マンチェスター・バイ・ザ・シー

アカデミー賞主演男優賞・脚本賞受賞作品
何があっても自らの人生をそれぞれに続けていく姿を
海辺の風景とともに静かな目線で描く人間ドラマ

  • 2017/05/01
  • イベント
  • シネマ
マンチェスター・バイ・ザ・シー© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

マット・デイモンがプロデュースを手がけ、第89回アカデミー賞にて主演男優賞と脚本賞を受賞した話題作。出演はベン・アフレックの実弟ケイシー・アフレック、『ブルーバレンタイン』のミシェル・ウィリアムズ、『キャロル』のカイル・チャンドラー、『ギルバート・グレイプ』の原作・脚本を手がけたピーター・ヘッジズを父にもつルーカス・ヘッジズ、『ムーンライズ・キングダム』のカーラ・ヘイワードほか。監督・脚本は『ギャング・オブ・ニューヨーク』の脚本が高く評価されたケネス・ロナーガン手がける。ボストン郊外で暮らすリーは、兄の死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ることになるが……。ひとりの男と周囲の人々が、何があろうとも自らの人生を続けていくさまを静かな目線で描く人間ドラマである。

アメリカのボストン郊外でアパートの便利屋として働くリーは、兄ジョーの死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーへと戻る。兄はすでに離婚し16歳の息子パトリックと2人暮らしだったことから兄の遺言により、リーは彼の甥であるパトリックの後見人に指名されていた。向いていない上に思ってもいなかったことで困惑しながらも、甥と同居して面倒を見ながら日々を過ごすなか、リーは以前に故郷で起きた自身の過去と向き合うことになる。

ケイシー・アフレック

物語が進むうちに、リーがなぜ人や世間と距離を置きすさんだ気持ちでいるのか、離婚した妻との関係、過去に故郷で起きた出来事が少しずつ明かされてゆく本作。思いやり深く家庭的な兄ジョーとの信頼関係、母とは両親の離婚で別れたきり、父を亡くして1人になり哀しく寂しくとも16歳の暮らしを謳歌する甥パトリックとの対立や支え合う様子は染み入るものが。痛みを知る人の心情を日常のユーモアを交えつつ描く本作について、ロナーガン監督は語る。「ユーモアは大好きだ。ユーモアがない人生なんて意味がない。今作も、僕は重く暗い映画だとは思っていない。登場するすべての人が苦しんでいるけれど、それは誰の人生においても起こりうる状況だ。物語はリーとパトリック、二人の対比を表している。とても悲惨な経験をした男と、大変だけど高校生活を満喫している元気な少年。少年は誰かに面倒を見てもらう必要があるが、同時に彼は叔父が間違いを犯さないよう気をつけたり、ヘルプをお願いしたりしなくてはいけない。この二人のやりとりが面白いんだ」

故郷に戻り甥の面倒を見るリー役はケイシーが、過去の出来事にもがき苦しみながらも自分として生きるしかない男として、どうしようもなさを等身大で表現。ケイシーはアカデミー賞主演男優賞の受賞スピーチにて、本作への思いとスタッフへの感謝をこのように語った。「とにかく私にとって大きな意味をもつものです。私がここにいるのは、多くの人たちの才能があるからです。なによりこういう役をケネス・ロナーガンが書いてくれたのでここに立つことができました。もっと意義ある大きな事を言いたいのですが、とにかくこのコミュニティの一員であることを誇りに思っています。マット・デイモン、チャンスを与えてくれてありがとう」
 リーの兄ジョー役はカイルが家庭的で面倒見のいい誠実な男性として、甥パトリック役はルーカスが少年らしい健全さと素直さを自然体で、リーの元妻ランディ役はミシェルが、兄の元妻エリーズ役はグレッチェン・モルが、それぞれに演じている。

ケイシー・アフレック,ルーカス・ヘッジズ

そもそも本作のストーリーの核はマット・デイモン本人のアイデアで、まずはプロデューサーとして企画を進め、自身の主演による監督デビュー作にと考えていたという。そしてデイモンはロナーガンに脚本を依頼。2人は、2002年にロンドンでデイモン主演により上演されたロナーガンの演劇『This is Our Youth』で知り合い、自身も脚本家としてオスカー受賞経験のあるデイモンはロナーガンの脚本について、「なんて完璧で精緻なんだろう」と思ったという。その後、ロナーガンはこのプロットを自身のオリジナルストーリーにすべく2年かけて脚本を練り上げるなか、デイモンはスケジュールの都合で主演と監督を降板。そして完成した脚本に感銘を受けたデイモンは「監督も彼でなくては」と考え、監督をロナーガンに、そして主演をケイシーに引き継ぎ、デイモンはプロデューサーとして映画の完成まで尽力したそうだ。この作品とロナーガン監督について、デイモンは語る。「これは、人々の心にずっと残る映画だ。ケニー(監督)が生み出すキャラクターたちはとても深く、豊かに描かれている。緻密で説得力があるんだ。多くの映画のキャラクターは鉛筆のスケッチのようなもの。でも彼のキャラクターたちは、実際に生きているように感じられて共感できる。力ある役者と脚本、そしてケニーの演出によって、この映画は忘れられないものになったんだ」
 そしてロナーガン監督はアカデミー賞脚本賞の受賞スピーチにて、本作への思いをこのように語った。「わたしは映画が大好きです。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、人と人が手を差し伸べ合うお話です。映画のように、わたしも多くの人に手を差し伸べてもらって、今ここにいます」

カイル・チャンドラー,ケイシー・アフレック

完璧に立ち直るか、生きるのを諦めて放棄するか、という2択ではなく、すべてが完全に解決することはなく傷は傷のまま一生癒えることはないとしても、それを抱えたまま生きていくこともできる、ということ。現時点で非常につらく、そのつらさ自体がやわらいだりなくなったりすることは絶対にないとしても、人や環境とともに長い時間を経てゆくことで、ほんの少しずつでも、そのつらさとは別のところで変わっていく部分があるのだろうという希望や可能性が、ストーリーを通じて体感として伝わってくる。本作は物語として重い面もありシンプルに楽しめるエンタメ作品では決してないものの、喪失や絶望を経験したすべての人に沁みるものがあるのは確かで、人を大切に思って作られた物語だと感じる。最後に、ロナーガン監督が映画への思いを語ったメッセージをお伝えする。「僕の願いは、観客のみなさんが映画を見て、実際に体験した気持ちになってほしい、ということ。感じ方は多岐にわたるだろう。僕が表現したいことを映画として人に見せても、受け取る側の感じ方は千差万別だし、そうあるべきだ。心が揺さぶられ、ジョークに笑い、演技が素晴らしいと感動することを願っています」

作品データ

マンチェスター・バイ・ザ・シー
公開 2017年5月13日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 2:17
配給 ビターズ・エンド/パルコ
原題 Manchester by the Sea
監督・脚本 ケネス・ロナーガン
プロデュース マット・デイモン
出演 ケイシー・アフレック
ミシェル・ウィリアムズ
カイル・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ
カーラ・ヘイワード
グレッチェン・モル
C.J.ウィルソン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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