素晴らしきかな、人生

愛とは? 時間とは? 死とは?
喪失と再生の経緯を哲学的かつユニークに描く
人生の岐路を進む大人たちへ贈る、あたたかな群像劇

  • 2017/02/20
  • イベント
  • シネマ
素晴らしきかな、人生© 2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.,
VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT, LLC

イルミネーションがきらめくニューヨークを舞台に実力ある人気俳優たちが結集、劇中で一流ファッション・ブランドの数々を着こなす、2006年の映画『プラダを着た悪魔』のデヴィッド・フランケル監督による最新作。……という華やかなキャッチフレーズからすると、いい意味での意外性のある、喪失と再生の経緯を哲学的かつぬくもりのあるアプローチで描く人間ドラマ。出演は映画『幸せのちから』『スーサイド・スクワッド』のウィル・スミス、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエドワード・ノートン、『愛を読むひと』のケイト・ウィンスレット、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のキーラ・ナイトレイ、『クィーン』のヘレン・ミレン、『オデッセイ』のマイケル・ペーニャ、『007 スペクター』のナオミ・ハリス、『メイズ・ランナー』のジェイコブ・ラティモアほか。成功した実業家ハワードは幼い愛娘を病気で亡くし、深い喪失感から抜け殻のようになる。愛とは? 時間とは? 死とは? 強い怒りとともに繰り返される問いに、思いがけず答えが届いた時、状況が少しずつ変化してゆく。そしてそれは、それぞれの悩みや迷いを抱える周囲の人たちへも影響し……。人生の岐路を進む大人たちへ贈る、あたたかな群像劇である。

ニューヨークの広告代理店で成功したハワードは、幼い愛娘を病で亡くしてから、深い絶望と喪失感により抜け殻のようになったままに。友人で同僚のホイット、クレア、サイモンの3人は、ハワードに立ち直ってもらいたいと心を砕いているものの、彼は殻に閉じこもったままうつろに過ごしている。会社はこれまでハワードのアイデアと人脈で発展してきたため経営不振となり、3人は会社の今後についても判断しなければならないなか、探偵を雇いハワードを調査。彼は「愛へ」「時間へ」「死へ」と宛てた住所のない手紙をポストに投函し、食べることも眠ることもあまりせずに街を彷徨っているとわかる。ある日、バツ1のホイットが女優志望の美しい女性と出会ったことから、ハワードへの働きかけで突飛なことをクレアとサイモンに提案。それは舞台俳優を目指すエイミー、ブリジット、ラフィの3人が擬人化した「愛」「死」「時間」としてハワードの前に現れ、彼からの手紙の内容に返事をする、という内容だった。

ケイト・ウィンスレット,エドワード・ノートン

本作はビジュアルからすると映画『バレンタインデー』『ニューイヤーズ・イブ』といった、人気俳優たちによるスタイリッシュな雰囲気を味わう群像劇というシンプルなイメージもあるものの、その要素をもちつつも、それだけではないところが特徴だ。娘を亡くし離婚して運命や神に憤怒しながら無為に生きるハワード、自分の浮気が原因で離婚し離れて暮らす娘から軽蔑されている父親ホイット、独身のままアラフォーになり子どもを産みたいと考えるキャリア女性クレアなど、年を重ねると起こりうる出来事やリアルに考え始めるさまざまなことが描かれ、その心情に対するある種の投げかけや救いのようなものもあって。こうした要素をスタイリッシュに描くことに違和感、という向きもあるかもしれないが、筆者はまさに物語のターゲット世代でもあるせいか、沁みるものがあった。

フランケル監督は映画の原題『Collateral Beauty』と、この物語の魅力について語る。「日々、私たちが当然のように思っていて、気づかない幸せがありますよね。例えば美しい夕日や子どものほほえみといった、つかの間の宝物のようなものです。“Collateral Beauty”(不幸な出来事に付随して思いがけず生まれる素晴らしいこと、幸せなこと)には、無数の例があります。どれも独特で、それが何であるかについては誰もが自分なりの解釈をします。それは私たちが前に進んでいく理由にもなるんです。この映画のストーリーが魅力的なのは、この世界は生きる価値があると思わせてくれる、それぞれの人生のささやかでも素晴らしい断片を大切にすることを思い出させてくれるからじゃないでしょうか」製作のアンソニー・ブレグマンは、劇中にあるハワードと同僚3人との相互作用について語る。「慈善というのは、受けとる側と同じぐらい、行った側の役に立つことがよくあります。彼ら3人に関しても、自分たちが愛する人物を助けようとすることで、彼ら自身の人生における喪失感の対処に役立つんです。私としては、それも愛がもたらす現実だと思いたいですね。ビートルズの歌を少し言い換えるならば、人は与えた分だけ受け取るものなんです」

キーラ・ナイトレイ

娘を亡くし抜け殻となるハワード役はウィルが繊細に表現。ハワードの友人で同僚の3人は、離れて暮らす娘との関係に悩みながらもエイミーを熱心に口説くホイット役はエドワードが軽妙に、ハワードを心配し食事を届けるなどしながら、子どもを産みシングルマザーになるかどうかを考えるクレア役はケイトが心優しい女性として、妻子に大切なことを言い出せずにいるサイモン役はマイケルが真面目で実直な男性として。また舞台俳優を目指し、「愛」を演じるエイミー役はキーラが快活に生き生きと、「死」を演じるブリジット役はヘレン・ミレンがユーモアのある率直な女性として、「時間」を演じるラフィ役はジェイコブが遊び心と直観力のある青年として、また子どもを亡くした親たちを支援するグリーフ・カウンセラーのマデリン役はナオミが献身的な女性として、それぞれに演じている。
 豪華な顔合わせのキャストと本作の製作についてフランケル監督は語る。「この映画のキャストは自分の仕事を愛し、映画作りに深い愛情を抱いている情熱的な俳優たちばかりなんです。誰もが第一線で活躍し、共演者との絡み方もじつに素晴らしい。あの脚本を読み、涙を流さなかった人はひとりもいなかったと思いますが、撮影中は笑いが起こらないシーンもほとんどなかった。そんなところも、この映画の製作過程でやりがいがあった点でしたね」
 ヘレン・ミレンはこの物語のテーマとメッセージについて語る。「この映画の本質には“Collateral Beauty”の概念があります。これ以上ないというほど困難な状況にあっても、ポジティブで美しく、思いがけない何かを見いだせるものだということ。それは人それぞれの人間性、人と人の関わりにも見いだせることが多いものです。この映画を観た方たちが、人生を楽観的に見よう、関わり合って生きていこうと思ってくれると嬉しいですね」

「まるでスノードームのなかにいるような感じ(フランケル監督)」という、きらびやかなイルミネーションとツリーが街を彩るクリスマス・シーズンのニューヨークを舞台に撮影した本作。撮影はマンハッタンのアッパー・イーストサイドから始まり、劇中には2015年にミートパッキング地区に移転し新オープンしたホイットニー美術館のレストラン、日本でも芝公園などにあるレキシントン街のカフェ「ル・パン・コティディアン」、五番街の高級百貨店「バーグドルフ・グッドマン」といった店舗もいろいろ登場。ブルックリンではチャーチ・アベニュー地下鉄駅や、ブルックリン・ブリッジ・パークの劇場セント・アンズ・ウェアハウスなどでも撮影が行われた。
 また本作ではプラダ、グッチ、クロエ、トム・フォード、ジル・サンダー、イザベル・マランなどの秋冬コレクションの新作やヴィンテージなどを俳優たちが着こなす、洗練されたファッションも魅力のひとつとなっている。

マイケル・ペーニャ,エドワード・ノートン,ケイト・ウィンスレット,ほか

年を重ねていくにつれ、明確な答えのない疑問は増え、選択しなければならない岐路にふいに立つこともあり。哲学書やスピリチュアル系や啓蒙ものや宗教にまつわる本を読み漁っても、納得のいく答えや救いがあるはずもなく。ハワードの思考の経緯は個人的によく理解できる。「愛」「時間」「死」という本作のテーマについて、フランケル監督は語る。「これらの深遠な概念について、この映画を観た人々が、それまでよりも理解を深めるとは限らないでしょう。でも自分の人生にそれらがいかに影響を及ぼすかを考えてみようと思うくらいには心を動かされるかもしれません。私たちは皆、これらの抽象概念の重要性をよく考えてみなければならない。それがこの映画のメッセージなんです。この作品が皆さんにとって人生を肯定的に考えるきっかけになり、日常生活から抜け出せるような充実した映画体験になれば嬉しいですね。そして少しでも友人や家族と話題にしてくれたらいいなと思っています」

作品データ

素晴らしきかな、人生
公開 2017年2月25日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 1:37
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 COLLATERAL BEAUTY
監督 デヴィッド・フランケル
脚本・製作 アラン・ローブ
出演 ウィル・スミス
ケイト・ウィンスレット
キーラ・ナイトレイ
エドワード・ノートン
ヘレン・ミレン
ナオミ・ハリス
ジェイコブ・ラティモア
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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