007 スペクター

激しいアクションやスタントに、クールなサスペンス
交錯する人間模様、理屈では割り切れない心情など、
ドラマと娯楽性の絶妙なバランスで惹きつける007最新作

  • 2015/11/20
  • イベント
  • シネマ
007 スペクターSPECTRE © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

イギリスの現地時間10月26日18時頃(日本時間10月27日午前3時頃)、英国王室のウィリアム王子&キャサリン妃、ヘンリー王子が臨席したロイヤルプレミアで本編を初披露し世界最速で公開されたイギリスにて、すでに同国の2015年最高のヒット作となっている007シリーズ最新作。出演は今回で4 度目のジェームズ・ボンド役となるダニエル・クレイグ、『グランド・ブダペスト・ホテル』のレイフ・ファインズ、『ネルソン・マンデラ 自由への長い道』のナオミ・ハリス、『白鯨のいた海』のベン・ウィショー、そして新キャストとして『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』でオスカーを2度受賞したクリストフ・ヴァルツ、ボンドガールは『アデル、ブルーは熱い色』のレア・セドゥ、『マレーナ』のモニカ・ベルッチ。監督は2012年の前作『007 スカイフォール』で高い評価を得たサム・メンデスが手がけ、主題歌はイギリスのグラミー賞受賞アーティストのサム・スミスが担当する。
 メキシコで激しい乱闘の末に勝利したターゲットの指輪には、ある組織のマークが。前任のMの指令で赴いたローマで、ボンドは謎の組織の会議に侵入する――。大がかりな激しいアクション、華やかな女性たちとの関係といった007らしい要素に加え、ボンドの過去と愛というストーリーもしっかりと。ダニエル=ボンドのシリアスでストイックな魅力を最大限に引き出し、ドラマと娯楽性の絶妙なバランスで惹きつける007シリーズ24作目である。

年に一度の祝祭「死者の日」でにぎわうメキシコシティ。ドクロの仮装をしたたくさんの人々に紛れ、ボンドは標的の男を追う。降下してきたヘリに逃げ込んだ男を仕留めるべくヘリに乗り込み激しい格闘の末に勝利したボンドは、男の指から抜き取った指輪にある組織の刻印を見つける。
 ロンドンに戻ったボンドは、新たに上司Mとなった元情報国防委員会の新委員長ギャレス・マロリーからメキシコでの大乱闘を叱責される。その後、同僚のマネーペニーにメキシコでのことは前任のMの遺言だったと告げたボンドは、自身の生家スカイフォールの回収物にあった古い写真に目をとめる。
 引き続き前任Mの指示を遂行するためローマに赴いたボンドは、情報を得て謎の組織の会議に侵入。その頃、合同保安部MI5 のCは、ボンドをはじめとするコードネーム「00」の機能を停止させ、MI6 をMI5 に統合させようと画策していた。

ダニエル・クレイグ,レア・セドゥ

スリリングなアクションやきわどいスタント、ボンドカーなどのわかりやすいド派手な仕掛け、充実の俳優陣によるクールなサスペンスで男女問わず惹きつけて、ラストの結末で女心をさらにガッチリとわしづかみにする本作。前作より加わった若いQやマネーペニーの活躍や、敵が味方につながり味方が敵となるといった交錯する人間模様、理屈では割り切れない思いなど、“ボンド映画”の看板を存分に生かしながらもしばられすぎず、映画としての面白さを追求したメンデス監督の手腕が冴えている。監督は語る。「誰が言ったことかは知らないけど、アーティストの仕事というのは、見慣れたものを未知のものにし、未知のものを見慣れたものにすることなんだ。それはボンド映画を作るときに良い指針になると思うよ。完全に新しいものを作りだすことはできない作品だからね。ボンド映画はファンタジーではない。マーベルやJ.K.ローリングの世界ではないんだ。僕らが暮らすこの世界に存在しないものは作れないから、見慣れたものを、ちょっと変わったものにしなきゃいけないんだ」

スペクター(SPECTRE)とは、007シリーズにおける国際犯罪組織「対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関」(Special Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extoetion)の頭文字を用いた略語。その組織のトップであるエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドはボンドの宿敵として、1967年の『007 は二度死ぬ』(俳優:ドナルド・プレザンス)、1969年の『女王陛下の007』(俳優:テリー・サバラス)、1971年の『007/ ダイヤモンドは永遠に』(俳優:チャールズ・グレイ)などの作品に登場。その後、「スペクター」と「ブロフェルド」は権利問題で訴訟のトラブルになり、『007/ ダイヤモンドは永遠に』を最後に、手とベルシャ猫だけを見せて存在を匂わせるくらいで、はっきりと姿は映さないという表現に。いかついスキンヘッドの風貌で白いペルシャ猫を膝の上に抱くというブロフェルドの姿はしばしばパロディのネタとなり、今となっては1997年の映画『オースティン・パワーズ』のドクター・イーヴルのほうが印象に焼き付いている人も多いかも。筆者は『劇場版 MOZU』のダルマもイメージが少しだけ重なるな、と。本作でのスペクターは大規模かつ組織的な21 世紀の国際犯罪集団として描かれている。

ダニエル・クレイグ

ボンド役はダニエルがシリアスに颯爽と。トム・フォードのスーツをさらりと着こなし、女性にも同僚にも敵にも常に本気、というダニエル=ボンドらしさをくっきりと打ち出している。前任のM役であるジュディ・デンチはVTRで出演し、新たにボンドの上司Mとなったマロリー役はレイフ・ファインズが、ミッションをサポートする同僚マネーペニー役はナオミ・ハリスが、最新のガジェットやデータを提供するQ役はベン・ウィショーが、MI5 のマックスことC役はアンドリュー・スコットが、ボンドを執拗に追う組織の殺し屋ヒンクス役はWWE のプロレスラー、デイヴ・バウティスタがそれぞれに演じている。そしてボンドの敵オーベルハウザー役はクリストフ・ヴァルツが底知れない冷酷さと不気味な静けさをたたえて表現している。
 本作の2人のボンドガールは自らの意志がはっきりしているところが特徴。特にレア・セドゥが演じる医師マドレーヌ・スワン役は、恋愛も恋人との時間も大切、どういう生き方を選ぶのかも重要、という考えが明快できっぱりとしている。また未亡人ルチアを演じたモニカ・ベルッチがシリーズ最高齢のボンドガール(現在51 歳)として登場しているのも話題に。そういえばボンドガールたちの肌の露出は、今回は少ないかもしれない。胸の谷間と長い脚を何度ももろだし、というは女性としては特にあってもなくてもどちらでもいいものの、男性にとってはさみしいものだろうか。

本作のクライマックス・シーンの撮影は、「映画史上最大の爆破シーン」としてギネスの認定も。モロッコの砂漠にてダニエルとレアの目前で巨大な建築物を一気に破壊するこの大掛かりなシーンでは、418リットルの燃料と33キロの爆薬を使用。大きな爆音と振動を伴うため、撮影は事前に半径32キロメートル内の人々に警告してから行われ、撮影時は7.5秒それが続いたそう。ギネス世界記録の達成は2015年11月10日に北京で行われた記者会見上で発表され、正式なタイトルホルダーとなる特殊効果とミニチュア撮影のスーパーバイザー担当のクリス・コーボルドに代わり、ダニエル、レア、プロデューサーのバーバラ・ブロッコリがギネス世界記録の認定証を授与されたそうだ。
 アクションやスタントはそれ以外にも、レッドブルの曲芸飛行士チャック・アーロンが操縦する、バレルロール(螺旋状の飛行)とフリーダイブ専用に造られたヘリコプターBo105で、二人のスタントマンがヘリの外側にぶらさがって格闘しながら、エキストラの頭上わずか9 メートルの高さでヘリを飛ばすという冒頭のアクションをはじめ、雪上の追走劇やボンドカーのカーチェイス、肉弾戦の格闘など、007シリーズにふさわしい見せ場がたっぷりと楽しめる。
 今回はボンド・シリーズとアストンマーティン社とのコラボ50 周年を記念する作品とのことで、映画のためだけにDB10 が製造されたとのこと。製造にあたってメンデス監督もアストンマーティン社に招かれたそうで、「すっきりとしたクリーンなラインで、どの時代に生産されたものかわからない、クラシックな感じを望んだ」とのこと。劇中に登場する最新のボンドカーにも注目だ。

ベン・ウィショー,ダニエル・クレイグ

「驕りは映画作りの敵なんだ。『よし、最高の映画ができた』と思うのは愚かなことだよ。でも『スペクター』では、僕らは力の限り最善を尽くしたと思うんだ。それはかなり良いことだよ。それに出演者や監督が誰であるかを考えると、格別素晴らしい顔ぶれがそろったと言えるよ」と、ダニエルが誇らしく語る本作。イギリス、アメリカ、中国、オーストラリア、ドイツなどすでに公開された世界72カ国での累計興行収入はすでに5億4380万ドル(約663億円)超えという驚異的な数字に。前作『007 スカイフォール』をも超えるシリーズ史上最大のヒットとなりそうな勢いだ。
 そんななか注目されているのは、007シリーズの配給が本作を最後に、現在のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントによる契約が満了となることだ。現在のソニーが契約の更新・継続を望んでいるのに加え、20世紀フォックス、ユニバーサル、パラマウント、ウォルト・ディズニーなどハリウッドの主要なスタジオが獲得に関心を示し、水面下で争奪戦になっているとも。007シリーズの場合、製作権を所有する2つの会社(アメリカの巨大メディア企業メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)と、007シリーズの映画プロデューサーとして知られる故アルバート・R・ブロッコリが設立したイギリスの企業ダンジャック)が利益を得る仕組みがあり、配給・宣伝をする会社にとって正味の利益はかなり少ないということは知られていて。それでも実績と信用につながるという意味で、007シリーズの配給契約は大きな魅力があるということのようだ。ダニエルが抜擢され初めてボンドを演じた2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』から配給した4作品すべてで成功を収めたソニーは果たして?
 映画ファンとしては製作陣や出演者が快く仕事に打ち込めてシリーズの魅力が保たれるなら、といったところだろうか。心配なのは、このゴタゴタのせいかどうなのか、ダニエルがいくつかのインタビューで「もう演じない。今回で終わり」といった内容を含め、いくつかの異なる発言をしていることだ。ボンド役となってから2016年で10年、来年に48歳になるダニエル。今回の結末がよく整っているので、ダニエル=ボンドのラストにふさわしいといえばふさわしいのだけれど。ダニエルの契約としてもう1作ボンドを演じることになっているとのこと。前髪がすこし後退して額が広くなってきてはいてもダンディぶりに変わりはないし演技と人柄で真っ向勝負できる実力派の俳優だし、それならもう一度観たいな…と筆者は思うがどうだろう。できることなら契約に縛られての惰性で最後のもう1作、ではなく、次回もこれまで通り全力を注ぎ込む渾身の1作を期待している。

作品データ

007 スペクター
公開 2015年11月27日、28日、29日先行公開
2015年12月4日よりTOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ・イギリス共同制作
上映時間 2:28
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 Spectre
監督 サム・メンデス
プロデューサー マイケル・G・ウィルソン
バーバラ・ブロッコリ
脚本 ジョン・ローガン
ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド
ジェズ・バターワース
出演 ダニエル・クレイグ
クリストフ・ヴァルツ
レア・セドゥ
レイフ・ファインズ
モニカ・ベルッチ
ベン・ウィショー
ナオミ・ハリス
デイヴ・バウティスタ
アンドリュー・スコット
ロリー・キナー
イェスパー・クリステンセン
ステファニー・シグマン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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