真田十勇士

戦国武将・真田幸村は実はヘタレだった!?
史実を取り入れアレンジしたオリジナルの設定で
幸村と猿飛佐助ら十勇士の活躍を描く娯楽大作

  • 2016/09/12
  • イベント
  • シネマ
真田十勇士© 2016『真田十勇士』製作委員会

2014年初演の舞台を、同作品の演出を手がけた堤幸彦監督が映画化。舞台の再演と映画の公開を同じ演出家が同時期に行う、史上初の話題の企画。出演は舞台の初演から引き続き中村勘九郎、松坂桃李、加藤和樹、高橋光臣、駿河太郎、村井良大、荒井敦史、望月歩、青木健、本作からの出演は大島優子、大竹しのぶ、松平健、永山絢斗ほか。脚本は舞台に引き続きマキノノゾミが手がけ、主題歌は時代劇への提供は初となる松任谷由実が書き下ろした新曲「残火」。関ヶ原の戦いから十数年、徳川と豊臣の対立が深まるなか、抜け忍の猿飛佐助は戦国武将・真田幸村と出会う。名将・幸村は実はヘタレだった、というオリジナルの設定で、猿飛佐助ら十勇士らが幸村を担ぎ上げるストーリーが展開する。戦国時代を舞台に史実をアレンジしたユニークなドラマであり、大規模なスペクタクル満載の忍者アクションであり、ほのかなロマンスにコメディと、カラッと楽しめる痛快なエンターテインメント作品である。

関ヶ原の戦いから14年。天下統一を目前に徳川家康と復権を狙う豊臣家の対立が日々深まっている。そんな折、抜け忍の猿飛佐助は武将・真田幸村と出会い、幸村から「自分は運と見た目がいいだけの男だ」という告白を聞く。そこで佐助は一考し、幸村をさらなる名将として担ぎ上げるべく、仲間や手練れたちを引き入れて軍団を結成。幸村率いる勇士らの噂が世間に広まる中、亡き秀吉の妻・淀殿に呼び寄せられ彼らは大阪城へと赴く。交戦か籠城かともめる軍議にて、幸村は佐助の入れ知恵で真田丸の築城を提案。幸村と十勇士たちは大坂の陣に出陣する。

中村勘九郎,ほか

大がかりな美術セットに黒澤和子による本格的な衣装、忍者ものらしいアクロバティックなワイヤーアクションに、エキストラの兵士500人以上が参加した大規模な合戦シーン、そこにドラマ性やコメディ要素もしっかりと盛り込まれ堤監督らしさが満載の本作。言葉遣いやキャラクターや物語の設定など、「本格時代劇」と趣は異なるものの、若い世代にも受け入れられやすいモダンな時代劇となっている。アニメーションによる長めの前置きの後にくる真田十勇士コールのヴィジュアルが、戦隊ものか戦国武将ゲームのような決めのポーズとセリフでわかりやすく、観る側の気分をシンプルに高揚させるところも愉快だ。

お調子者の抜け忍・猿飛佐助役は中村勘九郎が、野生の勘まかせの行き当たりばったりの面と、実は頭の切れる策士の面もある男として。佐助の幼なじみで同じく抜け忍、十勇士のイケメン担当・霧隠才蔵役は松坂桃李が長いマントを翻し、傑出した忍者としてクールに。カメラ目線で繰り出される才蔵のキザな台詞は、観客の女性たちにサクサク刺さるのでは。佐助と才蔵の幼なじみで、才蔵を慕いながらも命を狙うくノ一・火垂役は、大島優子が腕力でアタックする“恋する乙女”として。名将の誉れ高くも本当はヘタレな真田幸村役は、加藤雅也がいい味わいで、徳川家康役は耳にふっくらと特殊メイクを施した松平健が堂々たる威厳と貫録とともに、淀殿役は大竹しのぶが潔く思いを貫く女性として、そして十勇士のメンバーとして由利鎌之助役は加藤和樹が冷静に、筧十蔵役は高橋光臣がオネエ言葉まじりで、才蔵につき従う三好兄弟の三好清海役は駿河太郎、三好伊三役は荒井敦史、真田家の家臣・海野六郎役は村井良大、幸村の息子で最年少の真田大助役は望月歩、真田家の剣術指南役の望月六郎役は青木健、そして最弱で口の達者な根津甚八役と豊臣秀吉の遺児で淀君の息子・秀頼役は永山絢斗が1人2役で、さらに火垂の父・久々津壮介役は伊武雅刀が素っ破の精鋭部隊を率いる頭領として、壮介の配下で才蔵の命を狙う刺客・仙九郎役は石垣佑磨が、豊臣家の家臣・後藤又兵衛役は佐藤二朗が、皆それぞれに演じている。
 2014年の舞台の初演、映画の撮影、2016年の舞台の再演と、メンバー間で確かな信頼関係が培われているとのこと。2016年8月29日に新宿で行われた完成披露レッドカーカーペットイベントにて、勘九郎は本作の撮影についてこのように語った。「撮影が過酷な状況だったので団結せざるを得なかったです。必死に寒さ、爆風、火と雨と戦ったメンバーですのでこの絆は何があっても揺るがないですね」

中村勘九郎,大島優子

撮影は大規模な美術セットと、野外に建てたオープンセットにて。東宝スタジオでは大坂城の巨大セットを2階建て+屋根裏つきで7stに、大坂冬の陣の戦いの場となる籾蔵(もみぐら)のセットには本物の土を盛り水を流して9stに建て込まれ、徳川勢を迎え撃つために幸村が建てた真田丸は、千葉県鋸南の小山の上に1ヶ月かけてオープンセットとして建てられた。そして佐助や才蔵たちが馬と一緒に走って突撃してゆく大坂夏の陣の撮影は、和歌山にて行った。またセットのみならず、幸村と十勇士らが豊臣家に招集され大坂城入りをするシーンは、関係者たちの念願だった大坂城での撮影が1日だけ実現したとも。
 過酷な撮影についてキャストは語る。観ていて「えっ!?」と驚くほど、おそらく予定よりもやや燃えすぎの炎のスタントまで自身で行った中村勘九郎は語る。「戦国時代の合戦ものですから、大変であろうことはある程度、覚悟はしていましたが、その予想をはるかに超えていました。飛んだり、走ったり、燃えたり……正直、アクションの限界に挑みました。とりわけ、大坂夏の陣のシーンで実際に自分の身体が炎に包まれながら戦ったことは忘れられません。これだけの大作映画ですからできる限りのことをやりたくて、自ら申し出ました。CGや最新技術も多用する一方で、生の人間がこれだけ動き回っている映画はなかなかないと思います」
 松坂桃李は劇中の激しいアクションと、馬のスピードに合わせて並走するという無茶振りをされたシーンについて、このように語った。「台本からは想像できないことがたくさん起こっていまして、空を飛んだり、馬とともに走ったり、敵陣に突っ込み、敵兵をバッサバッサと切ったり、忍者は少年漫画を地で行くような動きの連続だなと思い、楽しい日々を過ごしていました。『馬と一緒に走ってください』と堤監督に言われて、『馬に乗るんですか?』と聞くと、『いや、馬と一緒に並走してください』と言われて。『何を言ってるんだろうか?』と思ったのですが、不可能を可能にする監督だなとも思いました(笑)」
 木を縦に走るなどのアクションをこなした大島優子は語る。「時代劇に出演するのは初めてなのですが、お姫様役ではなくて、“くノ一”という忍者の役柄だったことが、自分にはぴったりだなと思いました。今回、監督がアクションに期待して抜擢してくださったということで、いろいろなアクションに挑戦させて頂きました。スタントかな? と思うようなところまで漏れなく私がやっています」
 そして2016年3月に行われたクランクアップ報告会見にて、撮影について総括するような大竹しのぶのコメントがとても的を射ている。「(私は)12月で撮影が終わって、ほとんど外には出なかったので、みんなの苦労はわからないんですけど、合戦のカット割りを見せていただいて、『本当にこれを人がやるんですか?アニメにした方がいいんじゃないの?』と言ってしまったぐらいでした。お昼ご飯もほぼなく、夜遅くまで撮影し、撮影期間も延び、過酷な撮影だったと聞きましたが、キャスト・スタッフ含め一人一人が、映画を作ることに誇りを持っていた現場だなと思います。なかなかこういう現場はないので、それを動かす堤さんはいちいち何者なんだろうなって思います」
 個人的に面白かった小ネタは、徳川方が出陣する際の号令と和太鼓だ。「行け〜行け〜」のときはかすかにラテンがかったかのようにリズミカルな太鼓で、「引け〜引け〜」のときはやや重厚な太鼓と、いずれにしてもちゃんとプロの奏者が叩いているだろう響きが心地よく、無意味に巨大な角笛(?)も可笑しい。その号令をかける役も朗々としたいい声の役者として、劇団四季出身のキムスンラを堤監督がわざわざキャスティングしたというからユニークだ。またエンドロールでユーミンの歌とともに流れる戦国絵巻では、その後のエピソードが紙芝居タッチで展開し、最後の最後までどこかネバーエンディング・ストーリーふうのワクワク感があるのも楽しい。

松坂桃李,中村勘九郎,ほか

さてさて、「嘘かまことか、まことが嘘か」。
 本作の真田幸村と十勇士の物語には、「嘘もつき通せばまことになる」という独特の裏テーマ(?)がある。これは詐欺とは詐称とか人を騙し陥れて一山当てるのを肯定するとかそういう意味ではなく、いまの世の中で生きづらさや息苦しさを感じている人、失敗や挫折を経て「自分は生きている価値も資格もない」と思い詰めがちな人に向けて、「気楽に行こうや」とユーモラスに寄り添う言葉だな、と。冗談と勢いの衣を着せた、照れ隠しのやさしさやいたわりというか。堤監督作品のこうした側面は「あたたかいな」と個人的によく思う。
 2016年8月26日には公式本『真田十勇士のすべて 天下相手にでっかい嘘をついた』を出版、現在、新国立劇場の中劇場にて舞台『真田十勇士』も上演中(期間:2016年9月11日〜10月3日)。
 「子供のころ、映画は特別なものだった。本作はそんな気持ちになっていただきたくて作った」という堤監督は本作について、前述の完成披露レッドカーカーペットイベントにてこのように語った。「キャストの熱意が熱く、カメラで何とか捉え、今できる映像技術をすべて駆使しております。この作品は盆暮れ正月がいっぺんに来たような娯楽大作になっておりますのでぜひ、劇場で体感してください!」

作品データ

真田十勇士
公開 2016年9月22日より、丸の内ピカデリーほかにてロードショー
制作年/制作国 2016年 日本
上映時間 2:15
配給 松竹・日活
監督 堤幸彦
脚本 マキノノゾミ
鈴木哲也
音楽 ガブリエル・ロベルト
アクション監督 諸鍛冶裕太
VFXスーパーバイザー 朝倉怜
出演 中村勘九郎
松坂桃李
大島優子
永山絢斗
加藤和樹
高橋光臣
石垣佑磨
駿河太郎
村井良大
荒井敦史
望月歩
青木健
伊武雅刀
佐藤二朗
野添義弘
松平健(特別出演)
加藤雅也
大竹しのぶ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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