奇跡の2000マイル 試写会日記 毎週、あつた美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
奇跡の2000マイル

© 2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL

1977年、1人の女性が4頭のラクダと愛犬とともに
オーストラリアの砂漠約3000kmを踏破した実話を映画化

過酷で美しい自然に敬意をもって歩み出すはじまりの旅

オーストラリア西部の砂漠2000マイル(約3000km)を徒歩で横断、というオーストラリア出身の女性ロビン・デヴィッドソンが1977年に4頭のラクダと愛犬とともに1人で旅をした実話をもとに映画化。出演は2010年の映画『アリス・イン・ワンダーランド』で世界的な人気を得たオーストラリア出身の女優ミア・ワシコウスカ、’11年の映画『J・エドガー』で長編映画デビューし、’15年の映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に出演するアダム・ドライバーほか。製作は『英国王のスピーチ』のイアン・カニングとエミール・シャーマン、監督は’10年の映画『ストーン』のジョン・カランが手がける。
 4頭のラクダと愛犬ディギティを連れて砂漠地帯を1日約32kmのペースで歩き、約7ヵ月で2000マイルを踏破した女性の姿を淡々と映し出す。大仰な演出はなく、自然そのものの美しさと厳しさのなかを歩みゆく女性の足跡(そくせき)をたどる物語である。
 
 1975年、オーストラリア中央部アリス・スプリングス。20代半ばのロビン・デヴィッドソンは愛犬ディギティとともに都市からこの町へやってくる。目的はここから砂漠地帯を徒歩で横断し、インド洋に面した西オーストラリアの海岸を目指すことだ。水や食料などの荷物を運ぶラクダを手に入れ調教を学ぶため、牧場や酪農農家でラクダの世話をしながら住み込みで働き始める。評判のよくない酪農家ボゼルに無給で働かされた後、アフガニスタン人のラクダ飼育農家マホメットのもとでよく学び働きラクダを得て、旅の準備を始める。友人のつながりで『ナショナル・ジオグラフィック』誌から資金援助を得て、その条件として旅の途中にカメラマンのリック・スモーランが何度かロビンを撮影するという条件を受け入れる。そして1977年4月9日、都市からやってきた父と姉、姪っ子たちに見送られ、ロビンは4頭のラクダ、愛犬のディギティとともにアリス・スプリングスを出発する。

ジャンルとしての冒険ものというアドベンチャー映画ではなく、実際に女性がひとりでオーストラリアの砂漠、約2000マイルの距離を横断した事実をもとに描く物語。本物の冒険であることから、砂ぼこりにまみれ体を洗うこともなかなかできず、食糧に困れば虫を食べ木の枝をかじる。リアルな道程を映し出す記録映画ふうの素朴な演出で、自然そのものの風景と動物たち、ワシコウスカの魅力で惹きつける内容になっている。
 カラン監督は「景色自体がキャラクターになる映画を撮りたいと思った」とのこと。撮影監督のマンディ・ウォーカー語る。「ロビンはほとんどひとりで旅をするから、彼女の感情の旅を見せる撮影がとても重要になるの。美しさと厳しさ、異なる気候や時間帯など、さまざまな環境でも成し遂げることのできる最高の撮影技術のクオリティが必要とされると考えたわ。それが今でも他のどの媒体よりもダイナミックな幅と色を表現することができる、アナモルフィック35ミリフィルムで撮影した理由よ」

ミア・ワシコウスカ,アダム・ドライバー

どこまでも広がる広大な砂漠をゆくロビンとラクダと犬のシルエット、砂漠の途中で出会う恵みのオアシス、空を背景に堂々とたたずむ赤茶色のエアーズロック(先住民アボリジニの呼び名では「ウルル」)、砂漠にのぼる大きな月とゆれる陽炎……生々しい自然の姿がスクリーンにくっきりと映える。ラクダたちのゆったりとした動きや子ラクダのかわいらしさ、発情期になると獰猛になる雄ラクダの意外な獰猛さ、おだやかな黒い瞳でロビンを見つめて寄り添う愛犬ディギティ、動物とワシコウスカとの愛情と信頼のある関係もどこか観ていて癒される。

ロビン役はワシコウスカが自然体で表現。どこか内向的な面もありながらタフな体と強い意志で冒険を成し遂げるさまを率直に表現している。カメラマンのリック役はドライバーがそれらしく、悪徳な酪農家ボゼル役はライナー・ボックが偏屈に、アフガニスタン人のラクダ飼育農家マホメット役はジョン・フラウスが実直な師として演じている。またロビンを案内するアボリジニ族の男性ミスター・エディ役を演じているのは、多くのドキュメンタリーに出演経験があり、実際にエディの親戚であり同じ地域出身の長老ローリー・ミンツマ。ミンツマがエディを演じることについて、エディを敬愛するロビンと製作者たちは故エディの家族とそのコミュニティに許可をもらったうえで撮影したそうだ。

原作者のロビンはオーストラリアのクイーンズランド州の牧場に生まれ、クイーンズランド大学で動物学と哲学と日本語、シドニー音楽学校でピアノを学んだ人物とのこと。1977年4月9日にアリス・スプリングスを発ち、ひとりで砂漠を2000マイル横断して195日後に西海岸に到着したこの旅は、『ナショナル・ジオグラフィック』誌など世界中の雑誌で紹介され、1981年に自身による回顧録『TRACS(当時の邦題:ロビンが跳ねた―ラクダと犬と砂漠 オーストラリア砂漠横断の旅)』を発表。欧米各国でベストセラーとなりブラインド・ソサエティ賞やトーマス・クック・トラベル・ブック賞などを受賞、イギリス、ドイツ、オーストラリアで教材になっているそうだ。
 彼女は1980年〜1986年にはさまざまな場所を旅し、数多くの雑誌や新聞に寄稿。その後はエッセイ集『Travelling Light』、小説『Ancestors』、北西インドの旅行記『Desert Places』を発表し、映画脚本の執筆や国際機関での講義なども。2000年代から現在も多様な活動に取り組み、現代における遊牧民の生活に関するリサーチなども行っているそうだ。

ミア・ワシコウスカ

ロビンは回顧録『TRACKS』を出版した後に多くのオファーを受けたものの承諾しなかったそうで、今回は製作のシャーマンが年月を費やし辛抱強い交渉を続けたことで、ようやく映画化権を取得したそうだ。ロビンは語る。「選り好みが強いせいか、ハリウッドにもっていかれたくなかった。“これはオーストラリア映画でなくてはならない”と思っていたの」
 またロビンは企画の早い段階から顧問を務めた今回の映画化について、スタッフやキャストを讃えてこのようにコメントしている。「映画は私の本の直接的な翻訳にはならないし、映画が自分の本に完全に忠実になるなんてと思う作家は世間知らずだと思う。作り手にはビジョンがあるし、私はそれで満足よ。それに私は、この映画に関わった全員が好き。そういう気持ちが大きな違いを生み出すのだと思う。チーム全体がすばらしかったの」
 またワシコウスカの配役は製作者たちが強く希望したことはもちろん、ロビン本人の推薦もあったとのこと。ワシコウスカはロビンと実際に会い、ラクダに会うために南オーストラリアを一緒に旅して、ラクダとの交流の仕方を教えてもらったとのこと。ワシコウスカはその時のことをこんなふうに語っている。「彼女に会えてよかったし、とても安心したわ。ロビンのキャラクターと旅と物語に畏怖の念を抱き、本当に好きになっていたから。実際に彼女と会うことができて、友情も育めた。それがこの映画から私が得られた最高の出来事のひとつだと思う」

「世界中のどこにも居場所がない」
そんなふうに感じることはいつの時代も誰にでもある。が、だからといって身ひとつでほぼ一生世界を放浪し続ける、という人生を選ぶことは誰もができることではなく。過酷で美しい自然に敬意をもって歩み出すロビンのはじまりの旅を、快適な映画館のスクリーンで眺める……筆者も含め、冒険にでる時間もタイミングも度胸もない都市生活者が彼女の足跡を安全な場所で眺める構図には、すこし滑稽さやもの哀しさを含むかもしれないものの。まあそうした冷静さは置いといて、単純に夏っぽさとオーストラリアの雄大さを満喫してしまうのがいいと思う。

『奇跡の2000マイル』
2013年 オーストラリア映画

データ

2015年6月19日更新

ミア・ワシコウスカ
オフィシャルサイト
『奇跡の2000マイル』

2015年7月18日公開
有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


■2013年 オーストラリア映画
■上映時間 1 :52
■ブロードメディア・スタジオ配給
■原題/『TRACKS』
■監督/ジョン・カラン
■原作/ロビン・デヴィッドソン
■出演/ミア・ワシコウスカ
アダム・ドライバー
ローリー・ミンツマ
ライナー・ボック




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。