岸辺の旅 試写会日記 毎週、あつた美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
岸辺の旅

©2015「岸辺の旅」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

カンヌ国際映画祭「ある視点」部門、監督賞受賞作品
“死んだ夫”が妻を誘い、夫婦2人で旅に出る
黒沢清監督が彼岸と現世のはざまをゆるやかに描く

2015年の第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて、監督賞を受賞した黒沢清監督作品。2010年に上梓された湯本香樹実の同名の小説を映画化。映画『悪人』で第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞を受賞した深津絵里と、映画『私の男』で第36回モスクワ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した浅野忠信がW主演で夫婦を演じる。
 3年間失踪していた夫がふいに帰宅した。が、夫は妻に自分は死んだ、と話し、妻を旅へと誘う。夫婦、死、魂、愛、執着、彼岸と現世のはざまのこと。文字にすると深刻なテーマであるものの暗く重いということはなく、ホラーやファンタジーの要素もわずかに含みつつ、人と関わることによる喜怒哀楽、人肌のぬくもり、そして異界の幽玄な違和感などを淡々とした旅路のなかで描く物語である。

夫の優介が失踪してから3年。妻の瑞希はピアノを人に教える仕事を再開し、日々を暮らしている。そしてある日突然、優介が帰宅。「俺、死んだよ」と彼は告げ、瑞希を旅へと誘う。2人の旅は、優介が失踪してから3年の間、お世話になった人々を訪ねるものだった。ひとつめの町では新聞配達を生業とする孤独な初老の男性を、ふたつめの町では小さな食堂を営む夫婦を、みっつめの町では山奥の農園で暮らす家族を訪ね、瑞希はそれまで知らなかった優介の姿を知ってゆく。

死と喪失について、静かにそっと見守るような作品。そういう受け入れ方もあるのかもしれない、と素直に感じる作品だ。押しつけではなくただそこにあるような、静かないたわりが淡々と漂っているような。
 東日本大震災のあとの日本に呼応するものを感じるものの、湯本香樹実氏による原作の小説は『文學界』2009年9月号に掲載され、2010年2月に単行本として上梓したとのことで、2011年よりも前に執筆されたそうだ。湯本氏はカンヌ映画祭の「ある視点」部門で監督賞受賞時に、映画についてこのようにコメントを寄せている。「優しく不穏な気配にそっと頬を撫でられ、抱きしめられるような映画。安らぎと哀しみが寄せては返し、遥かな旅へ誘います」

深津絵里,浅野忠信

瑞希役は深津絵里が夫を慕い寄り添う妻として、優介役は浅野忠信がどこかつかみどころがなく魅力的な男として、それぞれに表現。長年連れ添った老夫婦のようなどこか枯れた感じもある仲の良い夫婦、というだけじゃない展開があるところも面白い。共演は蒼井 優、柄本 明、小松政夫、村岡希美ほか、バレエダンサーの首藤康之も登場する。

黒沢監督は『トウキョウソナタ』で、2008年の第61回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」にて審査員賞を受賞。今回は第68回カンヌ国際映画祭にて、「ある視点」部門にて日本人で初めて監督賞を受賞したとのこと。受賞時に監督はこのようにコメントしている。「まさにサプライズで、とても緊張しています。ささやかな作品が、こうしてカンヌの場で、ひとつの輝きとして発見して頂けたのだと思います。とても光栄です。審査員長のイザベラ・ロッセリーニさんからも『おめでとう』と声をかけていただきました。監督賞は、作品全体の賞であると思っています。すべての俳優、すべてのスタッフに頂いた賞ということで、とても誇りに思います」

フランスでは2015年秋に、フランスの配給会社「Version Original」が100〜150館規模で公開予定という本作。
 カンヌ国際映画祭で公式上映後の反響は、「夫婦愛を純粋に描いた、美しいラブストーリー」「黒沢清監督が男女の究極の愛を大いなる自然を背景に描いてみせた」という声があり、監督賞授与の際に審査員からは「まさに岸辺(彼岸)に連れて行ってくれる、素晴らしい旅に連れて行ってくれる、最高の作品でした。そして、素晴らしい演出をされた黒沢清監督に、監督賞をお贈りします」というメッセージが贈られたそうだ。

深津絵里

黒沢監督がカンヌから帰国後に行われた試写会で、このようにメッセージを語った。「やっと日本の皆さんにお見せする日が来たなと非常に感慨深く思っています。『岸辺の旅』というというタイトルですから旅の映画なのですけれども、砂漠の中を走って行ったり、大海原を船で行ったりすることではありません。しかし二人の夫婦が魂の旅をします。この魂がどこまで行くか? 皆さんが想像するより遥か先まで二人の魂は旅をしていますので、どこまでいくのかはらはらしながら見守っていただきたいと思います。
 今からそっくり皆様にこの映画を投げてみようと思いますので、どうぞ受け止めて下さい。ど真ん中で受け止めてくれるととても嬉しいです。中にはとんでもない方向に逸れていくかもしれませんし、途中でぽろりと落とすかもしれませんが、また拾い直して下さい。途中でかなりの剛速球になっていると思いますので、覚悟して受け止めて下さい」

若い人や、死を身近でまだ経験していない、もしくは実感していない人にとっては、遠く感じる内容かもしれない。また、ふいに遠のいたり近づいたりする夫婦の微妙な距離感は、独身だとリアルにはわからないかもしれない。それでも、わからないならわからないなりに感じられるものがあるような。
 なぜなら死は誰にでも等しく、生まれた瞬間から訪れると決まっていて、意識せずとも誰もがそうだとわかっていることだから。この映画はある夫婦のその時について、彼らの心の旅を描いた物語である。

『岸辺の旅』
2015年 日仏合作

データ

2015年9月18日更新

浅野忠信 width=
オフィシャルサイト
『岸辺の旅』

2015年10月1日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー


■2015年 日仏合作
■上映時間2:08
■ショウゲート配給
■仏題/『VERS L'AUTRE RIVE』
■原作/湯本香樹実
■監督・脚本/黒沢 清
■脚本/宇治田隆史
■出演/深津絵里
浅野忠信
小松政夫
村岡希美
奥貫 薫
赤堀雅秋
千葉哲也
藤野大輝
松本華奈
石井そら
星流
いせゆみこ
橋 洋
深谷美歩
岡本英之
蒼井 優
首藤康之
柄本 明




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。