杉原千畝 スギハラチウネ

第二次世界大戦下、混迷する情勢のなか人道を貫き
ユダヤ人をはじめ避難民6000人を救った日本人外交官
杉原千畝氏の実話をもとに描くヒューマン・ドラマ

  • 2015/11/16
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杉原千畝 スギハラチウネ©2015「杉原千畝 スギハラチウネ」製作委員会

第二次世界大戦下、政府の方針に背いても人道を貫き、避難民となった人々にヴィザを発行し続けて約6000人の命を救った実在の外交官・杉原千畝の半生を描く。出演はドラマ『ナポレオンの村』の唐沢寿明、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの小雪、そして小日向文世、塚本高史、濱田岳、滝藤賢一、さらに映画『ザ・モール』で2011年のモントリオール世界映画祭にて最優秀男優賞を受賞したボリス・シッツ、映画『ワレサ 連帯の男』の女優アグニェシュカ・グロホフスカといったポーランドを代表する俳優たちも。監督はハリウッドで映画『ブラック・レイン』『トランスフォーマー』などの助監督を担当し、2009年に日米合作映画『サイドウェイズ』で映画監督デビューを果たしたチェリン・グラックが手がける。
 1939年、混迷するヨーロッパの状況を知るために日本の外務省はリトアニアに領事館を開くことに。その責任者として杉原千畝は家族とともに赴任する。混乱が深まる世界情勢の中で彼はどのようにし決断し行動したのか。日本であまり知られていなくとも、ユダヤ系の人たちの間では“東洋のシンドラー”として知られ、1985年に多くのユダヤ人を救った功績に対してイスラエル政府より「諸国民の中の正義の人賞(ヤド・バシェム賞)」が授与された“センポ・スギハラ”こと、杉原千畝(すぎはら・ちうね)氏の実話に基づくドラマである。

1934年の満洲。満洲国外交部で働く杉原千畝は堪能なロシア語と独自の諜報網で調査や活動に注力し、日本がソ連から鉄道の経営権を買い取る北満鉄道譲渡交渉を当初よりも大幅に有利に進められることに。が、関東軍の裏切りにより仲間たちを失った千畝は、失意のうちに日本へ帰国する。 帰国後、外務省で働く千畝は、友人の妹・幸子と結婚。希望していた在モスクワ日本大使館への赴任が決まるも、北満鉄道譲渡交渉における千畝の辣腕を警戒したソ連が【ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)】を発動し入国を拒否され、千畝のモスクワ赴任はとりやめとなる。1939年、日本の外務省は混乱するヨーロッパ情勢を知るためにリトアニアのカウナスに領事館を開設。千畝はその責任者として家族とともに赴任する。ポーランド政府のスパイであるペシェとともに諜報網を現地に構築し、ヨーロッパ情勢を日本に発信し続ける。第二次世界大戦が始まると、ナチスに迫害され国を追われたユダヤ難民たちがヴィザを求めて日本領事館に大挙しやって来るようになり……。

唐沢寿明

日本がヒトラー率いるナチス・ドイツとムッソリーニ率いるイタリアとの日独伊三国同盟を締結し、太平洋戦争に突き進んでいったなか、これほどまでに的確に国際情勢を見極めていた人物が外務省にいた、ということに改めて驚かされる本作。戦争による国同士の対立や特定の民族に対する迫害などで社会全体が混迷してゆくなか、人命を尊重する、という根本に立ち返り、目の前の命を助けるためにできるだけのことをする、という英断と行動力に頭が下がる。非常に優れた分析能力をもつ杉原氏はその行動がどれほど危険なことなのか、どれほどの代償を招くのかよくわかっていながら、迷い考え抜いた上で自分や家族の保身よりも良心に従うことをきっぱりと決断した気概は本当に凄い。劇中では彼の真摯な言動に最初は千畝を警戒していた駐ドイツ日本大使や、ユダヤ人に対して冷淡だったドイツ系リトアニア人まで、彼の手腕と人柄を認めて信頼し影響を受け、自然と考え方が変わっていくところや、ユダヤ難民の対応に困惑する在ウラジオストク総領事代理が同窓生である杉原氏の行動を知り、JTB社員とともに決断する様子が胸を打つ。

そもそも実在した外交官・杉原千畝とは。第二次世界大戦中に日本領事館領事代理として赴任していたリトアニアのカウナスで、ナチス・ドイツに迫害されていた多くのユダヤ人にヴィザを発給し、避難民の救済に尽力したことで知られる人物。その後、いくつかの国の領事館や大使館に勤務後、1947年に日本に帰国。独断でヴィザを発給したことの責任をとる形で外務省からの退職勧告を受け入れて辞職。貿易会社などに勤めるなか、1985年に多くのユダヤ人の命を救出した千畝の功績が称えられ、杉原氏にイスラエル政府より「諸国民の中の正義の人賞」(ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅、ホロコーストから自らの生命の危険を冒してまでユダヤ人を守った非ユダヤ人に感謝と敬意を示す称号)が授与された。大勢のユダヤ人を救い、映画『シンドラーのリスト』(1994年の第66回アカデミー賞で作品賞、監督賞など7部門を受賞)で世界的に知られるドイツ人実業家オスカー・シンドラーになぞらえて、千畝氏は「日本のシンドラー」とも呼ばれているそう。リトアニアでは中学校の教科書で杉原氏の功績が紹介されているとも。
 このように重要な人道支援を行った日本人が日本国内ではあまり知られていないのはなぜだろう。優秀な外交官が的確な調査報告をあげていたにも関わらず、国交において非常に重要な局面や戦時中にその内容がまったく生かされなかったこと、信念にもとづき人道支援を優先し貫いた杉原氏を政府の方針に背いた人物としてその後に冷遇した、という事実があるからだろうか。杉原氏は前述の「諸国民の中の正義の人賞(ヤド・バシェム賞)」を受賞した翌年の1986年に86歳で他界されたとのこと。せめてご本人が生きている間に功績が認められ名誉が回復されたことは、少しホッとする。

小雪,板尾創路,唐沢寿明

杉原千畝役は唐沢寿明が日本のため人々のために献身的に働く外交官として。自身の本来の資質に合うのか、以前に主演を務めた山崎豊子原作のドラマ『不毛地帯』然り、彼は当時の混迷の時代に実力と良心で生き抜く男性の役がとてもよくハマる。7:3分けがよく似合って、情の深さやあたたかみがにじみ出つつ、台詞のほとんどがロシア語、英語、ドイツ語、フランス語という難役を確かな存在感と安定感でくっきりと表現している。千畝に寄り添い、安らぎを与える妻・幸子役は小雪が華やかに。日独の同盟は日本の将来のためと信じ込む駐ドイツ日本大使の大島役は小日向文世が、冷酷な関東軍将校の南川役は塚本高史が、ユダヤ難民の対応に困惑するJTB社員の大迫役は濱田岳が、在ウラジオストク総領事代理で千畝と満洲ハルピン学院の同窓生である根井役は二階堂 智が、妻の幸子の兄で保険外交員の菊池役は板尾創路が、千畝の上司で外務省の官僚役は滝藤賢一が、満洲国外交部次長の大橋役は石橋 凌が、海外赴任時代の仲間たちとして千畝の満洲国外交部在籍時に諜報活動をともにしていた白系ロシア人のイリーナ役はアグニェシュカ・グロホフスカが、ポーランド政府のスパイでありリトアニアの在カウナス日本領事館運転手となるペシュ役はボリス・シッツが、それぞれに演じている。
 イリーナを演じたアグニェシュカはこのように語っている。「杉原氏の話はもっと早くみなさんに語られるべきものではなかったかと思います。現代においては、当時、杉原氏が置かれていた状況であのような選択をすることがいかに難しいことであったかを真に理解するのは難しいことだと思います。もし杉原氏がいらっしゃったら、この映画を観て『素晴らしかった』と言ってもらえる作品になることを願っています」

杉原千畝 スギハラチウネ

2015年9月24日には、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の国内委員会が杉原千畝氏の関連資料を2017年の登録を目指す記憶遺産候補として選定した、というニュースも。国内外で杉原氏の功績を見つめなおす気運が高まっているなか、この映画はハリウッドやヨーロッパからも注目されていて、製作サイドはアメリカやヨーロッパを含む全世界で公開していきたいとコメントしている。
 グラック監督は本作への参加について、このように語っている。「僕は、国籍はアメリカですが生まれは日本です。父がユダヤ人の血を引いており、母は日系人ですがアメリカ生まれのアメリカ育ちで、(母は)アメリカで収容所暮らしをしたこともある、というのが僕の背景にあります。"日本のシンドラー"と言われている杉原千畝さんの話はヨーロッパで起こったことですが、僕にも感情的にはすごく近いと思い、ぜひ世界の人にも彼のことを知ってもらいたいと思い参加させてもらいました」
 そしてこの映画のテーマについて、このように語っている。「杉原さんのことはアメリカでもユダヤ人の人たちにはよく知られています。彼が日本人だから知ってもらいたい、という以上に、人間として、彼の功績を知らないということは残念だと思います。この映画のテーマは難しくはありません。自分が正しいと思って決断したら、行動で示すしかない。 たとえ人生の半分を捨てるということになっても、“ナニジン”じゃなく人間として、杉原さんのように決断し行動できる人が増えたらと願います」

作品データ

杉原千畝 スギハラチウネ
公開 2015年12月5日より全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2015年 日本
上映時間 2:19
配給 東宝
監督 チェリン・グラック
音楽 佐藤直紀
脚本 鎌田哲郎
松尾浩道
出演 唐沢寿明
小雪
ボリス・シッツ
アグニェシュカ・グロホフスカ
ミハウ・ジュラフスキ
ツェザリ・ウカシェヴィチ
塚本高史
濱田 岳
二階堂智
板尾創路
滝藤賢一
石橋 凌
アンナ・グリチェヴィチ
ズビグニェフ・ザマホフスキ
アンジェイ・ブルメンフェルド
ヴェナンティ・ノスル
マチェイ・ザコシチェルニ
小日向文世
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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