新鋭監督×実力派俳優 SF小説を映画化
地球に飛来したエイリアンとの対話と交流、
女性言語学者の心の進化を描くヒューマンドラマ
「僕にとって本作は“美しい物語”。生きることへの祝福と、新しい感動を感じてほしい」
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、2017年4月13日に東京で行われたトーク・イベントにてこのように語ったSF作品。出演は、『アメリカン・ハッスル』のエイミー・アダムス、『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナー、『ラストキング・オブ・スコットランド』のオスカー俳優フォレスト・ウィテカーほか。原作は優れた SF作品に贈られるネビュラ賞の受賞経験のあるアメリカの作家テッド・チャンの短編小説『Stories of Your Life and Others(邦題:あなたの人生の物語)』。監督は『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』(2017年10月27日 日本公開)の監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚本は『ライト/オフ』エリック・ハイセラーが手がける。言語学者のルイーズは“彼ら”と対話を試みるうちに、奇妙な感覚の広がりを感じるようになり……。究極の異文化であるエイリアンとの対話と交流を経て、主人公の内面のダイナミックな進化を描くヒューマンドラマ、という独特の魅力をもつSF作品である。
地球の各地に突如、12の巨大な宇宙船が降り立った。それらを操る知的生命体ヘプタポッドは、人類にとって平和の使者なのか脅威なのか。その判断と対話をすべく軍の要請により、言語学者のルイーズと物理学者のイアンは、ヘプタポッドたちとの直接対話を開始する。ルイーズは人間のものとはまったく異なる、動く絵画のようなヘプタポッドが発する表意文字の解読に没頭するうちに、自身の時間軸がゆらぐような奇妙な体感を覚える。彼らが地球にやってきた理由、そして人類に向けたメッセージとは?
第89回アカデミー賞にて作品賞・監督賞・脚色賞など8部門にノミネートされ音響編集賞を受賞、観客や批評家から世界的に高い評価を得ている本作。SFといっても大がかりな派手さはなく、力強くあたたかな人間ドラマで引きつける作品だ。SFというと主に男性向けで、エイリアンとのバトルや、チームによる宇宙の旅といった内容が浮かぶ向きもあると思うが、この作品では主人公である大人の女性ルイーズのパーソナルな内面を描き、女性の感性に訴える内容となっている。2017年4月14日に行われた来日記者会見にて、ヴィルヌーヴ監督は本作についてこのように語った。「(観客が)没入して観られる作品を作りたかった。ひとりの女性の親密で詩的な作品として描いたんだ」
言語学者のルイーズ役はエイミーが、複雑かつ親密な感情表現を丁寧に表現。学者としてその地域の人類の代表としてヘプタポッドとの対話に心を砕き、母親として幼い愛娘に思いを馳せる姿を繊細に演じている。ルイーズとともに言語解読に臨む物理学者のイアン役はジェレミーが、陽気な性分のリアリストでありルイーズをサポートする存在として、ルイーズとイアンに依頼をする軍の情報部員ウェバー大佐役はフォレスト・ウィテカーが、現場を見守りつつ軍上層部やCIAなどとの間で沈着かつ迅速な判断が求められる重要な立場として、CIA捜査官のハルペーン役はマイケル・スタールバーグが、ルイーズとイアンを宇宙船に案内する軍人マークス大尉役はマーク・オブライエンが、それぞれに演じている。
また主要キャラクターである知的生命体ヘプタポッドのアボットとコステロは、ヴィジュアル、書き言語、話し言葉(動作音?)、ひとつひとつを複数のクリエイターが担い熱心に作り込まれた。外見のヴィジュアルは『プロメテウス』などのクリーチャー・デザイナーのカルロス・フアンテが、円を描く彼らの不思議な味わいの書き言葉はアーティストのマルティネ・ベルトランが、そして話し言葉は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのサウンド・デザイナー、デイヴ・ホワイトヘッドが担当。監督はヘプタポッドのデザインについてこのように語っている。「エイリアンには、クジラのように大きくて、力強い存在感をもたせたいと思った。水中にいて巨大な生き物のそばでその強い知性と存在感を味わっている感覚が欲しかったんだ。ゾウでもそういう感覚を得られるのかもしれないね。大自然の中でゾウに出会ったら、強く、本能的な存在感と深い知性を感じるものだ。それこそ、僕が求めていたものだった。だから彼らとちゃんとコンタクトをとれないでいる最初の頃でも、彼らの存在をしっかり感じられるようにしたかったんだ」
また前述の記者会見にて、監督はこのようなコメントも。「実は僕とチームは日本のデザインに影響を受けたんだ。エイリアンに強い存在感を与えるため、筆の感じや禅をイメージしました」
そもそもは脚本家のハイセラー、プロデューサーのダン・レヴィン、製作総指揮のダン・コーエンが企画を探しているなかで、ハイセラーが今お気に入りの作品としてテッド・チャンの短編集『Stories of Your Life and Others』をあげたことが始まりとのこと。ハイセラーは語る。「テッドの短編ほど惹きこまれた作品はあまりないよ。でも、このストーリーが本質的に映画的だと感じたわけではないんだ。ただ久しぶりに、脳とハートの糧になるようなものに出会ったと思った。考えさせられたし、さまざまな感情を味わったよ。最終的には、人類について、そして自分自身について、楽観的なメッセージを与えてもらった気がしたんだ」
プロデューサーたちが映画化を最初にオファーした際、原作者テッド・チャンのもとにイメージとしてヴィルヌーヴ監督の2010年の映画『灼熱の魂』のDVDが届いたことから、映画化を前向きに考えたとのこと。原作者のチャンは映画化の経緯について語る。「あのストーリーを書いたとき、映画化されるとは夢にも思っていなかったから、どんな映画になるのか、なかなか想像できなかったんだ。でもエリックの説明を聞くうちに、彼が考えている映画をイメージすることができたし、気に入ったので、彼に脚本を書いてもらった。書き上げた脚本を読んでコメントをさせてもらい、その後の数年間にいくつか変更はあったけれど、大方はエリックが最初に説明してくれたもののままだよ」
個人的には、子どもの頃からSFが大好きだった筆者は、この映画を観た感覚に、いろいろなSFを観たり読んだりした時そのもののような体感があり、そこが面白いなと思った。想像を超える仕組みや圧倒的な存在、畏敬する思想や世界観に触れ、リミットがはずれて自分のちっぽけな感情や視野、一般論などの拘束から解き放たれ、日常を俯瞰するかのような感覚。この映画ではその感じを、ヒロインと一緒に自然に味わえるように、映像やストーリーが丁寧に作られているような。「本当は誰もが時間を超える視点をもつことができる」といった、ある種のスピリチュアルやスーパーナチュラルの思考の流れを、SFという表現で誠実にしているかのような印象も。
縦長の宇宙船については、日本ではいろいろなお菓子にたとえられ笑いを誘う向きもあるとか。シンプルなオブジェふうで個人的にはそれほど間抜けには見えないが、なんにせよ親しみをもってインパクトを受けて興味をもつきっかけになるなら何でもアリかなと。
監督曰く「この飛行体にはモデルがある」とのこと。「当初から、小石のような卵型の宇宙船にしようと考えていた。今までにも見たようなもので、それほど不吉な感じも奇妙な感じもしないからね。そして太陽系内の軌道を公転している小惑星エウノミア(別名:第15 番小惑星)を参考にして、形を決めたんだ」
「30年、SFを作るのが夢だった。好きだからこそ、それだけの作品を見つけられるように、“フレッシュなアプローチ”のある作品と出会えるようにと心がけていました」
SFへの思いと今回の映画化について、前述のトーク・イベントにてこのように語ったヴィルヌーヴ監督。また自身が監督を務める映画『ブレードランナー 2049』については、詳細はまだ話せないとしながらも、「『メッセージ』と同様に、できる限り実際にセットを作って、俳優に実物に触れてもらいながら撮影したんだ。実は編集段階まで作品は進んでいる。僕のキャリアの中で最も“野心的な作品”となっているよ」と語った。そしてさらに映画『デューン/砂の惑星』の続編の監督に、ヴィルヌーヴ監督が決定したというニュースも。SF大作の続編が続くなか、もともと彼が手がけてきた人間ドラマの製作も引き続き期待しつつ、フランス系カナダ人である49歳のヴィルヌーヴ監督の大躍進に注目したい。
劇場公開 | 2017年5月19日よりTOHOシネマズ新宿ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2016年 アメリカ映画 |
上映時間 | 1:56 |
配給 | ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
原題 | ARRIVAL |
監督 | ドゥニ・ヴィルヌーヴ |
脚本 | エリック・ハイセラー |
原作 | テッド・チャン |
撮影監督 | ブラッドフォード・ヤング |
出演 | エイミー・アダムス ジェレミー・レナー フォレスト・ウィテカー マイケル・スタールバーグ |
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