スポットライト 世紀のスクープ

ピューリッツァー賞を受賞した報道チームの実話を映画化
カトリック教会による隠蔽と圧力に記者たちが立ち向かう
2016年アカデミー賞作品賞・脚本賞W受賞の注目作

  • 2016/03/25
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スポットライト 世紀のスクープPhoto by Kerry Hayes © 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

2003年にピューリッツァー賞(公益部門)を受賞した報道について、アメリカの新聞『ボストン・グローブ』の調査報道チームによる実話をもとに映画化。ボストンのグローブ紙に新しく着任した編集局長バロンは、カトリック教会の神父による性的虐待という地元ではタブー視されている事件について、詳しく調査するよう4人の記者チームに命じる。出演は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のマイケル・キートン、『フォックスキャッチャー』のマーク・ラファロ、『ミッドナイト・イン・パリ』のレイチェル・マクアダムス、『完全なるチェックメイト』のリーヴ・シュレイバー、舞台を中心に映画やテレビでも活躍するブライアン・ダーシー・ジェームズほか。監督・脚本は『扉をたたく人』『靴職人と魔法のミシン』のトム・マッカーシー、脚本は本作が2本目の映画となるジョシュ・シンガー。関係者への取材をもとに真摯に作られ、第88回アカデミー賞にて作品賞と脚本賞をW受賞した注目作であり、実力派の役者たちのアンサンブルに引き込まれる熱い群像劇である。

2001年7月、ボストン・グローブ紙に新しい編集局長のマーティ・バロンが着任。マイアミからやってきたユダヤ人であり何のしがらみもないバロンは、ボストンの教会のある神父による性的虐待事件を詳しく探る、という方針を打ち出す。紙面の定期購読者の53%がカトリック信者であり、地域に大きな影響力をもつカトリック教会の権威を鑑みながらも、独自の極秘調査により特集記事欄《スポットライト》を執筆する4人の記者チームが担当することに。編集デスクのウォルター“ロビー”ロビンソン、記者のマイクとサーシャ、データ分析担当のマットは、いつも以上に慎重に調査を開始する。被害者や弁護士への地道な取材を重ねるうちに、ゾッとするほどの状況が明らかになっていくなか、9.11同時多発テロ発生によって調査を一時中断しながらも、教会側からの圧力や妨害にひるむことなくチームは調査を続行。取材を続けて関係者に裏を取り、全員で検討を重ね、報道の方針を見極めてゆく。

レイチェル・マクアダムス,マイケル・キートン,マーク・ラファロ,リーヴ・シュレイバー,ブライアン・ダーシー・ジェームズ

2002年1月から1年間にわたりボストン・グローブ紙の《スポットライト》に約600本が連載された特集記事、地元の数十人もの神父による児童への性的虐待の事実を、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきたスキャンダルについて。1,000人以上が被害にあっていながらも、なぜ長い間黙殺されてきたのか、という背景に記者たちが迫り調査報道に取り組む姿を描く。劇中ではカトリックへの信仰が強い地域で生まれ育った記者たちの複雑な思いも繊細に描かれ、マッカーシー監督も自身の思いをこのように語っている。「僕自身もカトリック教徒として育てられたから教会を理解しているつもりだし、称賛と尊敬の念を持っている。この作品で教会をバッシングするつもりはない。なぜ誰も声を上げずに、こんな大罪が何十年も横行することを許してしまったのか。子供への虐待だけでなく、それを隠蔽しようとした組織ぐるみの悪しき行いが教会内にあった。いまだに続いているところもあるかもしれない。これは『なぜこのようなことが起きてしまったのか?』という問いかけなんだ」

中心メンバーの俳優たちはモデルになった実在の記者たちと実際に会って話をして、役作りをしたとのこと。虐待事件を調査する《スポットライト》記者チームのリーダー、編集デスクのウォルター“ロビー”ロビンソン役はマイケル・キートンが、記者のマイク役はマーク・ラファロが、女性記者のサーシャ役はレイチェル・マクアダムスが、データ分析担当のマット役はブライアン・ダーシー・ジェームズが、精鋭らしく調査に没頭する姿をそれぞれに演じている。ボストン・グローブ紙の新しい編集局長マーティ・バロン役はリーヴ・シュレイバーが冷静かつ胆の据わった辣腕として、最初はバロンの方針に反発する部長ベン役はジョン・スラッテリーが古株のベテランとして、また教会の訴訟問題に多く関わってきたマクリーシュ弁護士役はビリー・クラダップがスマートに、ロビーの旧友でかつて神父を弁護した経験のあるサリヴァン弁護士役はジェイミー・シェリダンが保守的な人物として、さらにゲーガン神父による虐待「ゲーガン事件」の原告側の弁護士ガラベディアン役は、スタンリー・トゥッチが独特の価値観と正義感を貫く変わり者として演じている。誰が主役ということはなく、登場人物たちさながら実力派の俳優たちのチームによって物語が展開してゆくストーリーはリアルで、全米の賞レースで数多くのアンサンブル演技賞を受賞したことに深く納得できるだろう。

マイケル・キートン,レイチェル・マクアダムス

マッカーシー監督と共同脚本のジョシュ・シンガーは、ボストンに行き数ヵ月間を費やして実在する記者や被害者たちへのインタビューを行ったとのこと。シンガーは語る。「トム(監督)はリアリティを重視していた。彼はあらゆる角度から把握しようと、関係者にさまざまな質問をしていたよ。そして中核となるグループと接触したとき、僕らは思いがけない事実を知った。そのおかげで映画はさらに現実味を帯びたものになったんだ」
 「僕にとって、この記者たちはヒーローだ」というマッカーシー監督。モデルとなった実在の記者たちは映画の数カットを観てOKとなり、マーティ・バロン本人から監督宛てにメールが届いたそうだ。監督は語る。「『この映画で描かれるジャーナリズムがアメリカ人として生きる社会に必要だ、と世間に理解してもらうことは重要だ』と彼は書いてくれた。出版・報道の自由は、権力をもつ組織をも制止することができるんだ」

「貧しい家の子には教会が重要で、神父に注目されたら有頂天。
自分を特別な存在に感じる。 ──神様に“嫌(ノー)”と言えますか?」

個人的に印象的だったのは、虐待疑惑のあったひとりの神父のふとした応対だ。自分が子どもの頃にされたことを今しているだけのことで、取り立てておかしなことではない、という悪びれない態度。その感覚の異様さ、被害者たちのなかには「自分が悪いのでは」と自分を責め、状況に耐えられなくなり自死を選ぶ場合も少なくないことに気づきもしない、もしくは見て見ぬふりを決め込むのが当たり前、という認識の異常さにスッと寒くなるものを感じた。またラスト近く、ある人物が自身の過ちについて打ち明けるシーンも、かなり沁みるものが。完全に善悪に二分した対立構造ではなく、昔は告発しようと勇気を出した人間がいつからか隠蔽する側になっていたり、長年完全に教会側に立っていたはずの人間が裏取りに協力したり、ひとりの記者からもあることが明かされたり。悩み惑い、その過ちや不適切な行いも映しながら、「自分たちに今できることを、できるだけ公益となるように」と信念とともに進めていく現場の人々の思いが、キャストとスタッフの尽力とともにしっかりと伝わってくることが、この作品の骨太な軸となっている。

マーク・ラファロ

「君の探している文書は、かなり機密性が高いね。これを記事にした場合、責任は誰が取る?」
「では、記事にしない場合の責任は?」

2002年のグローブ紙による報道後、同年の12月にロウ枢機卿はボストン大司教区を辞任し、イタリア・ローマのサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に就任(栄転)。2014年3月28日の時点で、アメリカ国内では、6,427人の神父が17,259人を性的に虐待したと伝えられているとのこと(a database compiled by Terry McKiernan. 本国プレスより)。本作のエンディングでは、その虐待が判明したおびただしい数の<全米の都市と州名>と<それ以外の国と地域名>が表示される。 2016年の第88回アカデミー賞では、作品賞と脚本賞という重要な賞をW受賞した本作。マッカーシー監督は脚本家のシンガーと喜びを分かち合い、キャストやスタッフや家族への感謝とともに、このようにコメントした。「ジャーナリストのみなさんのためにこの映画を作りました。被害者の方々の生き残る力が我々にインスピレーションを与えてくれました。2度とこういうことが起こってはならないと思っています」
 そしてプロデューサー陣もまたキャストやスタッフに感謝を述べ受賞を喜びつつ、本作のテーマについてこのように語った。「この映画は被害者たちに声を与えました。そしてその声をさらに大きく広げてくれるのがこのアカデミー賞です。バチカンにまでその声が届くことを期待しています。子どもたちを守り、信仰を取り戻すときです。私たちが今ここにいるのは記者たちの勇気があったからです。彼らはグローバルに変化をもたらすだけでなく、調査報道の必要性も説いてくれました」

作品データ

スポットライト 世紀のスクープ
公開 2016年4月15日よりTOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 2:08
配給 ロングライド
原題 SPOTLIGHT
監督・脚本 トム・マッカーシー
脚本 ジョシュ・シンガー
出演 マーク・ラファロ
マイケル・キートン
レイチェル・マクアダムス
リーヴ・シュレイバー
ジョン・スラッテリー
スタンリー・トゥッチ
ブライアン・ダーシー・ジェームズ
ジェイミー・シェリダン
ビリー・クラダップ
ニール・ハフ
ポール・ギルフォイル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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