横山秀夫のベストセラーを充実の顔合わせで映画化
もと刑事の広報官が事件の真相とタブーに触れ……
難事件を追うミステリーにして、見ごたえのある群像劇
1989年、たった7日間の昭和64年に発生した未解決事件の真相とは――? 作家・横山秀夫による発行部数130万部突破の警察小説を前・後編の二部作で映画化。出演は佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、瑛太、永瀬正敏、三浦友和、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆という充実の布陣で、監督は2010年の映画『ヘヴンズ ストーリー』の瀬々敬久が手がける。もと刑事部の刑事で現在は警務部の広報官である三上は、組織内外の軋轢にさらされ家庭に問題を抱えながら、未解決の誘拐事件を追ってゆく。立証の困難な事件の真相に迫る刑事もののミステリーであり、さまざまな立場の思いがぶつかり合う熱い人間ドラマであり、演技派俳優たちの共演による見ごたえのある群像劇である。
昭和64年1月5日、関東近県で少女誘拐事件が発生。両親は幼い娘を取り戻すべく決死の思いで犯人の指示に従い身代金を運ぶも、その2000万円は奪われ少女は後日に死体で発見、犯人は捕まらないまま迷宮入りに。刑事部では県警最大の汚点の未解決事件として「ロクヨン」と呼ばれるようになる。
平成14年12月。あれから14年、「ロクヨン」の時効まであと1年。事件の捜査に加わっていた三上義信は刑事部から異動となり、現在は警務部で広報官を務めている。東洋新聞キャップの秋川を筆頭に、事件に関する詳細な情報公開を強く求めてくる記者クラブとの軋轢、キャリア上司からのプレッシャー、刑事部と警務部の対立があるなか、1週間後に全国の警察を統括する警察庁長官が、時効間近の「ロクヨン」担当捜査官を激励するために視察にくることに。三上は10数年ぶりに亡くなった少女の家・雨宮宅を尋ねるが……。
前編では県警にまつわる人間関係のさまざまな軋轢を描き、刑事と広報官、広報官と記者たちのドラマが展開し、後編では少女誘拐事件の真相に迫ってゆく。また三上の失踪したひとり娘を妻とともに探しているという家庭の事情、「ロクヨン」事件がきっかけで辞職した捜査関係者など、登場人物たちの背景が少しずつ明かされてゆき、何がどこまでどのようにかかわっているのかがクライマックスで一気にクリアになるところまで、強く引き付けられる仕上がりとなっている。
もと刑事の広報官・三上役は佐藤浩市が熱演。昭和の土臭さもくっきりと、迷い悩み苦しみながらも諦めずに正面から向き合い受けとめる三上の姿は、観ていて素直に応援したくなる。県警上部からのプレッシャーにさらされ、記者クラブから激しい追究を受け、警務部を部外者扱いする刑事部に食ってかかり、広報官の部下と判断や進め方で対立し、被害者家族である雨宮への複雑な感情や、失踪した自分の娘に無事でいてほしいという思いがあるなか、県警内部のタブーに触れ未解決事件「ロクヨン」の真相に迫ってゆく、という複雑な立場や心情をしかと表現。激しく対立するドラマを演じるにあたり、撮影前日に佐藤浩市は若手俳優たちに「全力でぶつかって来い。俺が全部受けとめてやる」と伝えたとのこと。また本作について、「ここまで身を削った映画は本当に久しぶりだった」とコメントしている。
三上の部下である広報室係長・諏訪役は綾野剛が、広報室の婦警・美雲役は榮倉奈々が、広報室と対立する県警の記者クラブを取りまとめる東洋新聞キャップ秋川役は瑛太が、「ロクヨン」事件被害者の父・雨宮芳男役は永瀬正敏が、三上の刑事時代の上司で「ロクヨン」追尾班長を務めた捜査一課長・松岡役は三浦友和が、もと婦警である三上の妻役は夏川結衣が、もと「ロクヨン」捜査官として緒形直人、窪田正孝、吉岡秀隆らが、県警本部長の辻内役は椎名桔平が、その部下である警務部長の赤間役は滝藤賢一が、刑事部長の荒木田役は奥田瑛二が、警務部の調査官・二渡役は仲村トオルが、東洋新聞の記者・手嶋役は坂口健太郎が、それぞれに演じている。事件の真相を追うミステリーに加えて、充実のキャストによる重厚な群像劇が大きな見どころとなっている。瀬々監督は本作についてこのように語っている。「たった7日間しかなかった昭和64年。平成という時代になって大きく社会も人々も変化した。だが、昭和という時代にまだ忘れ物をしたように生きている人たちがいる。そういう人たちの切ない思いが錯綜する映画、それが『64-ロクヨン-前編/後編』です。それらの思いを抱えつつ、ラストには生きる希望を伝えたい」
原作は『半落ち』『クライマーズ・ハイ』などを生み出した横山氏のデビュー作『陰の季節』に始まるD県警シリーズの3作目であり、シリーズ初の長編作品。2004年から『別冊文藝春秋』での連載や書き下ろしを経て完成目前となり、単行本の発売日も決定した’09年頃、最初から読み返した横山氏が「この出来では読者からとてもお金をいただけない」と判断し出版を一度とりやめ、その後に改稿を重ねてようやく’12年10月に単行本として発売。’12年の「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、’13年の「このミステリーがすごい!」第1位など絶大な支持を受け、横山氏自身も集大成と位置づけている作品である。
原作とは異なる映画独自の結末については、そこにたどり着くまでに横山氏と瀬々監督とプロデューサーで何度も話し合い、脚本は22回もの改稿が行われたとのこと。そのことについて横山氏はこのように語っている。「こう撮りたいという瀬々さんの思い、こう演じたいという俳優さんたちの思いが非常に強いことが分かりました。じっくり話し合って本当によかった。みんなの強い思いが詰まった、とても幸せな映画になったと思います」
たくさんのことを背負っている大人たちも、経験の浅い若い世代も、それがたとえ卑怯でも保身でも、執念でも正義でも、真心でも向上心でも、それぞれが真剣に考え行動したことがストーリーとなってゆく、という感覚に引き込まれる本作。2016年3月7日に行われた舞台挨拶で瀬々監督は本作について、「横山さんの原作があったからこそできた映画」と話し、映画ついてこのように語った。「みんなそれぞれに大切なものがあって、どこかにそれをしまっているかもしれない、置き忘れているかもしれない。もう一度、それを見つけようとする映画です。キャスト・スタッフ一丸となって心血を注いで作りました」
公開 | 2016年5月7日に前編、2016年6月11日に後編が、全国東宝系にて連続ロードショー |
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制作年/制作国 | 2016年 日本 |
上映時間 | 前編 2:01 後編 1:59 |
配給 | 東宝 |
監督・脚本 | 瀬々敬久 |
脚本 | 久松真一 |
原作 | 横山秀夫 |
出演 | 佐藤浩市 綾野剛 榮倉奈々 夏川結衣 緒形直人 窪田正孝 坂口健太郎 椎名桔平 滝藤賢一 奥田瑛二 仲村トオル 吉岡秀隆 |
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