未来を花束にして

キャリー・マリガンをはじめ人気女優が共演
20世紀初頭の英国で女性参政権運動に身を投じた
女性たちの実話をもとに描く人間ドラマ

  • 2017/01/13
  • イベント
  • シネマ
未来を花束にして© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

イギリスで30歳以上の女性に参政権が認められた1918年からもうすぐ100年。人気俳優をはじめ実力派たちの出演により、20世紀初頭のイギリスで女性参政権を求める過激な活動に身を投じた人々の実話をもとに描く。出演は映画『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』のヘレナ・ボナム=カーター、『ハリー・ポッター』シリーズのブレンダン・グリーソン、舞台や映画で活躍するアンヌ=マリー・ダフ、『007 スペクター』のベン・ウィショー、そしてオスカー女優のメリル・ストリ−プほか。監督は2007年の長編映画デビュー作品『Brick Lane』(日本未公開)が高い評価を得たサラ・ガヴロン、脚本は映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のアビ・モーガンが手がける。洗濯工場で働く女性モードは貧しくとも夫と幼い息子とつつましく暮らしているなか、WSPU(女性社会政治同盟)のメンバーたちが女性参政権を求めて激しい抗議活動を展開する現場に遭遇する。政治的なテーマを人間ドラマとして描き、わかりやすく伝える作品である。

1912年のロンドン。劣悪な環境の洗濯工場で働く女性モードは貧しくとも夫と幼い息子とつつましく暮らしている。ある日、モードはWSPUのメンバーたちが女性参政権を求めて激しい抗議活動を展開する現場に遭遇。その後、同僚のバイオレットの紹介で、家業の薬局を集会所として提供し自身も政治犯として9回の逮捕歴をもつ薬剤師のイーディスと知り合う。街では女性参政権運動への警察の取り締まりが強化され、アイルランドでテロ対策を指揮したスティード警部が赴任し、モードも活動メンバーとしてマークされてしまう。そんななかバイオレットの代理で、モードが女性参政権について下院の公聴会で証言をすることになり……。

アンヌ=マリー・ダフ,キャリー・マリガン

実在した人物や実際のエピソードをもとに、いろいろな人たちの要素をとりいれた主人公モードらフィクションの人物を織り交ぜて練り上げた物語。たとえばWSPUの抗議活動として、“人を傷つけてはならない”という原則を留意しているとはいえ、建造物のガラスを割り電話線を切りポストを爆破するなどの破壊行為は個人的には観ていて抵抗があるものの、この物語は共感できるかどうかとか正しいかどうかということより、膠着した情勢が長く続くなか「やるしかない」と思い詰めた人たちのさまざまな活動により社会が変化していったことで、女性が参政権をはじめ男性と等しく人として生きる権利や立場を得て現在に至る、という史実を改めて知るための作品なのだろう。

思想も財産もなく教育を受けていない労働者階級の市井の女性から女性参政権運動を知り変化してゆくモード役は、キャリーが迷い苦しみながらも自らの生き方を選択する様子を好演。モードの同僚バイオレット役はアンヌ=マリー・ダフが夫や子どもと暮らし働きながらも女性参政権運動を熱心に続けるひとりとして、家業である薬局を集会所として提供し、何度逮捕されても活動し続ける薬剤師イーディス役はヘレナが知的に、彼女の夫ヒュー役はフィンバー・リンチが理解ある協力者として、運動の取り締まりをするスティード警部役はブレンダン・グリーソンが、それぞれに演じている。WSPUのリーダーであり女性参政権運動の象徴的な存在であるエメリン・パンクハースト役は、メリル・ストリープが短い出演ながら印象的に演じている。

キャリー・マリガン

本作には実在の人物をモデルにした人物が登場する。メリルが演じたエメリン・パンクハーストは、女性社会政治同盟ことWSPU (Women's Social and Political Union)を結成しイギリスで女性参政権運動を牽引したパンクハースト夫人として有名であり、ヘレナが演じたイーディスは、警察の暴力から身を守るために女性たちに柔術を教えていた女性であり、ナタリー・プレスが演じる活動メンバーのひとりエミリー・ワイルディング・デイビソンは、1913年6月4日にエプソムのダービーでイギリス国王ジョージ5世の所有の馬の前に飛び出した人物だ。本作で名前や存在が知られている実在の人物を主役にするのではなく、架空の労働者階級の女性を主役にしたことについて、監督は語る。「モードは歴史的な存在であるエメリン・パンクハーストやエミリー・ワイルディング・デイビソン、議員のロイド・ジョージらとの関わりを通して運動にのめり込んでいきます。モードの感情や経験を通して、私たちの意図が観客により伝わりやすくなると考えました」。そして原題『SUFFRAGETTE』についてガヴロン監督は語る。「“Suffragette(サフラジェット)”とは、女性の参政権を求める活動家の蔑称としてイギリスのマスコミが作り出した言葉です。その呼び名がやがて女性運動を指す言葉として定着しました。彼女たちの驚異的でパワフルな物語を今までどうして誰も映画化しなかったのか、不思議です」

女性参政権について確認してみると、世界で初めて女性参政権を認めた国はニュージーランド(1893年)とのこと。イギリスは1918年に30歳以上の女性に、1928年に男性と同様に21歳以上の女性に認められ、日本では1945年から20歳以上の男女に参政権が与えられた。余談ながら、世界では1950年ごろまでに多くの国で女性参政権が認められているものの、意外とスイスが遅く連邦としては1971年に認められたという。しかもアッペンツェル・アウサーローデン準州がずっと女性参政権を反対し続けて1991年にようやく認めたことから、スイス全土で認められたのはたったの26年前とも。そんなことはどちらでも、というほど国民が満足しているからとも考えられるものの、「連邦制とはいえ先進国でそんなことが……」と驚いた。

メリル・ストリープ

ほんのひと昔前まで、女性は男性よりも劣るとされ、社会的に何の権利もなかった時代があったこと。激しい弾圧に屈することなく、さまざまな形で働きかけた人たちの活動により情勢が少しずつ変化してゆき、女性の人格と権利が認められるようになり、現代に至っていること。
 日本では2016年には選挙権が男女ともに18歳以上に引き下げられ、小池百合子氏が東京都知事に就任するなど政治への注目が高まっていて。本作を観て個人的には、選挙で一票を投じる権利があるのはとても恵まれていることだと、改めて噛みしめた。この作品のように人気女優の出演作なら若い世代や政治に興味のない人たちも観る機会があるかもしれないし、観た後ですぐに考えが変わるとか何かをするということはなくとも、何かひっかかりが残るといいなと筆者は思う。本作の脚本を手がけたモーガンは語る。「これは私たちの内側にあるフェミニズムやサフラジェットを容認し、それを表へ引き出すことについての作品。製作に関わったすべての女性は内なるフェミニズムに気づき、“女性家族”の一員として再結束したわ。そして私たちの世代の女性がどれほどの資格や権限を持っているかに気づかされた。いろんな意味で、私たちが力を手にした最初の世代の女性と言えるかもしれない。でも、現在でも不平等や性差別は存在している。欧米社会でも、あからさまではないけれどなくなってはいない。決して歴史的な出来事の映画ではなく、今も続いている普遍的な運動の話なのよ」

作品データ

未来を花束にして
公開 2017年1月27日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 イギリス
上映時間 1:46
配給 ロングライド
原題 SUFFRAGETTE
監督 サラ・ガヴロン
脚本 アビ・モーガン
製作 フェイ・ウォード
アリソン・オーウェン
出演 キャリー・マリガン
ヘレナ・ボナム=カーター
ブレンダン・グリーソン
アンヌ=マリー・ダフ
ベン・ウィショー
メリル・ストリープ
フィンバー・リンチ
ナタリー・プレス
ジェフ・ベル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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