さらば あぶない刑事

同じ役者と製作陣による30年物のシリーズ最後の作品
5日後に定年退職を迎える2人は危険なヤマを深追いし…
キザに派手に有終の美を飾るバディ・ムービー

  • 2016/01/22
  • イベント
  • シネマ
さらば あぶない刑事© 2016「さらば あぶない刑事」製作委員会

当時の最高視聴率26.4%を記録した1986年のテレビドラマ放映開始から30年、前作である2005年の劇場版から11年。“あぶデカ”シリーズ最後となる劇場版第7弾が完成した。出演はもちろん舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオル、テレビシリーズのレギュラー陣である小林稔侍、木の実ナナ、ベンガル、山西道広、伊藤洋三郎、長谷部香苗、今作の出演は吉川晃司、菜々緒ほか。監督はテレビ版から演出を担当し、映画『もっともあぶない刑事』『あぶない刑事リターンズ』を手がけた村川透、脚本はテレビから映画までシリーズ中もっとも多くの脚本を担当してきた柏原寛司。横浜港署捜査課刑事の鷹山敏樹と大下勇次は、定年退職まであと5日。が、おとなしく過ごすはずもなく新興のヤクザ闘竜会によるブラックマーケットを2人で奇襲し……。国際的な犯罪組織の侵攻というテーマや今どきの若手俳優たちとの共演など新しい要素を取り入れつつ、基本的には昔なじみのスタイルで。気障でやりすぎ、突飛で現実離れした面も何でもアリ、長年のキャスト&スタッフで贈る、わかりやすくシンプルに楽しめるバディ・ムービーである。

横浜港署捜査課の刑事、タカこと鷹山敏樹とユージこと大下勇次は、あと5日で定年退職に。30年前は新米刑事で2人のパシリだったが現在は捜査課の課長である町田透が、「定年前は殉職率が高いので、センパイたちには無事に退職してほしいんですよ!」と心配しても、2人はスルーしてやりたい放題だ。銀星会の残党が新興のヤクザとなった闘竜会によるブラックマーケットを2人だけで派手に襲撃し幹部の伊能を追うが、謎のバイクに阻まれて取り逃がす。その後、伊能が殺され、横浜におけるロシア、韓国、中国、各国マフィアたちの闇社会の均衡が崩れ始める。そこには、圧倒的な戦闘力で悪名高い中南米の犯罪組織BOBの存在が。一見、紳士然とした日系人キョウイチ・ガルシアはBOBを率いて横浜の裏社会を牛耳るべく動き始め、捜査が進むうちに、ユージはこの事件にかつて自分が更生させた元不良グループのリーダー川澄がいると知り、タカは自身の恋人・夏海にガルシアと接点があると知る。

柴田恭兵,仲村トオル,舘ひろし,長谷部香苗

港署ファミリーのいつものノリと、タカのバイク・アクションやユージの全力疾走など、お約束満載で魅せる“あぶデカ”シリーズ最後の作品。日本の刑事ものといえば『太陽にほえろ』『西部警察』など、真面目で男臭いベタなドラマとアクションが中心だった30年前に、アクションとコメディをスマートにミックスし当時の“トレンディ・ドラマ”に近い感覚で楽しめる内容が人気を博し、当時の最高視聴率26.4%を記録して半年の予定だったオンエアが1年に延長されたとも。筆者も放送当時にファンで毎週楽しみにしていたことをよく覚えている。当時に斬新でスタイリッシュに感じた雰囲気は、30年後の今となっては昔ながらのスタイルでもあり、時代に左右されすぎない不動の持ち味となっていて。撮影は松田優作の主演映画『野獣死すべし』や、『あぶない刑事』シリーズを担当してきた仙元誠三であり、映像からもその味わいが伝わってくる。

港署の捜査課刑事、タカこと鷹山敏樹役は舘ひろしがキザっぽくダンディ鷹山として、ユージこと大下勇次役は柴田恭兵が軽妙にセクシー大下として、変わらないテンションで。元少年課で現在は神奈川県警重要物保管所所長となった真山薫役は浅野温子が、コテコテのコスプレでシュールな装いを披露。パシリの新米デカから30年を経て、近藤課長(故・中条静夫氏)から役職を継いで課長となった町田透役は、仲村トオルがアクの強い先輩たちに振り回されるお人好しの後輩としてほのぼのと。今では切れ者や悪役などいろいろなタイプの大人の男を演じる俳優として活躍している仲村も、ここでは相変わらずのヤラレ役で、4人のコミカルな掛け合いと相変わらずのノリは懐かしくて楽しい。2016年1月12日に新宿歌舞伎町で行われた完成披露舞台挨拶にて、浅野と仲村はこんなふうにコメントしている。
 浅野温子
 「(“あぶデカ”の原点を)考えた結果、やってることはツジツマが合わなかったりリアルじゃなくても『あぶデカだからね!』とみなさんが認めてくれる、そんなところが原点なんじゃないかと思って、私なりに一生懸命演じました。きっと皆さんに楽しんでいただける作品になっているはずです!」
 仲村トオル
「30年前、“あぶデカ”が始まったとき僕はハタチだったのですが、まさか30年後にも同じ役をやっているとは思っていませんでした(笑)。“あぶデカ”は本作が“今度こそラスト”ということで寂しいしせつないですが、みなさんの応援で奇跡が起きたらいいなと少しだけ期待しています」

舘ひろし,柴田恭兵

港署の仲間たちもたくさん集合。少年課の課長から港署の署長になったカオルの先輩・松村役の木の実ナナは「NPO法人横浜港を守る会」会長として、またもと捜査課の刑事である “落としのナカさん”こと田中役のベンガルや、通称“パパさん”こと吉井役の山西道広も警察OBとして、そして無線係だった“瞳ちゃん”役は、1987年の劇場版第1弾『あぶない刑事』を手がけた長谷部安春監督の娘・長谷部香苗が課長秘書として、神奈川県警の本部長・深町役の小林稔侍ほか、おなじみの面々が顔をそろえている。
 中南米の犯罪組織BOBのキョウイチ・ガルシア役は吉川晃司が体躯の良さを生かして堂々と。ドラマ『下町ロケット』然り、これまでの黒髪や茶髪より何より似合うロマンスグレーふう銀髪ヘアがハマり、特訓したというスペイン語の会話やスペイン語なまりの英語もそれらしく、長い脚で繰り出すハイキックもキマッている。その部下であるディーノ・カトウ役はブラジル出身の夕輝壽太がマッチョに鍛えた体でキレやすい青年としていかつく。彼はもともと話せるポルトガル語ではなくスペイン語を懸命に練習して臨んだそうだ。横浜・本牧のもとストリート・ギャングの青年役は吉沢亮と入江甚儀が現代的なキャラクターとして、タカの恋人・夏海役は菜々緒がもと米領事館勤務だった知的な女性として演じている。

“お約束”はたっぷりと。ユージのステップや「イッツ・ショータイム!」と煽るカーチェイスをはじめ、柴田恭兵が歌う「RUNNING SHOT」をBGMにユージが全力疾走でターゲットを追いかける名物シーンでは、曲と一緒に観客気分の仲村トオルの率直なツッコミが入っていて可笑しい。ドラマ版のエンディング・テーマだった舘ひろしが歌う「冷たい太陽」も流れて、「そうそうこの曲だったよね〜」という気分に。
 クライマックスはタカのハーレースタントで、件のハーレーダビッドソンを両手離しで運転しながらショットガンを撃つシーンも。吉川晃司もアクションシーンを自ら演じるためにバイクスタントを訓練したそうで、ウィリー走行し、運転しながら銃を撃ち、アクセルターンでUターンという派手なアクションを披露している。

浅野温子,舘ひろし,柴田恭兵

最近の刑事ものは昔の「ザ・刑事ドラマ」と比べると、本物の現場らしさを取り入れている作品が増えていて。捜査会議、ひたすら聞き込みをして、鑑識とやりとりし、銃はなるべく撃たず、拳銃の保管や携帯する際の段取りなどなど。この映画ではそのへんはほぼまるっと取っ払って、昔ながらの「ザ・刑事ドラマ」の流れで描かれていて。ドラマ時代から銃撃シーンは毎回派手に繰り広げられ、タカの発砲率は「日本映画に登場する刑事でも群を抜いた高さ」とのことで、最近の刑事ドラマを見慣れているなかで改めて“あぶデカ”を観ると、激しい“ドンパチ”ぶりにあっけにとられる面もある。ただ、これもまた30年前から続くテレビドラマ発のエンターテインメントらしい潔さとして、持ち味のひとつだから、ということだろう。ちなみに宣伝用のコメント映像では、舘&柴田が“定年退職”で“ドンパチ卒業”とも。

最後の最後まで“らしさ”満載の本作。亡くなった人以外はほぼ同じ役者と同じスタッフたちを中心に30年に渡って断続的に続いてきたということはお見事で。最近は新しいシリーズを次々と立ち上げては短い期間で終わらせてゆくスタイルばかりなのは、飽きやすく新鮮さを求め続ける市場を始め、さまざまな大人の事情によるというのもわかるものの、こういうヨーロッパっぽい手法というか、息の長い感覚の制作スタイルももっと増えていけばおもしろいだろうな、と個人的に筆者は思う。
 前述の完成披露舞台挨拶にて、思い入れもひとしおの本作について舘&柴田はこのように語った。
 舘ひろし
 「香苗ちゃんのお父さん、長谷部監督が作った1作目に戻りたいなということで、今回は製作段階から、監督やプロデューサー、脚本家、恭サマと僕とで初めてミーティングをしました。結果として、僕としては原点に戻った“あぶデカ”ができたと感じました。ただオンコ(浅野)のところだけは、突然オンコがどわっと入ってきて、そのままどわっと去っていくという……それだけは予想外でした(笑)。それでも本当に、楽しい作品になったと思います」
  柴田恭兵
 「本当は、僕は70歳を過ぎてからやりたいと思っていたんです。でもこの年齢でやれて、舘さんも台詞をちゃんと言えたし、僕も何とか走れたし、本当に楽しかったです(笑)。いい作品になったなと心から思っています。皆さんのたくさんの思いがあって、この映画ができました。本当に感謝しています。そして、そんな皆さんの思いに応えられるものができました。楽しんでください。どうもありがとう」

作品データ

さらば あぶない刑事
公開 2016年1月30日より丸の内TOEI ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 日本
上映時間 1:58
配給 東映
監督 村川 透
脚本 柏原寛司
出演 舘ひろし
柴田恭兵
浅野温子
仲村トオル
木の実ナナ
ベンガル
山西道広
伊藤洋三郎
長谷部香苗
小林稔侍
菜々緒
夕輝壽太
吉沢亮
入江甚儀
片桐竜次
吉川晃司
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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