屈、テーマ性に興味のある人々のためだけのもの、というイメージを払拭したBBCアース。その作品は映像の美しさはもちろん、編集や構成、音楽との組み合わせなどの芸術性が高く、学術的な価値のある映像とその内容をわかりやすく丁寧に伝えるナレーション、そして洗練された演出センスによって力強い魅力を打ち出すことが大きな特徴。世界中の人々に自然と生き物、地球の今を伝えるBBCアースのプロジェクトが今後も大いに楽しみだ。

「ジャイアント・スクリーン・フィルム」の日本で劇場公開シリーズ第1弾という本作。「ジャイアント・スクリーン・フィルム」はIMAXシアターやプラネタリウム、大型の博物館などの大スクリーンで4K以上の高画質で上映され、平均上映時間40分で描かれる形態の総称とのこと。本作の上映時間も44分とコンパクトなので小さな子どもたちも飽きずに楽しめるかも。ママ仲間と子どもたち、ファミリーで観るのもおすすめだ【子供¥500(4歳以上)、大人(高校生以上)¥1000】。日本語のナレーションは、映画ファンで知られ映画ナレーターは初となる俳優の斎藤 工が担当している。

小さな世界はワンダーランド

厳しい環境下、ほんの8cm〜10pの小さな体ながら堂々と生き残る個体のいさましさがよく描かれている本作。小さきものが冒険に挑み果敢に闘い生き抜くひたむきさ、無心のパワーが痛快だ。
 脚本・製作を手がけるマイケル・ガントンは本作のクライマックスのシーンについて、「映画『インディ・ジョーンズ』を思い出します」とのこと。不思議なマジック・ワールドに迷い込んだようでもあり、人間は彼らよりも大きいし丈夫だし住みやすい環境にいるのだからがんばろう、という謙虚な気持ちになるような。子どもたちにとっては生き物をいたわる気持ちや前向きな心、勇気にもつながりそうだ。

本作の監督・脚本・製作を手がけたマーク・ブラウンロウが初来日し、2015年4月23日にApple Store銀座店で開催されたイベント「Meet the Filmmaker」に登壇した際、本作についてこのように語った。「この映画を通して小さな生き物のことを知ってほしい、普段はあまり目にしないので気づかないかもしれないけれども、彼らも生態系のひとつであって、食物連鎖のひとつ。この世界に必要な存在なのです。小さな動物も大切に思ってもらえると嬉しいです」

作品データ

小さな世界はワンダーランド
公開 2015年5月9日公開
TOHOシネマズ 新宿ほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2014年 イギリス
上映時間 44分
配給 ギャガ
原題 TINY GIANTS3D
監督・脚本・製作 マーク・ブラウンロウ/td>
脚本・製作 マイケル・ガントン
製作総指揮 アマンダ・ヒル
ネイル・ナイチンゲール
出演 スコーピオンマウス
シマリス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。