インサイド・ヘッド

ピクサー長編アニメーション20周年記念作品は
少女の感情を擬人化し、冒険に見立てたファンタジー
ファミリーにおすすめのアットホームな物語

  • 2015/07/10
  • イベント
  • シネマ
タイトル© 2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

喜び、悲しみ、ビクつき、イラだち、ムカつき……人の頭の中ではいったい何が起きているのか?  “感情”を擬人化し、頭の中の仕組みをテーマパークのように見立てたピクサー長編アニメーション20周年記念作品。子どもから少女へ、思春期の変化が始まる11歳のライリーの微妙な感情の流れとは。監督は『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクターと、本作が長編映画監督デビューとなるロニー・デル・カルメンが共同で、製作総指揮はディズニーとピクサー両スタジオのすべての映画を監修するジョン・ラセターが手がける。
ミネソタからカリフォルニアに両親と引っ越してきたライリーは、都会の環境になじめず、不安や怒りを抱いて感情が暴走し始め……。頭の中の世界とともに、子育てや夫婦間のこと、感覚のズレやとまどい、結びつきが深まる時などを描く。ファミリーにおすすめのアットホームなアニメーション作品である。

両親に愛されていつもハッピー、元気いっぱいの女の子ライリー。彼女の頭の中ではヨロコビ、ムカムカ、イカリ、ビビリの感情たちが、ライリーを楽しませたり嫌いなものを拒絶したり、怒ったり危険から回避したり、彼女をサポートしている。ライリーを悲しませるだけの感情、カナシミの存在は謎ながら、5つの感情たちは彼女を幸せにしようと頭の中の司令部で日々奮闘していた。11歳になり、両親とともに住み慣れたミネソタから見知らぬ街サンフランシスコに引っ越してきたライリーは、不安からストレスを抱え、感情が暴走し始める。ライリーの頭の中では、ヨロコビがカナシミをなるべく関わらせないようにしようとしていると、ほんのはずみでヨロコビとカナシミは司令部の外へと放り出されてしまう。彼らは司令部に戻ろうと試みるが……。

“感情”を擬人化し、完全オリジナルのキャラクターとストーリーで描く物語。子どもから少女へと成長する段階の不安定な感情について丁寧に表現され、大人なら自身の子育てや、子ども時代に思いをはせて共感し、子どもたちはアトラクションのような動きや音、ファンタジー風の映像で楽しめる作品だ。
日本語の吹き替えはヨロコビ役を竹内結子、カナシミ役を大竹しのぶ、演技派の女優2人が声優に初挑戦。日本版の主題歌はDREAMS COME TRUEの書き下ろしの「愛しのライリー」となっている。

インサイド・ヘッド

そもそもは本作の監督・原案・脚本を手がけたピート・ドクター監督の娘への思いからはじまったとのこと(『カールじいさんの空飛ぶ家』で少女エリーの声を演じた女の子)。当時の彼女は元気のいい想像力豊かな少女だったものの、11才になった頃に急に大人しく不機嫌になり、ドクター監督は戸惑い、「何が彼女の頭の中で起こっているのだろう?」と思ったそうだ。

「頭の中を擬人化」というと、水城せとな原作のコミックを映画化した『脳内ポイズンベリー』(2015年5月公開)を思い出す向きも多いだろう。表現方法はそっくりな面もありつつ、どちらが真似したとかどちらが優れているとかではなく、ターゲット層とテーマが違うという感覚で観ればどちらも楽しめる。『脳内ポイズンベリー』は“アラサー女子の恋愛”をラブ・コメディとして女性向けに、『インサイド・ヘッド』は“少女の感情と成長”をヒューマン・ドラマとしてファミリー向けに、というイメージだ。
『インサイド・ヘッド』は製作にあたり、感情の動きに関するリアリティを求めて、心理学者や顔の表情の研究者をはじめ様々な分野にリサーチをしたとのこと。子育ての迷いや悩みに対して何らかのヒントに、脳や感情の成長や育成に興味をもつきっかけになれば、というふうにも感じられる。

本作のワールドプレミアが2015年の第68回カンヌ国際映画祭にて実施された際、製作総指揮のジョン・ラセターは本作についてこのように語った。「この作品は、私たちが持っている“感情”や“思い出”について描いた作品です。成長するにつれ、感情や記憶といったものは複雑さを増しますが、それは人生の一部であり素晴らしいことです。現代を生きる人々にぜひ見てもらいたいですね」
また2015年6月26日に行われた来日記者会見にて、ドクター監督は本作の撮影について、「形がない“感情”というものを主人公として描くのは大変でしたが、綿密なリサーチから始め、最終的には自分の心で思う事を形にするようにしたんだよ」とコメント。そして日本のファンへのメッセージも。
「感情は誰もがもっています。誰もが自分事として感じられる、皆さんに響く作品だと思っています。どうぞ楽しんでください」

インサイド・ヘッド

さて、同時上映の短編アニメーション『南の島のラブソング(原題:LAVA)』について。プレス資料にもHPにもほとんど情報はないものの、ハワイ好きの筆者は個人的にこの作品をとても気に入ったのでここにご紹介する。
原題の「LAVA(溶岩)」を「LOVE」や「LOVER」の意にかけているのがかわいらしいこの短編は、これまで数々のピクサー作品でアニメーターとして活躍し、本作で監督デビューしたジェームズ・フォード・マーフィーによる作品。何百万年にもわたってハワイの海洋にひとりぼっちで居る火山が、「いつか僕にも恋人が…」と朗々と歌うミュージカル仕立てのラブ・ストーリーだ。どこか民族的でレトロなタッチのアニメーションもハワイの雰囲気にとてもよく合っている。

この物語で個人的に思い出したのは、2013年11月からひたすら噴火し続けて溶岩台地を海に広げている日本の西之島のこと。今ではもとの西之島の12倍、東京ドームの約52倍の大きさになっているというからすごい。マーフィー監督はこの内容のアイデアについて、「25年前に妻とハワイに行った時」からあたためていたそうなのでまったく関連はないのだろうけれど、西之島の力強く神秘的な現象とどこか重なり、親近感を抱いたりも。

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声の出演はハワイの実力派の2人。ハワイの音楽シーンで人気のグループ、ナー・パラパライのリーダーでシンガー・ソングライターのクアナ・トレス・カヘレと、クムフラ(フラの指導者)でありシンガーでもあるナプア・マクア(旧姓グレイグ)。ともにナ・ホク・ハノハノ・アワード(ハワイのグラミー賞といわれる)の受賞者である2人がゆったりと美声を披露している。シンプルなウクレレの伴奏によるクアナ・トレス・カヘレの深くやさしい歌声は、全身をやわらかく包み込み沁み込んでいくような感覚が。ナプアのつややかなハリのあるヴォーカルとの混声も素敵だ。時には陽気に時にはものがなしく緩急をつけたハワイアン調ののんびりとしたメロディにのせて、生き生きと自然を映すアニメーションと相まって魅力的な仕上がりとなっている。2人が歌う歌「Lava(南の島のラブソング)」は、『インサイド・ヘッド』のサウンド・トラックに英語と日本語の2バージョンを収録とのこと。この曲はディズニー公式のYouTubeチャンネル「DisneyMusicVEVO」で、「Kuana Torres Kahele, Napua Greig, James Ford Murphy - Lava」として聴くことができる。

楽曲よしアーティストよし音の質感よし、サウンド面がずいぶんと充実している作品だと思ったら、マーフィー監督は音楽プロデューサーやDJとしても活躍しているとのこと。本国アメリカではこの短編のプロモーションで、監督自らウクレレの演奏で「LAVA」の曲を歌うことも。なるほどと納得しつつ、マーフィー監督の今後の活躍を楽しみにしている。

作品データ

タイトル
公開 2015年7月18日より全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 1:42(短編を含む)
配給 ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
原題 Inside Out
監督 ピート・ドクター
共同監督 ロニー・デル・カルメン
製作 ジョナス・リベラ
製作総指揮 ジョン・ラセター
声の出演 エイミー・ポーラー
フィリス・スミス
日本語吹き替え 竹内 結子
大竹しのぶ
同時上映 短編アニメーション 『南の島のラブソング』
監督/ジェームズ・フォード・マーフィー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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