ブルックリン

生まれ故郷アイルランドと、新天地アメリカ
1950年代を舞台に2つの故郷、2つの愛を生き、
自分らしい愛と人生を選択する、ひたむきな女性の物語

  • 2016/06/24
  • イベント
  • シネマ
ブルックリン©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

彼女は自分が2人いるような奇妙な気がした――。生まれ故郷アイルランドと新天地アメリカのブルックリン。1950年代を舞台に2つの故郷、2つの愛を生き、自らの人生を選択する女性のひたむきな姿を描く。出演は映画『つぐない』『ラブリー・ボーン』『ハンナ』、そして『グランド・ブタペスト・ホテル』のシアーシャ・ローナン、映画『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』の若手俳優エモリー・コーエン、『レヴェナント:蘇りし者』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のドーナル・グリーソン、『アイリス』のオスカー俳優ジム・ブロードベント、『リトル・ダンサー』のベテラン女優ジュリー・ウォルターズほか。原作は2009年のコスタ小説賞を受賞するなど高い評価を得た、アイルランド出身の作家コルム・トビーンの同名小説。脚本は映画『17歳の肖像』『わたしに会うまでの1600キロ』などで知られる作家で脚本家のニック・ホーンビィ、監督は2008年ベルリン国際映画祭で審査員賞を受賞した社会派作品『BOY A』のジョン・クローリーが手がける。アイルランドの小さな町からアメリカのニューヨークに渡ったエイリシュは、新しい環境に戸惑いながらもブルックリンの高級デパートで働き始め……。女性が故郷を離れて自立し、知識と経験と自信を得て、自分らしい愛と人生を選び取る姿を丁寧に描く作品である。

シアーシャ・ローナン,エモリー・コーエン

アイルランドの小さな町エニスコーシーの食品店で働くエイリシュは、美人で会計士である姉ローズとは対照的に、内気で目立たない。偏見を押し付ける食品店の店主ミス・ケリーにうんざりしながらも、働く場がそこしかなく、日々我慢をしてやりすごしている。が、妹の将来を案じるローズの後押しによりエイリシュは渡米。ブルックリンで暮らし始めるも、ビシビシ仕切る下宿先の寮母キーオ夫人や、すでにアメリカになじみ垢抜けつつある同郷の下宿人の女性たち、働き始めた高級デパートの職場にもすぐにはなじめず、エイリシュはホームシックで泣き暮らす。そんな折、同郷の神父にすすめられブルックリン大学の会計士コースで学び始め、パーティーで知り合ったイタリア系の青年トニーと付き合ううちに、エイリシュは自信を得て明るく輝き、洗練されてゆく。そこに、故郷から悲報が届く。

故郷から遠く離れて心細くなりながらも、知識を身に着け恋をして、さまざまな経験を経るうちに、どう生きるかを自身で選べるようになってゆく。世界中で多くの人たちが経験するだろう経緯といくつかの転機、ひとりの未熟で気弱だった人間が成長し、意見をはっきりと伝え自らの未来をきっぱりと選択することができるようになる姿は、ある意味でとてもさわやかだ。クローリー監督は語る。「本作は成長の物語でもあり、故郷を離れて恋に落ち、初めて愛の複雑さを経験する物語でもある。これは、20歳から25歳くらいに誰もが通る道だ」

シアーシャ・ローナン,ほか

エイリシュ役はシアーシャが、おとなしく純朴なアイルランド女性から、自信のある美しいニューヨーカーへと変貌していく姿を生き生きと表現。実際にアイルランド人の両親のもとニューヨークで生まれたシアーシャは語る。「‘80年代に両親が経験した旅と同じことを、時代は違うけれどエイリシュは経験したのだから、胸に迫るものがあったわ」
 エイリシュを根気よく口説くイタリア系の配管工トニー役は、エモリーが一途で熱心な青年として。高級デパートの先輩にどうしてそんなに素敵に変わったのかと問われたエイリシュが、「イタリア系の恋人ができたの」と答えるシーンは、説得力とユーモアがありかわいらしい。下宿先の寮母キーオ夫人役は、ジュリー・ウォルターズが厳しくも人情に厚く面倒見のいい肝っ玉母さんふうに、アイルランド出身のフラッド神父役はジム・ブロードベントが温厚で知的な父親のように、アイルランドの故郷でエイリシュが友だちから紹介されるジム役は、ドーナルが伝統的な暮らしを好む紳士として、それぞれに演じている。
 映画ファンに信頼されているアメリカの大手レビューサイト「Rotten Tomatoes」にて、批評家97%、観客88%の高い支持を集めている本作(2016年6月22日現在)。イギリスではBBCにて本作のスピンオフ企画としてTVドラマの製作が決定し、キーオ夫人の下宿を舞台にしたストーリーでジュリー・ウォオルターズの出演がすでに決定しているそうだ。

原作者のコルム・トビーンは、1955年、アイルランド南東部ウェックスフォード州のエニスコーシー生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで歴史と英文学を学び、卒業後、スペインのバルセロナにて英語学校の講師を経て、南米のアルゼンチンなどでジャーナリストとして活躍した後、1990年に処女小説『The South』を発表。早い時期から自身が同性愛者であることを公にしており、‘92年の2作目『The Heather Blazing(邦題:ヒース燃ゆ)』はアンコール賞を受賞、小説家ヘンリー・ジェイムズの晩年を描いた2004年の第5作『The Master』は、ブッカー賞最終候補となり、IMPACダブリン文学賞やロサンゼルス・タイムズ・ノベル・オブ・ザ・イヤーなどを受賞。この映画の原作である第6作の小説『ブルックリン』は2009年のコスタ小説賞を受賞し高い評価を得ている。トビーン氏は今回の映画化について脚本家ニック・ホーンビィの手腕を称え、「ニックは、愛がこの本の中心となる感情であり、さまざまな可能性の前で心が揺れる人の話だということをしっかりと理解している」とコメントしている。

ドーナル・グリーソン,シアーシャ・ローナン

物語の後半にて、エイリシュと故郷の街の食品店の店主ミス・ケリーが対話するシーンは、特に個人的に胸を突かれた。形はまったく異なるにせよ、こういう理不尽さは働いたり自立したり、またはそうしようと努めている女性の場合、“出る杭”として実際に経験することが多いのではないだろうか。そうした出来事も含めて、すべては人生に不可欠で、それこそが重要な決断の大きな原動力となる展開など、リアルにしみじみと染み入るものがある。
 撮影は原作者トビ−ン氏の出身地、エニスコーシーからスタートしたという本作。劇中では1950年代の女性たちのカラフルでフェミニンなファッションも魅力的だ。また印象的なのは、エイリシュがクリスマスに昼食を提供する教会にスタッフとして参加し、アイルランド人歌手のイアーラー・オー・リナードがケルト語の哀歌「Casadh an tSúgáin」を歌うシーンだ。トビーン氏も原作を執筆中にイアーラーの歌からインスピレーションを得ていたそうで、自然や伝統や神話につながるような、おだやかな旋律が郷愁を静かに誘う。

この映画のプロデューサーであるアマンダ・ポージーは、本作のストーリーについてこのように語っている。「彼女の決断には賛成する人も反対する人もいるでしょうね。でも、エイリシュは自分にとってふさわしいことを見つけたの。それがたとえ辛い決断だとしても。これは多くの選択肢が制限されていた時代に、1人の女性が自分の本当の気持ちを見つけ、選択する能力を手にするストーリーよ」
 本作では、これが正解でこれが幸せ、と決めつけるのではなく、誰かのために、または誰かに言われるままに生きるのではなく、世間や周囲の描く幸せに囚われるのでもなく、自ら決断し生き方を選ぶヒロインの姿が描かれていて。そこには、考えて秤にかけて「選ぶ」のではなく、感じるままにその瞬間の自分にとって悔いのない流れにのっていく、という感覚がはっきりとある。それがなんとも、胸に響くのだ。

作品データ

ブルックリン
公開 2016年7月1日より、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アイルランド=イギリス=カナダ合作
上映時間 1:52
配給 20世紀フォックス映画
原題 Brooklyn
監督 ジョン・クローリー
脚本 ニック・ホーンビィ
原作 コルム・トビーン
出演 シアーシャ・ローナン
ドーナル・グリーソン
エモリー・コーエン
ジム・ブロードベント
ジュリー・ウォルターズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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