家族はつらいよ

山田洋次監督が20年ぶりに喜劇映画を製作
おとなしい妻が夫に熟年離婚を切り出して……
三世代家族の悲喜こもごもを映すホームドラマ

  • 2016/02/26
  • イベント
  • シネマ
家族はつらいよ© 2016「家族はつらいよ」製作委員会

1995年の『男はつらいよ』シリーズ終了後20年ぶりに、山田洋次監督が喜劇映画を製作。出演は橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優という『東京家族』で一家を演じた俳優陣8人に加え、小林稔侍、風吹ジュン、笹野高史、笑福亭鶴瓶ほか。音楽は『東京家族』『小さいおうち』に続いて山田作品に3度目の参加となる久石 譲、家族はつらいよデザインは『東京家族』のイメージポスターを担当したアーティストの横尾忠則が手がける。ある日、数十年以上連れ添った妻にさらりと離婚を切り出された夫は狼狽、長女は夫と離婚すると実家に駆け込み、長男夫婦が右往左往するなか、次男は結婚したいと恋人を連れてきて……。混乱する三世代家族の面々をユーモラスに描く。熟年離婚、働く女性とその夫、ビジネスマンの夫と専業主婦の妻、三世代同居、大人を見つめる子どもたち……現代の家族の悲喜こもごもを映すホームドラマである。

吉行和子,橋爪 功

東京の郊外、三世代同居の平田家。“モーレツサラリーマン”だった平田周造は退職後の日々を、ゴルフに飲み屋通いに悠々と暮らしている。すっかり忘れていたものの今日は長年連れ添った妻・富子の誕生日と気づいた周造が欲しいものを尋ねると、妻はいつもと変わらないおっとりとした調子で、「離婚届に判をついてほしいの」と答える。その翌日、夫と「離婚する!」と息巻いて平田家に戻ってきた長女の成子と追いかけてきた夫の泰蔵、同居している長男夫妻は、盤石な関係だと信じていた両親の離婚危機を知り、ショックを受ける。なんとか解決しなくてはと一家が【家族会議】を開こうと決めた日、ピアノ調律師の次男・庄太は家族に紹介しようと恋人の憲子を連れてくる。

「今は非常に重苦しく暗い時代。だからこそ喜劇が必要だ」と語る山田監督によるホームドラマ。平田家の人々はみんなそれぞれの思いでやりたいように話し行動し、混沌としてゆくさまをユーモラスに丁寧に映します。また2013年の山田監督作品『東京家族』で家族を演じた俳優8人が同じ家族構成で、別人として異なるキャラクターの家族を演じるというユニークな配役も話題に。そもそもこの物語は、『東京家族』の撮影現場で監督と俳優たちとの雑談から原案が生まれたとのこと。2016年2月11日に開幕した香川県の「さぬき映画祭2016」にて本作がオープニング上映され、ゲストとして参加した山田監督はこのようにコメントしている。「『東京家族』8名の俳優さんたちとずっと長い間、一緒に仕事をしながら、なんだか皆仲良くなっていくというか、独特のアンサンブルが生まれて、このアンサンブルがもったいないな、もう1回できるんじゃないかなと、ちょっと角度を変えればこの家族はなかなか滑稽な家族でもあるし。僕たちは、みんな家族を持って悩んでいる、苦しんでいる、本当に家族なんて厄介なものなのだけど、家族がいなくちゃ生きていけないというところがある、角度を変えれば家族の問題で悩む人たちって滑稽でもあるなって。その8人をそのまま同じようなキャスティングで喜劇をもう一度作ってみようというのが『家族はつらいよ』なんですね」

橋爪 功,吉行和子,蒼井優,妻夫木聡,夏川結衣,林家正蔵

いわゆる昭和の父親、平田周造役は橋爪 功が口の悪い頑固親父として、文句もいわずに夫の世話をしてきたものの離婚を決意した妻・富子役は吉行和子がおっとりと、同居している商社勤務の長男・幸之助は西村雅彦が理屈っぽく真面目に、その妻・史枝役は夏川結衣が家族みんなの世話をする専業主婦の嫁として、夫と離婚すると実家に駆け込む長女・金井成子役は中嶋朋子が気の強い女性税理士として、妻の仕事を手伝っている夫・金井泰蔵役は林家正蔵が気弱な“髪結いの亭主”として、実家暮らしをしている次男・庄太役は妻夫木聡がおっとりとした調律師として、その恋人・間宮憲子役は蒼井 優が素直でしっかり者の看護師として、それぞれに演じている。また周造が行きつけの小料理屋の女将役に風吹ジュン、浮気調査を依頼される探偵役に小林稔侍、長男夫婦の息子で孫の謙一役(兄)に本作が映画初出演となる故・五代目中村富十郎の息子で歌舞伎役者として活動している中村鷹之資、その弟・信介役に丸山歩夢、さらに笑福亭鶴瓶、笹野高史、木場勝己らが出演している。

筆者が女性だからか、個人的に一番おもしろかったのは、夫に離婚を言い渡す妻・富子の存在だ。あの明るく上品でゆったりとしたやさしい口調で、こういうわけで離婚したい、こうすればこれから1人でやっていける、とほがらかにきっちりと落ち着いて説明していくところがとてもいい。いくら愛情があるから、甘えているから、気を許しているからと言ったって、“憎まれ口”とはいえ口癖のように妻の悪口をよそで言い、誕生日も毎年忘れていて何も祝わなくて当たり前、毎日の生活で召使いのように扱い、脱いだ靴下は丸めっぱなし服は脱ぎっぱなしで……(以下、延々と続く)というのを、仕方ないわ、の一言で長年ゆるし続けてきた妻が、夫にサクッと引導を渡す、というのがとても痛快で胸のすく思いがする。2016年 1月19日に東京・有楽町で行われた完成報告会見、完成披露試写会舞台挨拶にて、富子役を演じた吉行和子さんはこのようにコメントしている。「『東京家族』とは違ってちょっと困った奥さんの役ですが、やっている方は楽しくて楽しくて。今でも橋爪さんの顔を見ると笑ってしまいそうです。怖い怖いと言われて(本性が)バレたかな、と思うくらいでした(笑) 『母と暮せば』を劇場で観たときに、『家族はつらいよ』の予告編が流れて、『お父さんと一緒にいるのが私のストレスなの』というシーンで場内の女性たちから笑いが起きて、共感する人が多いんだな、と感じました」

風吹ジュン,橋爪 功

時間をかけて川を流れてゆく岩や石のように、ぶつかり合いながら角が取れてそれなりの形になっていくような。家族もまた、そんなこんなでバラバラになったりまとまったりしながら、なんだかんだところがってゆく。じわりと広がる人情味の感触が素朴に楽しめる本作。山田監督はこの映画について、このように語っている。「家族というのは、厄介で、煩わしくて、無くてもよいと思うこともあるのだけれど、やはり切り捨てるわけにはいかない。そのつらさを何とか切り抜けていかねばならない、そのためにあくせく大騒ぎをする。そんな滑稽で不完全な人間を、表現したいと思いました。スクリーンでその姿を見た観客が、“あぁ、ダメなのは自分だけじゃないんだな”と安心して笑ってしまう。映画館で、観客の皆さんと作り手が、笑いを共有していく――そんな喜劇にしたいと思い、一生懸命作りました。映画館が、皆さんの大きな笑いに包まれることを、願っています」

作品データ

家族はつらいよ
公開 2016年3月12日より丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 日本
上映時間 1:48
配給 松竹
監督・脚本 山田洋次
脚本 平松恵美子
音楽 久石 譲
出演 橋爪 功
吉行和子
西村雅彦
夏川結衣
中嶋朋子
林家正蔵
妻夫木聡
蒼井優
小林稔侍
風吹ジュン
中村鷹之資
丸山歩夢
笹野高史
木場勝己
笑福亭鶴瓶
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。