拉致・監禁され7年、ママとジャックは脱出し……
実際の事件から着想を得たストーリーを映画化
互いを支え合う親子の姿が胸を突く、力強いドラマ
実際の事件から着想を得てカナダ在住の作家エマ・ドナヒューが執筆し、国際的なベストセラーとなった小説『ROOM(邦題:部屋)』を、原作者が脚本を手がけて映画化。出演は、本作で2016年の第88回アカデミー賞にて主演女優賞を受賞したブリー・ラーソン、自然な演技が称賛されている子役のジェイコブ・トレンブレイ、映画『ファーゴ』のウィリアム・H・メイシー、『きみに読む物語』のジョアン・アレンほか。監督は数々のテレビCMを手がけた後に映画監督としてデビューした、映画『FRANK-フランク-』のレニー・アブラハムソンが手がける。閉じられた小さな部屋で暮らすママとジャック。ある日ママは、ジャックを部屋の外に脱出させようと……。見知らぬ男に拉致・監禁され7年、出産した子どもとともに幽閉される母と、部屋から一度も出たことのない息子、2人だけの暮らしと脱出後の姿を描く。厳しいテーマながら、互いを懸命に支え合う親子の姿が胸を突く物語である。
窓は天窓がひとつだけ、という小さな部屋で暮らすママとジャック。今日はジャックの5歳の誕生日、ママがケーキを焼いてくれた。いつも2人で眠り、起きて、歯磨き、ストレッチ、反復横跳びのような運動、食べて、遊び、テレビを観て、夜になったらベッドに入る、毎日がその繰り返し。夜に時々“オールド・ニック”がやってきて、服や食料を置きママと寝る。拉致・監禁され7年、ジャックを出産したママはそのままずっと親子で監禁され続けていた。あるときママが男に、「ジャックにもっと栄養を」と言うと、半年前から失業して金がないと逆上され、翌日には部屋の電気が切られてしまう。寒さに耐えながらママはジャックを脱出させようと決意。その後、男が来たときにジャックは寒さで死んだと伝え、ジャックはカーペットにくるまれたまま部屋の外に運ばれてゆき……。
女性の拉致・暴行、生まれた子どもとともに長年監禁され続けた事件と、その後の親子の姿を映す物語。事件が解決して終わり、ということではなく、脱出した後のママとジャックの関係と心情の変化、トラウマと向き合っていくこと、家族や周囲との関わりなどが丁寧に描かれている。女性として観ると、つらく複雑な気持ちになる面も少なくはないものの、どれほどのことがあっても大切な人たちとともに支え合いながら、少しずつ、休みながらでも進むことができる、という力強さを静かに伝える、意味のある内容となっている。
ママのジョイ役はブリーが強い母性と、日常に戻ったあとの混乱、新しい人生と生活に向き合うさまをリアルに表現。彼女はこの役が決まってすぐ、撮影前から心身ともに入念な準備を始めたとのこと。体脂肪率が12%になるまで筋肉をつけてダイエットし、隔離された生活を知るためにジムに行く時以外は1ヶ月間外出せずに家で過ごし、思春期のトラウマについての専門家で精神医学の教授ジョン・ブリエール医師にジョイの心の変化について学んだとのこと。またブリーは子どもの頃、本作のセットの2倍くらいの大きさのワンルームに母と妹と3人で暮らしていた時期があり、「お金がなくてマクドナルドのハッピーセットすら買えなかった」とも。ブリーは語る。「その頃は恵まれていなかったけれど、母は何もないところからゲームや砂糖袋をつくりだし、人間の想像力はすごい力をもっていると学びました。もちろん、ママとジャックに起きたことに比べたら私の経験なんてトラウマといえるものではないけれど、本を読んだとき、つらくとも大切な時間をともに歩んだ親子に自分がリンクできたのです。そしてジャックの美しくシンプルな視点、暗い環境の中にたくさんの希望と愛を見出すこの話の手法が気に入りました」
5歳で生まれて初めて部屋を出たジャック役は、ジェイコブが愛らしく。ママとジャックの間にとても強固なつながりと、自然にいたわり合うあたたかい感覚がよく伝わってくる。アブラハムソン監督は2人の関係について語る。「2人は多くの時間を一緒に過ごし、深い絆で結ばれていました。ブリーがジェイコブの微妙なリアクションをうまく引き出すことができるほどにね。ジェイコブとのシーンは彼女と共同監督しているようでした。この映画は、ブリーがジェイクへの気遣いをしながらも、卓越した感情むき出しの繊細な演技ができるということを証明しています。彼女はまったく私欲的じゃないんだ」
そしてジェイコブはブリーとの共演について、こんなふうに話している。「ブリーは本当にすばらしい人なんだ。一緒にたくさん遊んで、工作もして、親友になったよ。僕が役になりきるために常に助けてくれた。一緒に悲しんだし、怒ったし、怖がったし、そして心から幸せにもなったよ」
ママの父親で“じいじ”のロバート役はウィリアム・H・メイシーが昔気質の父親として、ママの母親で“ばあば”のナンシー役はジョアン・アレンが娘と孫を大切にしようと心を砕く母親として、ナンシーのパートナーのレオ役はトム・マッカムスが柔軟で寛容な大人の男性として、ママとジャックを監禁し続けたオールド・ニック役はショーン・ブリジャースが身勝手な男として演じている。映画の後半、ジャックが新しい生活に戸惑いながらも、ナンシーとレオ、それぞれと徐々に打ち解けていくさま、ママを支えようとする姿はしみじみと胸を打つ。
原作者のエマ・ドナヒューは、1969年、アイルランドのダブリン生まれ。カナダ在住の作家。2000年に出版された歴史小説『Slammerkin』、本作の原作である2010年の『ROOM』などで知られ、ラジオや舞台、映画の脚本も手がけている人物だ。『ROOM』は国際的なベストセラーとなって権威ある文学賞のブッカー賞とオレンジ賞の最終候補作となり、ニューヨーク・タイムズ紙の「2010年のフィクション・ベスト5」に選出も。この物語は、オーストリアで子どもたちと一緒に24年間地下室に閉じ込められていたエリーザベト・フリッツルの事件に着想を得たフィクションとのこと。ドナヒュー氏はこの事件のスキャンダラスな面ではなく、極限状態での母性や、人間が立ち直る力に惹かれたとのこと。そしてこの小説を書き上げた時点で映画化を予感したドナヒュー氏は、出版前から映画の脚本に着手し、実際に今回の脚本を手がけることになったそうだ。まず『ROOM』出版後、映画化のオファーが殺到するなか、ドナヒュー氏宛てにアブラハムソン監督から「映画化させてほしい」という熱心な手紙が届いたとのこと。その手紙には、「映画作家、親、かつて子供だった者として、本能的な衝撃を受けた。とても強い直感で映像が目に浮かび、心の中ではすでに映画を作り始めていた。実現していないことに憤りを感じたほどだ」と綴られ、とても具体的にどのような映画にしたいかが記されたとも。それを受けドナヒュー氏は、「この人の手に委ねることになると直感した」そうだ。ドナヒュー氏は語る。「レニーは父という立場から、親の立場を理解しようとする熱心なひとりの人間として興味をもってくれました。そして私たちは自分たちの子どもの話をしながら脚本に取り組み、親子の絆について語り合い、良い関係を築くことができました。小説は自分だけの私的な小さな世界です。でも映画はチームワークで作り上げるもの。今回のような映画でも言葉の力が過大評価されがちですが、結果には監督やすばらしいキャストやスタッフの作り上げる雰囲気、演技、繊細さやディテールの力の方が大きく影響しています。小説家の独立性が好きですが、今回の経験(脚本の執筆、映画化)はとても楽しかったです」
観ているうちに、彼らのそばに自分たちもいるような、彼らを応援しているうちに、観ている自分たち自身へのエールにも自然とつながっていくような不思議な感覚のある本作。アブラハムソン監督はこの映画の製作には、典型的な方法や小技は使わないと決めていたそうで、「彼らのストーリーについてより広く風刺的な、悲劇的な、社会的な、心理的な、家族の洞察を加えるのと同時に、彼らが感じていること、彼らを危険にさらしていることの詳細を、感受性を最大にして捉えるように心がけました」とのこと。そして本作のテーマと映画製作について、このように語っている。「『ルーム』の場合、観客がこの話を真実だと感じられたら、ジャックとママに深く共感し、より広い感情の余波を感じられるとわかっていました。原作にはストーリー以外の部分にも大きな余韻があり、偉大なおとぎ話がもつ寓話的な力がありますが、これを中心にすると映画自体が死んでしまう。映画では実際に観客がその世界にいるような気持ちになり、自分自身で発見できる方がパワフルです。映画製作者としての僕は、いったん世界を作ったら、そこに人が入り、行動を形作り、ただ後ろに立って心を開いて誠実に見ているだけで、すごい力が生まれてくると信じているんです」
公開 | 2016年4月8日よりTOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズシャンテほかにて全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2015年 アイルランド・カナダ |
上映時間 | 1:58 |
配給 | ギャガ |
原題 | ROOM |
監督 | レニー・アブラハムソン |
脚本・原作 | エマ・ドナヒュー |
原作 | デイヴィッド・エバーショフ |
出演 | ブリー・ラーソン ジェイコブ・トレンブレイ ジョアン・アレン ショーン・ブリジャース トム・マッカムス ウィリアム・H・メイシー |
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