ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

コリン・ファース×ジュード・ロウ初共演
偉才の無名作家たちを見出した敏腕編集者の
実話をもとに、創作の舞台裏を描く人間ドラマ

  • 2016/10/07
  • イベント
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ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ© GENIUS FILM PRODUCTIONS LIMITED 2015. ALL RIGHTS RESERVED.

アーネスト・ヘミングウェイやF・スコット・フィッツジェラルドをはじめ、時代を越えて読み継がれている小説家たちを無名の頃に見出し、世に送り出してきたアメリカ人編集者マックスウェル・パーキンズと、夭折した作家トマス・ウルフ、2人の実話をもとに描く物語。出演は『英国王のスピーチ』のコリン・ファース、『シャーロック・ホームズ』シリーズのジュード・ロウ、『めぐりあう時間たち』のニコール・キッドマン、『アイアンマン3』のガイ・ピアース、『ラブ・アクチュアリー』のローラ・リニー、『マネーモンスター』のドミニク・ウェストほか。伝記作品で知られるアメリカのピュリッツァー賞作家A・スコット・バーグの原作をもとに、脚本は『グラディエーター』『007スカイフォール』のジョン・ローガン、監督は舞台の演出家として英米で高く評価され本作で映画監督デビューしたマイケル・グランデージが手がける。ある日、パーキンズのデスクに無名の作家トマス・ウルフの原稿が置かれる。大量の原稿を1日かけて読み込んだパーキンズは、来訪し原稿をもって帰ろうとしたウルフ本人に、「出版します」と告げる。1920〜'30年代のアメリカでベストセラーとなった作家トマス・ウルフの処女作と第2作はいかにして創作されたのか。編集者と作家から友人となり、父子さながらの思いを互いに抱き、密接に関わることで変化してゆく複雑な関係性と感情を丁寧に映し出す。ウルフのハッとさせる文章表現を織り交ぜながら、実話をもとに作家と編集者による創作の舞台裏を描く人間ドラマである。

1929年、ニューヨーク。スクリブナーズ出版社の編集者マックスウェル・パーキンズのデスクに、持ち込みの小説が置かれる。膨大な量の原稿を持ち帰り、1日かけて読み込んだマックスは、後日に原稿を取りに来た作者トマス・ウルフに「出版します」と告げる。どこの出版社にも相手にされなかった自分の小説が、ヘミングウェイやフィッツジェラルドを発掘した編集者に認められたことにトムは感激のあまり涙ぐむ。そこからトムとマックスは二人三脚で、大長編『失われしもの』から大幅に文言を削除して練り上げ、トムの処女作『天使よ、故郷を見よ』として出版。ベストセラーとなる。次いで第2作『時と川の』に取りかかった彼らは、創作活動にますます没頭。5人の娘たちのいるマックスの妻も、夫と子どものいる生活をすべて捨ててトムの生活と才能を支えてきた年上の恋人アイリーンも、強い不満を抱き始める。

ジュード・ロウ,ニコール・キッドマン

抜きんでた作家と編集者という実在した人物たちの逸話をもとに、創作の過程や人間関係の愛憎を丁寧に描いてゆく本作。憧れ、親しみ、信頼、依存、劣等感、疑念、反発、自立、そして……と、生きていれば多くの人が経験するだろう出会いや交流、やっかいな感情と状況に彼らも向き合い、時には感謝し時にはもがきながら創作していたことがよく伝わってくる。余談ながら、ニューヨークを舞台にアメリカ人の編集者と作家を描く作品でありながら、監督と主演の2人がイギリス人で製作も英国であるせいか、不思議とスクリーンから英国調の雰囲気が漂ってくるのが個人的に面白いなと。筆者は日本人なのでそこに抵抗は特になく、ベテランの俳優陣の共演をシンプルに楽しめるものの、アメリカ人からすると別に感じるものがあるのだろうか。

マックスウェル・パーキンズは、現在は20世紀のアメリカを代表する作家と評されるヘミングウェイやフィッツジェラルドを無名時代に見出し、幹部を説得して作品を出版し優れた小説を次々と世に知らしめていった敏腕編集者だ。1884年ニューヨーク生まれ。ハーバード大学の経済学部を卒業し、『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者を務めた後、1910年に出版社チャールズ・スクリブナーズ・サンズに入社。1920年にフィッツジェラルドの『楽園のこちら側』、1925年に『グレート・ギャツビー』、1926年にヘミングウェイの『日はまた昇る』、1929年に『武器よさらば』を出版。映画ではその後、ウルフと出会い彼の作品に関わってゆく姿が描かれている。
 トマス・ウルフは1920〜’30年代に発表した小説がアメリカでベストセラーとなり、37歳で病死した小説家。1929年に第1作『Look Homeward, Angel(邦題:天使よ、故郷を見よ)』、1935年に第2作『Of Time and The River(邦題:時と川の)』をマックスと組んで発表し、3年後の1938年に脳腫瘍で死去。遺された原稿はハーパーズの編集者によって『The Web and the Rock(邦題:くもの巣と岩)』『You Can't Go Home Again(邦題:汝再び故郷に帰れず)』として出版された。この映画には“知る人ぞ知る”存在である作家ウルフの詩的なフレーズがちりばめられ、改めて「読んでみたい」と思わせる感覚が。年月とともに埋もれかけている良質な文学作品と作家を今に伝えるという意味でも、意義のある作品となっている。

ジュード・ロウ

マックス・パーキンズ役はコリンが仕事熱心で誠実かつ献身的な編集者として、トムことトマス役はジュードが享楽的で突き動かされるように猛烈に筆を走らせてゆく天才的な作家として表現。初共演のコリンとジュードはとても相性が良く、演技へのアプローチも似ていたそうで、俳優本人たちの雰囲気と役のイメージがよく合っていることも印象的だ。マックス役は原作者のバーグが「気質と知性において、同じ品格がある」とコリンを指名したそうで、脚本家のローガンは語る。「コリンの表現や世の中の渡り方は、より保守的で繊細で控え目だ。一方、ジュードの世界を駆け、部屋のエネルギーを変えてしまうところはウルフと同じだ。観客は本物の人間関係から自然と生まれたかのような親密さを感じるだろう」
 ウルフと同棲しパーキンズに敵意を向けるアリーン役は、ニコールが恋愛に溺れながらもウルフを作家として男として育てる大人の女性として。ニコールは脚本に惚れ込みアイリーン役を自ら熱望したそうだ。家庭を明るく切り盛りするマックスの妻ルイーズ役はローラ・リニーが大らかに、本が売れずに妻の病気や金策に苦しむフィッツジェラルド役はガイ・ピアースが、マックスと確かな信頼関係にある青年期のヘミングウェイ役はドミニク・ウェストが、それぞれに演じている。マックスが手厚くサポートした有名な作家たちの、あまり知られていない時期や側面がさらりと描かれているところも興味深い。

原作者、脚本家、監督の3人が製作としても参加している本作。この映画の企画そのものは、17年前から始まったとのこと。まず脚本家のローガンが1978年に出版されたバーグの処女作『Max Perkins: Editor of Genius(邦題:名編集者パーキンズ)』を読み、バーグに映画化の快諾を得る。その後、ローガンは約15年かけてパーキンズの手紙や背景の資料などを調べて読み尽くし、じっくりと企画を進めていったそうだ。ローガンは語る。「映画はフィクションだが実話でもある。史実に多少のひねりを加えることはあっても、実在の人物と史実の精神に忠実であること。そこが大切なんだ」
 原作者のバーグはピュリッツァー賞受賞作品『Lindbergh(邦題:リンドバーグ―空から来た男)』をはじめ、キャサリン・ヘプバーンの伝記的回想録『Kate Remembered』、第28代アメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンの伝記『Wilson』などの評伝で知られるアメリカの作家。1971年にプリンストン大学を卒業する際、編集者マックスウェル・パーキンズをテーマにした卒業論文で英米文学科の賞を受賞。その卒論をもとに7年かけて自身で資料を集め、パーキンズの5人の娘をはじめ数多くの人々に取材し、出版社スクリブナーズの全面協力を得て、伝記作品として1冊にまとめ上げたのがこの映画の原作『Max Perkins: Editor of Genius』であり、この著書で全米図書賞を受賞した。バークは今回の映画化について、「この映画を観て、事実じゃないと思うことはひとつもなかったよ」とコメントしている。
 また本作が初の映画監督作品であるグランデージは、英米の演劇界で数々の受賞歴を誇るイギリスの演出家。2000〜’05年にシェフィールド劇場にて、2002〜'12年にドンマー・ウエアハウスにて芸術監督を務めた後、本作で映画監督に挑戦するにあたり独立し、2012年にマイケル・グランデージ・カンパニーを立ち上げた。グランデージは本作のストーリーに惹かれた理由ついて語る。「自分が20年もやっていることなのに、1度も明確に表現できなかった何かについて書かれていると感じた。編集者と作家の関係が、私と俳優たちとの関係とまったく同じだったんだ。創造のプロセス、芸術家たちの人間関係にも興味をかき立てられたね」

コリン・ファース

映画の原題で原作のサブベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐにある『GENIUS』には、“天才”とともに“守り神”という意もあるそう。とはいえ秀でた人々の特殊な秘話というだけではなく、家族や仕事について普遍的な関係や感情の繊細なゆらぎを描いているので、幅広い層の誰もが楽しめる内容だ。もちろん文学が好きな人、出版・執筆関連の仕事をしている人たちはことさらに感情移入しやすいだろう。筆者は作家ではなくライターであるし(英語でwriterは作家の意が強いが、日本語ではニュアンスが違うので)、天才的な作家の物語になぞらえるのはおこがましいと重々承知しているが、いち書き手として編集者の方々への感謝を改めて思った。相性のいい編集さんといいお付き合いが自然と長く続くことについて、そうしたご縁は書き手にとって貴重でありがたいことだなと。
 パーキンズが手がけたウルフの本を読んでみようかと調べてみたら、英語版やほかの言語のものはKindleにあるものの、『天使よ、故郷を見よ』上下巻の和訳は1955年の古書が最新のようで。重量級の名作だけに技量的にも採算的にも再編は容易ではないとは知りつつも、この映画をきっかけにどなたか新訳で発表してくれたらと、ちょっとだけ期待している。

作品データ

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ
公開 2016年10月7日よりTOHOシネマズ シャンテ先行公開、10月14日より全国順次公開
制作年/制作国 2016年 イギリス
上映時間 1:44
配給 ロングライド
原題 Genius
監督・製作 マイケル・グランデージ
脚本・製作 ジョン・ローガン
原作・製作 A・スコット・バーグ
出演 コリン・ファース
ジュード・ロウ
ニコール・キッドマン
ガイ・ピアース
ローラ・リニー
ドミニク・ウェスト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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