海賊とよばれた男

25歳の青年が事業を興し、激動の時代に活躍した実話をもとに
『永遠の0』の山崎貴監督と岡田准一の再タッグで映画化
ひとりの男と仲間たちが時代を生き抜く姿を描く人間ドラマ

  • 2016/11/25
  • イベント
  • シネマ
海賊とよばれた男© 2016「海賊とよばれた男」製作委員会
© 百田尚樹/講談社

1911年に25歳の日本人の青年が事業を興し、明治・大正・昭和の激動の時代に事業を拡大していったさまを伝える物語。出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした百田尚樹のベストセラー小説を、『永遠の0』の山崎貴監督と岡田准一の再タッグで映画化。出演は『蜩ノ記』の岡田准一、『ALWAYS 三丁目の夕日』の吉岡秀隆、『寄生獣』の染谷将太、2017年1月公開予定の映画『本能寺ホテル』の堤真一といった山崎作品になじみのあるメンバーをはじめ、綾瀬はるか、鈴木亮平、小林薫ほか充実の顔合わせにて。石油の将来性を見抜いて事業を興した国岡鐡造は、劇的に変わりゆく生活様式や社会的背景のなか、独自のモットーのもと知恵と行動力で仲間と共に進んでゆく。そして1953年のあの事件へと――。ひとりの男と仲間たちが時代を生き抜く姿を描く人間ドラマである。

綾瀬はるか

1945年、激しい攻撃を受け敗戦国として終戦を迎えた日本。焼け野原となり混乱や不安が蔓延している東京・銀座に、国岡商店本社ビルはなんとか焼け残っていた。店主の国岡鐡造は本社に集まってきた店員たちに、「一人も首にはせん」と告げる。
 1912年、北九州・門司。主要燃料が石炭だった頃に石油の将来性を見抜いて会社を興した国岡鐡造は、石油販売業の新参者として苦戦。が、伝馬船を使って海上で石油を売りさばくという奇策で成功。対岸の下関の石油販売業者から抗議を受けるも鐡造はまったく意に介さず、同業者から国岡商店の面々は「海賊ども」と呼ばれるように。そして1917年には石油メジャー各社のものよりも良質な車軸油を開発し、満鉄(南満州鉄道株式会社)の大きな取引を勝ち取るが……。

男たちによる男たちの物語。信頼で結ばれた人から支援を受け、機運を読み、知恵と勢いで突き進む姿がよく描かれている。劇中では鐡造が60代の頃を特に多く描いているため、約3時間かけて特殊メイクをしたという岡田准一も含め、ビジュアルとしてはまさに“おじさん祭り(山崎監督)”だ。紅一点である鐡造の最初の妻・ユキは古風で、出演シーンが少ない上にできすぎなくらいの女性であることから存在がとても遠く、現代女性のひとりとしてシンプルに共感できる面は、筆者は正直……。ただ現代の日本経済の礎が築かれ始めた時代にわかりやすく触れてみるという意味で、若い世代の人たちにとっていいきっかけになるかもしれないなと。当時の日本で起きた社会的な出来事を、説教っぽくなりすぎず力強い人間ドラマとして見せてゆく構成は、脚本・VFXも手がける山崎監督の手腕だろう。奥田誠治プロデューサーは(現・日テレラボ シニアクリエイター)、このストーリーで伝えたいことと山崎監督への信頼についてこのように語る。「本作で描かれる日章丸事件は、戦後日本の復興を語る上でもっとも重要な事件と言っても過言ではありません。日本人は日本のことを知らな過ぎると常々思っているのですが、民間企業も日本の復興について真剣に考え、大きなことをやり遂げたというのは、知っておくべき出来事。そのことを誰もが楽しめる映画という形で見せられるのは山崎監督しかいない。何年たっても残る映画にしたいし、山崎監督とならそれができると思いました」

ピエール瀧,野間口徹

知恵と度胸と豪腕で店員たちを率いてゆく国岡鐡造役は岡田准一が、青年期〜90代までを九州弁で熱演。特に60代の鐡造が多く描かれているため、撮影の合間の空き時間でも声のトーンや立ち居振る舞いは60代の鐡造のまま過ごしていたそうだ。国岡商店の店員たちは、元日邦石油の社員だった東雲役を吉岡秀隆が、元漁師の長谷部役は染谷将太が、創業時から鐡造の右腕として支える甲賀役は小林薫が、創業時から傍で働く柏井役は野間口徹が、元GHQの通訳で諜報も得意とする武知役は鈴木亮平が、戦後にGHQの要請であるラジオの修理事業を持ち込む元海軍大佐の藤本役はピエール瀧が、それぞれに演じている。また鐡造の最初の妻・ユキ役に綾瀬はるか、鐡造の兄・万亀男役に光石研、日承丸の盛田船長役に堤真一、国岡商店創業の大恩人である木田役に近藤正臣、鐡造と長年に渡り激しく対立する石統(石油配給統制会社)の社長・鳥川役に國村隼、老いた鐡造のもとを訪れる女性・小川初美役に黒木華の出演も。

ラストに描かれる出来事は、当時に世界的なニュースとなった1953年の日章丸事件をもとにしている(劇中の船名は「日承丸」)。1953年3月、出光は自社のタンカー日章丸二世を極秘裏にイランへ差し向け、同年の5月にガソリンや軽油約2万2千キロℓを積載し日本の川崎港に帰港。当時、イランは第二次世界大戦後に国家として独立していたため、道理として何もおかしなところはないものの、依然としてイランがイギリスの強い影響を受け続けていたことから、イランの石油をイギリスに断りなく輸入しようとするタンカーは英国海軍が撃沈すると表明されていたのだ。そのため、イランの石油を直接買い付けて輸入することはどの国もできないままでいたなか、イランとの直接交渉による石油の輸入を日本のいち民間企業である出光の日章丸がやり遂げたことから、世界から大きな関心を集めた。その後、同年5月に英国アングロ・イラニアン社(BPの前身)が積荷の所有権を主張し法廷闘争となったものの、国際社会の反応もあり同年10月には提訴を取り下げ、出光側の勝訴となった――この事件だ。劇中では物語上、準備もそこそこに勝負に打って出たように感じられる面もあるものの、実際にはイランの要人との交渉や根回し、法的には問題のない手法や政治的な軋轢を回避する方法を詳細に渡り検討し、できる限りの準備をした上で実行したと言われている。
 本作の撮影中、2015年11月28日に行われた製作発表会見にて、山崎監督は伝えたい内容についてこのように語った。「時代としては戦後、日本がしょんぼりしていた時代に、今でさえ考えられない掟破りなことをした男たちがいて、『なぜその決断に至ったのか?』『どんな思いでチームとして日承丸をイランに送ることを選んだのか』を、一緒に探りたいという思いで撮影を進めております。それを伝えられる躍動感あふれる映画にしたいと思っています」

鈴木亮平,ほか

実話に基づいていることもあり、エンターテインメントというよりも“男の一生”という実直な雰囲気が全編に満ちている本作。2016年11月14日に行われた完成披露試写会にて、山崎監督は本作について、「長い時間をかけてひとりの男の一生を描いた映画です。皆さんにも何か感じ取ってもらえると思います」とコメントしている。もちろん現代は人も社会も文化も当時とは異なるので、国岡鐡造イズムをすべて鵜呑みにして実践すれば人生も事業も何もかもうまくいくということでは当然ないものの、有利とはいえない状況を打破してゆく不屈の精神や、部下たちを大切にする大家族主義など、先人の姿勢を知るのは、今を生きる私たちの励みや参考になる面もあるだろう。最後に完成披露試写会にて、岡田准一が伝えたメッセージを紹介する。「劇中で『熱が足りんのよ、熱が』というセリフがあるんですが、それを合言葉にキャスト、スタッフで作り上げた、熱をもった作品になっています。自信をもって、皆さんに山崎監督が作ったこの作品をお届けできると思います」

作品データ

海賊とよばれた男
公開 2016年12月10日より全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2016年 日本
上映時間 2:25
配給 東宝
監督・脚本・VFX 山崎 貴
原作 百田尚樹
音楽 佐藤直紀
出演 岡田准一
吉岡秀隆
染谷将太
鈴木亮平
野間口徹
ピエール瀧
須田邦裕
飯田基祐
小林 隆
矢島健一
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。