グローリー/明日への行進 試写会日記 毎週、あつた美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
グローリー/明日への行進

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マーティン・ルーサー・キング・Jrの死から47年――

メジャー映画初、彼が尽力した投票権制定までを描く

人種差別や不当な弾圧のない社会の大切さを訴える人間ドラマ

1963年の名演説「I Have a Dream」で知られ、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として'64年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jrことキング牧師の実話をもとに描く作品。出演は映画『大統領の執事の涙』『インターステラー』のデヴィッド・オイェロウォ、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のトム・ウィルキンソン、『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』のティム・ロス、人気司会者でありアメリカにおける成功したアフリカ系女性として絶大な支持を誇るオプラ・ウィンフリーほか。監督・製作総指揮は、2012年の映画『Middle of Nowhere』でサンダンス映画祭の監督賞を受賞したエヴァ・デュヴァネイ、脚本は舞台や映画を手がけるポール・ウェブら実力派が名を連ねる。
 1965年3月7日のアメリカ、アラバマ州セルマで起きた事件“血の日曜日”とは? この出来事を経て世界に人種差別の現状を知らしめ、アメリカにおける投票権法制定に至るまで。当時の資料をもとに誠実に描き、人種差別や不当な弾圧のない社会の大切さを改めて問いかける人間ドラマである。

 1964年、アメリカで公民権の制定や施行を求める活動によりノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.は、本当の意味の平等が現実に未だないことを痛感している。公民権法の制定によりアメリカの人種差別は法律上“廃止”されたが、南部では以前と変わらずに何千人もの黒人が殺され、選挙権を得るために黒人が有権者登録をしようとすると白人たちから理不尽な妨害を受け却下され続けていた。
 1965年、キング牧師はリンドン・B・ジョンソン大統領に黒人の選挙権を保障する法律を求めるも拒否され、同志たちとともに黒人差別が最も根深いアメリカ南部アラバマ州のセルマで非暴力によるデモ行進、交渉を行うことを決める。アラバマ州知事は「人種隔離政策こそが理想」と強硬に宣言し行進を禁止。非武装のデモ参加者である祖父と母をかばった26歳のジミーを州警察に射殺され、キング牧師はセルマからモンゴメリーまで80キロの行進を表明。3月7日に525人の黒人が行進を始めると、州警察と民兵隊が短い警告の後に警棒で黒人たちを次々と殴り倒し、催涙ガスの煙に巻かれ血を流し泣き叫ぶ黒人たちの映像はテレビ中継され全米から世界に報道。この出来事は“血の日曜日”として知られるようになる。

アメリカの歴史の暗部や、アフリカ系のバラク・オバマ氏が大統領を務める現在のアメリカで再び顕在化している問題の根に触れる本作。この作品は企画から映画化まで8年の歳月がかかったとのこと。アメリカで黒人の選挙権が最初に認められたのは1870年であるものの、その後100年近く黒人の選挙権は組織的に妨害され続けていたという事実。アメリカの警官がアフリカ系の民間人を暴力で制する姿は、ここしばらくニュースで何度も見る映像であり、劇中ではフィクションとわかっていても観ると胸が痛む。

グローリー/明日への行進

キング牧師役は、2015年にキング牧師が亡くなった年齢の39歳となったオイェロウォが熱演。説得力のあるスピーチから、非暴力で理を通すための政治家との駆け引き、脅迫に耐え家族に理解を求める様子など、ひとりの大人の男としての公私の姿を丁寧に演じている。リンドン・B・ジョンソン大統領役はウィルキンソンが政治家らしく世情を読む人物として、アラバマ州知事のウォレス役はロスが傲慢な人種差別主義者として、デモ行進の際に保安官に暴行され右フックで応戦しながらも、報道陣のカメラの前で地面に押さえつけられ逮捕された実在の女性アニー・リー・クーパー役はウィンフリーが力強く演じている。
 容易ではなかった製作を進めるなか、ウィンフリーは熱心なサポートで企画を後押ししたとのこと。オイェロウォが『大統領の執事の涙』の共演で知り合ったウィンフリーに、キング牧師を演じる夢について語ったことが本作の企画を進める上で重要な転機となったとも。オイェロウォはこの時のことをこのようにコメントしている。「彼女は『何としても実現させなきゃ』と言ったんだ。そのために必要なことは何でもすると。それがロケット燃料だったね。その瞬間から企画にギアが入ったんだ」。そしてウィンフリーはこのように語っている。「デュヴァネイ(監督)とオイェロウォに手を貸す機会を見逃すなんてできなかった。この物語は、とりわけ今語られる必要がある。私がこの映画に参加した理由は、人は自らの過去を知らなければ未来を知ることができないからよ」

キング牧師の死から47年。これまでメジャー映画で、キング牧師の人生や投票権運動がメインテーマとなった作品はなく本作が初めてとのこと。デュヴァネイ監督は語る。「キング牧師の死後45年以上の間、彼を主役にした長編映画が1本も作られなかったというのには、唖然とするわ。でも今ここまでたどり着くことができて本当に良かった。私たちは、キング牧師というと聖人的なイメージを思い浮かべがちね。でも彼はまず1人の人間だった。周囲と複雑な関係をもつ、きわめて人間くさい人間だったの。そして、私たちが今日享受している自由のために闘って、39歳で亡くなった1人の男だった。彼の神話化された人物像を解きほぐせば、彼の精神力は、私たちが自らの内にももっているものなんだと気がつくはずよ」

デヴィッド・オイェロウォ,カーメン・イジョゴ

脚本の執筆には、 “要注意人物”としてキング牧師をマークしていた、ジョン・エドガー・フーバー長官率いるFBIの17,000ページにおよぶ監視記録を資料として用いたとのこと。キング牧師側からの視点に加え、政府側、民衆サイドなどそれぞれの軋轢や葛藤を伝える群像劇にもなっている。物語としては1963年に4人の黒人少女が犠牲となったバーミングハムの教会爆破事件から、1965年8月の投票権法成立までを描いている。
 撮影はほぼアラバマ州にて、デモ行進のシーンは実際に現場となったエドマンド・ペタス橋にて行われたとのこと。デュヴァネイ監督は現場での撮影についてこのように語っている。「実際のデモ参加者が立った場所、彼らが血を流し、叫び、手を握り合った場所に立つ必要があった。その場所のDNAや、そこに存在する精神に触れる必要があったのよ」。そして大学でアメリカ史を専攻して市民権運動を研究し、祖母からもらったキング牧師のサイン入りの本をもっているという美術担当のマーク・フリードバーグはこのように語っている。「事件が起きたこの場所でこの物語を語ることは、非常にリアルで神聖なことだと思う。初めて橋で撮影した日、地元の人々やエキストラが泣いているのを見た。彼らは1965年に実際にそこにいた人々だったからだ。あれは何にもかえがたい経験だったよ」

2015年の第87回アカデミー賞にて、コモンとジョン・レジェンドが歌う「グローリー」が主題歌賞を受賞したことも話題となった本作。そもそも音楽業界では、キング牧師のスピーチを引用したマイケル・ジャクソンの「History」をはじめ、たくさんのミュージシャンがキング牧師へのリスペクトを表していることはよく知られていて。興味があるなら、アメリカの音楽誌『Billboard』が2014年にWEBで発表した「10 Songs Honoring Dr. Martin Luther King, Jr.(マーティン・ルーサー・キング・Jrを称える10曲)」などを参考に聴いてみるのもいいだろう。

“いま伝えなければ”という真摯な思いから結実したこの作品。事実をもとに描かれているため、フィクションとしての面白さを求めるより、史実を実感し今を生きるのに役立てる、というスタンスで観るといいかもしれない。意思をともにするスタッフとキャストが尽力し、当時の出来事を今に伝えるべく誠実に製作された作品である。

『グローリー/明日への行進』
2014年 アメリカ映画

データ

2015年6月8日更新

トム・ウィルキンソン,デヴィッド・オイェロウォ
オフィシャルサイト
『グローリー/明日への行進』

2015年6月19日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開


■2014年 アメリカ映画
■上映時間 2:08
■原題/『SELMA』
■監督・製作総指揮/エヴァ・デュヴァネイ
■製作/クリスチャン・コルソン
デデ・ガードナー
ジェレミー・クライナー
オプラ・ウィンフリー
■脚本/ポール・ウェブ
■出演/デヴィッド・オイェロウォ
オプラ・ウィンフリー
トム・ウィルキンソン
ティム・ロス




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。