海街diary

原作・吉田秋生×監督・脚本・編集・是枝裕和
四姉妹の複雑なわだかまりと心を通わせてゆく姿を
移りゆく鎌倉の季節とともにゆったりと映す物語

  • 2015/05/08
  • イベント
  • シネマ
海街diary© 2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

2007年の第11回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門優秀賞、'13年のマンガ大賞を受賞した吉田秋生の人気コミックを、『そして父になる』の是枝裕和監督が映画化。出演はドラマ『きょうは会社休みます。』の綾瀬はるか、'11年の『奇跡』に次ぐ是枝作品への出演となる長澤まさみ、ドラマ『みんな!エスパーだよ!』の夏帆、'13年に『謝罪の王様』で映画デビューした広瀬すず、そして大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー、樹木希林ほか。
 鎌倉に住む三姉妹に、15年前に家族のもとをよその女性と去った父の訃報が届く。そして中学生の異母妹がいることを知り……。姉妹が複雑な家族間のわだかまりとそれぞれの自身の葛藤に向き合い、徐々に心を通わせてゆく姿を、古い日本家屋に流れる時間とともにおだやかに描く。移りゆく鎌倉の季節と、四姉妹と周囲の人々との1年をゆったりと映す物語である。

ある夏の朝、鎌倉で暮らす三姉妹のもとに父の訃報が届く。父は15年前に家族を捨てて別の女性を選び、母もまた再婚して北海道へと移り住み、祖母の鎌倉の家で祖母亡きあとも三姉妹でずっと暮らしてきた。父は女性との間に三姉妹の異母妹となる娘がいて、その女性と死別した後、別の女性と再婚し病死したという。父の訃報に長女の幸はピリピリしているものの、次女の佳乃と三女の千佳にとって15年前に去った父の記憶は薄く、特別な感情は何もわかない。看護師で忙しい幸は、山形で行われる葬式に佳乃と千佳を行かせ、式当日に会場に着く。中学生の異母妹すずと初めて対面した三姉妹は、冷静で年齢よりも落ち着きがありながら、父の死を心から悼む姿に触れ、すずが自分たちの妹であると実感。幸はすずに思わず、「鎌倉で一緒に暮らさない?」と声をかける。

三姉妹が異母妹の四女を迎えともに暮らし始め、四姉妹の鎌倉での1年を描く作品。'07年に原作コミックの第1巻を読み物語に魅了された是枝監督は、「どうしても自分の手で映画にしたい」と思ったとのこと。
 原作者の吉田氏は映画化にあたりこのようにコメントしている。「映像化のお話はいろいろいただいていましたが、一番に手を上げて下さっていた是枝監督にお任せすることにしました。私自身、是枝監督の処女作品からのファンでしたし。スクリーンの香田姉妹、私も会うのが楽しみです」また吉田氏は映画化について、「原作を気にせずに自由に展開してください」と是枝監督に話したとのこと。監督は原作のキャラクターやエビソードを整理し、原作に対する自身の解釈や取材に基づき、四姉妹の生活感やディテールをふくらませていったそうだ。

夏帆,広瀬すず,綾瀬はるか,長澤まさみ

実質的な家長ですずの保護者となる長女の幸役は綾瀬はるかがしっかり者として、次女の佳乃役は長澤まさみがセクシーなサービスショット満載で恋愛体質の妹キャラとして、三女の千佳役は夏帆がのほほんとマイペースに、異母妹の四女・すず役は広瀬すずが素朴で賢く原作のキャラクターそのものの雰囲気で、それぞれに四姉妹を好演している。美人のグラマー三姉妹+純朴なかわいい妹という、ある種の“男の夢”を見事に具現化しながら、女性が嫌悪を感じるような視点や感覚はない。登場人物の心の動きや人間模様を丁寧にとらえることに主眼をおく、是枝作品の深みのある持ち味と、『そして父になる』に次ぐコラボレーションとなる撮影監督・瀧本幹也の映像が、姉妹の暮らしを生き生きと映し出している。
 姉妹を気にかける祖母の妹である大叔母役は樹木希林がどっしりした塩梅で、三姉妹の母役は大竹しのぶがたよりなく、幸の同僚の小児科医・椎名役は堤真一が、佳乃の勤める銀行の同僚・坂下役は加瀬亮が、ご近所のみんなが通う海猫食堂の店主・二ノ宮役は風吹ジュンが、喫茶店 山猫亭の店主・福田役はリリー・フランキーが演じ、各人がいい味わいで表現している。キャスティングについて監督は語る。「上手い役者は主役も張れるけど脇にも回れる。自分だけがいい芝居をするのでなく、物語の中でちゃんと生きて主演を立たせることができる、そういう俳優陣を配置させてもらいました」

余談ながら個人的に感慨深いのが、すずの同級生でともに所属するサッカークラブのチームメイトである風太役を演じた14歳の前田旺志郎。'11年の是枝作品『奇跡』に兄弟漫才コンビ“まえだまえだ”の兄・前田航基とともに兄弟役で出演したときにはまだ幼さが残るやんちゃな感じがあったものの、今回はすっかり思春期の少年になっていて。「大きくなって…!」と物語とは別のところで、個人的に親戚のおばちゃんのようなほのぼのとした気分になった。

長澤まさみ,広瀬すず,綾瀬はるか,夏帆

原作者の吉田氏は映画化への唯一の要望として、「季節の移ろいを大事にしてください」と監督に話したとのこと。監督も当初から鎌倉の四季を追いたいと考えていたそうで、劇中には古い日本家屋の庭をはじめ、季節感が豊かに表現されている。とくに春〜夏にかけてのシーンが印象的で、春に咲き誇る桜の道、初夏〜夏に収穫する梅の実、浴衣姿で花火をする四姉妹と、あたたかなぬくもりのある場面に心がなごむ。

「四姉妹を中心とした女性たちの物語」と是枝監督が語る本作。真面目でしっかり者でよく似た性分の長女と四女は互いを姉妹として尊重しながらも、過去の出来事を両側面からとらえ、それぞれに苦しむ。幸は自分たちを捨てた両親を許すことができず、すずは実母を恋しく思いながらも、略奪により姉たちの家族から父を奪い生まれた自分を許せない、と。家族だからこそのわだかまりに向き合い、周囲のサポートなどいろいろなことを経て心を通わせてゆく変化が静かに描かれている。
 また監督はこの映画について、「登場人物の背筋の伸び方が小津(安二郎監督の作品)に近いんです」とも。映画では家族の物語をメインに、三姉妹の恋があり少年少女の青春があり。原作と比べると吉田秋生ならではのコメディの要素はあまりなく、ほどよくしっとりとした“昭和”の質感が心地よく、いかにも是枝作品という世界観がしっかりと根を張り美しく広がっている。

本作は、'15年5月13日〜24日に開催される第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品が決定したとのこと。このことについて是枝監督は語る。「前作『そして父になる』が僕自身9年ぶりのコンペ出品だったので、今回また選ばれたことは、正直驚きでした。素直に嬉しいです。国際映画祭はゴールではなく、より多くの人々に映画を届けるためのスタートだと考えていますし、なかでもカンヌはその出発点としては最高の場所だと思っています。四姉妹と一緒にその始まりを体感できたら、と思います。一見すると、おだやかな春の海のようなこの映画があの場所でどのように受けとめられるのか。今から楽しみです」

長澤まさみ,広瀬すず,綾瀬はるか,夏帆

最後に、吉田氏のコメントを映画のプレスシートよりご紹介する。
「是枝さんが何かのインタビューで『気がつくと親に捨てられた子供の話ばかり撮ってる』とおっしゃっていたことがあった。是枝『海街diary』を拝見して、あ、これは親を捨てた子供の物語だな、と思った。親がいない。それがどうした、どっこい生きてる。生きる力を取り戻す話なんだ、と。
 そのために必要な場所や時間や人の営みを是枝さんはとても、とても丁寧に描き出してくれている。もちろん、いいことばかりじゃない“ざわざわ”も。それでもアジフライを美味しいと思い、お姉ちゃんたちにタメぐちをきき、仲良しの男子のチャリケツに乗って桜のトンネルを疾走する。世界が再び輝きだす。
 あの桜のシーンはあまりにも美しかった。幸福な時間だった。そしてなんかちょっぴり、くやしかった(笑)」

作品データ

海街diary
公開 2015年6月13日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 日本
上映時間 2:06
配給 東宝 ギャガ
脚本・監督 是枝裕和
撮影監督 瀧本幹也
原作 吉田秋生
音楽 菅野 よう子
出演 綾瀬はるか
長澤まさみ
夏帆
広瀬すず
加瀬亮
鈴木亮平
池田貴史
坂口健太郎
前田旺志郎
キムラ緑子
樹木希林
リリー・フランキー
風吹ジュン
堤真一
大竹しのぶ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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