FOUJITA

20世紀初頭にフランスで高い評価を得た画家・藤田嗣治
激動の時代を生きたひとりの画家の足跡と心情を
実際の絵画とともに、美しい映像でとらえる

  • 2015/11/02
  • イベント
  • シネマ
FOUJITA©2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション

“乳白色の肌”をもつ裸婦像が20世紀初頭のフランスで高い評価を得た日本人画家・藤田嗣治の実話をもとに描く日仏合作の作品。出演は『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』のオダギリジョー、『縫い裁つ人』の中谷美紀、そして加瀬亮、りりィ、岸部一徳ほか。監督・脚本・製作は、映画『死の棘』で1990年の第43回カンヌ国際映画祭にて審査員特別グランプリと国際批評家連盟賞をW受賞するなど国際的に認められている小栗康平、フランスのプロデュースは『アメリ』『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』などのクローディー・オサールが手がける。フランスに単身渡り実力を認められた当時のこと、日本に一度は帰国するも、再び渡仏してフランス国籍を取得し、日本には二度と戻らなかったこと。実際の絵画とともに、激動の時代を生きたひとりの画家の足跡を美しい映像でとらえる作品である。

1913年に27歳でパリへ来てから約10年。フジタは乳白色の裸婦像で絶賛され、エコール・ド・パリの寵児としてもてはやされている。そして毎夜のようにカフェ「ラ・ロトンド」でモデルのキキや画家仲間のドンゲンやキスリングたちとバカ騒ぎに興じ、かけだしの頃から付き合っていた女性フェルナンドと険悪になっていくなか、新しい彼女ユキと楽しく過ごしている。それから完成した大作「五人の裸婦」の内覧会には画家ピカソも訪れ、評論家やジャーナリストたちはフジタの絵画を称えた。  1940年代の日本。東京の麹町で5番目の妻・君代と暮らし、鎌倉への小旅行などを楽しんでいる。第二次世界大戦下、戦意高揚のための絵画を集めた「国民総力決戦美術展」にフジタは「アッツ島玉砕」を出品。展示会場にいたフジタは帰途で、「画が人のこころを動かすものだと言うことを私は初めて目の当たりにした。今日は忘れがたい日になった」と話す。その後、第二次世界大戦による東京の空襲をさけるため、フジタと君代は農村へ疎開する。

オダギリジョー

「ジュイ布のある裸婦」(寝室の裸婦キキ)、「五人の裸婦」、「アッツ島玉砕」など、フジタの実際の作品とともに映す本作。説明的な要素はあまりなく、フジタの半生のなかのいくつかのエピソードが印象的な映像とともに織りなされてゆく。たとえばストーリーの舞台がフランスから日本に移る時も、フランスがドイツ軍に陥落される直前にパリを脱出したフジタが紆余曲折の末に帰国したというくだりは特になく、その後に戦時下の日本での暮らしから晩年に妻・君代と暮らしたフランスのシーンに移る時も説明はなく。全編を通してひとりの画家の思い出や心情を映像化したかのような、抒情的な散文詩のような、フランス映画らしい趣とともに昔ながらの邦画の味わいを醸す構成となっている。

フジタ役はオダギリジョーが眼鏡とヘアスタイルでハマっていて。2015年8月のドラマ『経世済民の男 第一部「高橋是清」』も然り、女性を愛し女性に甘やかされる、少年のような純粋さと才気をあわせもつ男の役がよく似合う。この映画では台詞の半分はフランス語のため語学の猛特訓を受け、フジタが使っていた極細の面相筆による線描も画家から習い、撮影に臨んだそうだ。フジタの5番目の妻・君代役は中谷美紀が、たおやかさとはっきりとものを言う気の強さのある女性として。戦中・戦後の大変な時期から最期まで添い遂げる姿をさらりと演じている。 フランスで親しくしていたモデルで伝説的な存在である“モンパルナスのキキ”役はアンジェル・ユモーが、2番目の妻フェルナンド役はマリー・クレメールが、3番目の妻となるユキ役はアナ・ジラルドが、日本人画学生役は青木崇高が、そして日本で疎開したフジタと君代が世話になった農家の老母役はりりィが、その息子で小学校教師の寛治郎役は加瀬亮が、馬方の清六役は岸部一徳が、画家の小柳役は福士誠治が演じている。

オダギリジョー,中谷美紀

第一次世界大戦後の好景気にわくフランスで画家として成功し、モンパルナスで“フジタ・ナイト”と称した仮装パーティーを大々的に行うなど華やかで退廃的な暮らしを経て、第二次世界大戦下の日本で戦争協力の絵画を制作したと戦後に追及され葛藤し、日本を去る決断をして。激動の情勢のなか、日本、フランス、南北アメリカ、中国、満州国新京とさまざまな場所へ赴いたフジタの半生から限られた局面のみを描く本作。

フランスのプロデューサー、クローディー・オサールは小栗監督を讃えて、本作についてこのようにコメントしている。「私にとって偉大な映画監督とは、独自のスタイルを持ち、冒頭シーンを見ただけで誰の手によって作られたかがわかる真のクリエイターです。そういう意味では、映画監督というのは世界に非常に少なく、その数少ない人達が映画史に永遠の足跡を残していきます。小栗康平監督はまぎれもなくそうしたアーティストの一人です。独特な語り口で見る者を映画に引き込み、物語の”共犯者”にさせます。単にストーリーを語るのではなく、想像力をかきたてることによって観客を映画の中に誘(いざな)う…。見る者にとってこれほどの幸福はありません」

オダギリジョー,アナ・ジラルド

脚本・製作もつとめた小栗監督は、「フジタについての資料はざっと読んで、早く事実から離れる。それがシナリオを書く作業の始まりでした」と語り、本作の構成と実在した人物を映画として描くことについて、このようにコメントしている。「離れると言うと語弊がありますが、これまでに言われてきたこと、こう知られているとそれぞれが知った気になっているようなことを積み上げても、類型的な人物像を上塗りするだけです。映画は、映画という独自な時間の中で成立するのですから、もっと自在でなければいけないと考えます。二時間強の映画になりましたが、20年代のパリと戦時の日本とをそれぞれ一時間ずつ、ほとんど真っ二つに断ち切ったように並置して、描いています。“歴史的”に見れば、ここでの十何年間を跨いでフジタは変節した、などといろいろに言えるでしょうが、断ち切られたのは、生きていたフジタその人だったと考えれば、その感情世界こそが大事になってきます。物語は歴史に縛られがちですが、感情は歴史的事実から自由です」

作品データ

FOUJITA
公開 2015年11月14日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー
制作年/制作国 2015年 日本・フランス
上映時間 2:06
配給 KADOKAWA
映倫区分 PG12
監督・脚本・製作 小栗康平
製作 井上和子
クローディー・オサール
出演 オダギリジョー
中谷美紀
アナ・ジラルド
アンジェル・ユモー
マリー・クレメール
加瀬亮
りりィ
岸部一徳
青木崇高
福士誠治
井川比佐志
風間杜夫
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。