花戦さ

花僧・池坊専好、太閤秀吉に花をもって物申す!
華道、茶道、書道、和の文化を伝える時代劇にして
乱世を生き抜く人々を、実話をもとに描く人間ドラマ

  • 2017/06/06
  • イベント
  • シネマ
花戦さ© 2017「花戦さ」製作委員会

狂言師・野村萬斎、歌舞伎俳優・市川猿之助、そして中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市をはじめとする俳優陣、豪華な顔合わせによる“時代劇エンターテインメント”。いけばなの名手、池坊専好は花と町衆を愛し、しあわせに暮らしていた。が、戦国の世で権力者による残忍な粛清を目の当たりにした専好は、花をもって最高権力者・豊臣秀吉をいさめるべく大勝負に挑む。原作は、1594(文禄3)年に初代・池坊専好が前田利家邸で巨大な松をいけて豊臣秀吉から称賛されたという記録をもとにした鬼塚 忠の小説『花いくさ』、その物語を『JIN-仁-』『天皇の料理番』の脚本家・森下佳子が大幅に改訂して映画化。監督は藤沢周平の小説を映画化した『山桜』『小川の辺』ほかの篠原哲雄、音楽はスタジオジブリ作品や北野 武作品で知られる久石 譲が手がける。華道、茶道、書道の各界の協力により、和の文化を生き生きとした映像で伝える時代劇であり、乱世をたくましく生きる人々を描く人間ドラマである。

野村萬斎

16世紀、戦国時代末期。花を生けることで世の平穏を祈る僧侶「池坊」のなかでも、京都・頂法寺六角堂の花僧、池坊専好は花と町衆を愛し、ひときわ異彩を放つ花を生けると知られている。1573(天正元)年、天下を治める織田信長の所望により、豊臣秀吉、前田利家ら信長の家臣たち、そして茶人の千利休も見守るなか、専好は岐阜城にて大がかりないけばな「大砂物」を披露した。
 それから10数年。豊臣秀吉の治世となり、世の中は安定。専好は本人の意に反して六角堂の執行(住職)となり、寺を運営する立場となる。そしてひょんなことから利休と親しく交流するように。
 そしてさらに月日が流れ、天下を長く治めるうちに驕り高ぶるようになった秀吉に命じられ、利休が自害。その後すぐに秀吉の愛息・ 鶴松が病死したことから正気を失った秀吉は、武士のみならず町衆にまで残忍な粛清を敢行。専好はあまりのことに衝撃を受けながらも、愛する人々を守り世の平和を取り戻すため、1594(文禄3)年、太閤秀吉をいさめるべく花をもって訴える大勝負に打って出る。

戦国時代の史実をもとにした小説を、「あくまでも明るくライトでコミカルな作品として」脚本で幅にアレンジし映画化したという本作。なかでも墨絵の天才である少女れんは映画のオリジナルキャラクターであり、彼女の目線があることで、男たちの物語であっても女性にも親しみやすくなるよう工夫がなされている。劇中のれんの絵は、世界的な評価を得ている現代アーティスト・小松美羽が担当。ほとばしる生命力と愛らしさを感じさせる絵の数々で、楽しませてくれる。

佐藤浩市,市川猿之助

花と人々をひたすらに愛する花僧・池坊専好役は野村萬斎が好演。2017年3月27日に“いけばな発祥の地”京都・六角堂にて行われた本作の完成奉告(奉納)イベントにて、野村萬斎はいけばなについてこのようにコメントした。「いけばなはシンプルななかにも奥深さがあり、私たちの能・狂言の世界にも通じると思います」
 豊臣秀吉役は市川猿之助が力強い存在感で、織田信長役は中井貴一が、前田利家役は佐々木蔵之介が、千利休役は佐藤浩市がそれぞれに表現。本作の前半で専好が岐阜城でいけばなを披露する、彼らが全員出演するシーンの撮影後、中井貴一はこんなふうにつぶやいたそうだ。「まるで“異種格闘技戦”の様相を呈していたなあ」
 そして専好の幼なじみで下京の人たちの世話役的存在である小間物屋の主人・吉右衛門役は高橋克実が、専好の兄弟子である六角堂の花僧・池坊専伯役は山内圭哉が、六角堂の花僧で専好の弟弟子である池坊専武役は和田正人が、墨絵の天才である少女れん役は森川 葵が、秀吉の家臣・石田三成役は吉田栄作が、専好が信頼している尼僧・浄椿尼役は竹下景子が演じている。野村萬斎は充実の出演メンバーについてこのように語っている。「今回、豪華で個性豊かなキャストたちとお手合わせをする楽しさ・緊張感はひとつの大きな醍醐味でした。ドラマの中では、対決の部分と仲間意識というものとのコントラストが場面ごとにあり、それぞれとの演技の掛け合いで造形されていった部分が多くあったかと思います。奥行きのある、とにかく見どころ満載の映画になったと思います」

随所に和の文化の魅力がたっぷりと描かれている本作。タイトルの題字は国内外で活躍する書家・金澤翔子が担当し、茶道の指導はNHK大河ドラマや映画の数々に協力してきた鈴木宗卓が参加。本作で利休を演じる佐藤浩市は鈴木氏より改めて茶の道を学び、クローズアップで手の所作しか映っていないシーンでも吹き替えなしで演じているという。鈴木氏は1989年の映画『利休』にて、佐藤浩市の父である故・三國連太郎にも茶道の指導をした、というエピソードも。
 本作では華道家元池坊の全面協力を得て、200瓶あまりの立花(最も古いいけばなの様式)や、大規模ないけばな作品がスクリーンに登場。そもそも「池坊」という名は、聖徳太子が建立したと伝えられる六角堂(正式名称:紫雲山頂法寺)の本堂の北側が、聖徳太子が沐浴した池の跡といわれ、その池のほとりに小野妹子を始祖とする執行(住職)の住坊があったことから「池坊」と呼ばれるようになったとのこと。そこで住職が朝夕仏前に花を供えていたことが、いけばなの源流と言われているという。劇中では菖蒲、柘植、石楠花を生けて織田信長に専好が献上した大砂物(高さ3m、幅4.5m、10人で14日かけて完成)、松、菖蒲、蓮、石楠花、躑躅などを生けて暴君となった秀吉を諌めようと専好が披露する大砂物(高さ3.5m、幅7.2m、14人で10日かけて完成)といった大規模なものはもちろん、茶の間や座敷に生えるシンプルな立花や、専好が心のままに生けたものなど、たくさんの本格的ないけばなが楽しめるのも見どころのひとつとなっている。
 撮影は、京都太秦に古くから時代劇の撮影を行っていた東映、松竹の二大撮影所に加え、祇王寺や大覚寺、梅宮大社や随心院など京都のさまざまな地域や貴重な建造物でロケ撮影も実施。天神さんの大茶会のシーンは仁和寺で行われ、遼廓亭を利休の草庵前の露地に見立て、専好が利休を訪れるシーンの撮影も。

野村萬斎,佐藤浩市

2017年5月29日に行われた完成披露上映会では、高円宮妃久子殿下と絢子女王殿下が鑑賞し、映画について「日本の文化が丁寧に撮られているのでぜひ、世界へ発信してほしい」と語ったとのこと。それほど知られていない初代・池坊専好と千利休の友情、戦国時代の権力者の圧政に対して花僧が刃ではなく、花をもって対抗する姿を描く本作。暴力に対して暴力で立ち向かうのではなく、自然の力を生かして信念と文化をもって訴えるというのは、現実味のないきれいごとのようであっても、できることならかくありたいと個人的にも感じ入るものがあって。最後に、同完成披露上映会の舞台挨拶にて本作のテーマについて語った、野村萬斎のメッセージを紹介する。「武力に対して文化の力、芸術の力が、どれだけあるのか。武力ではなく、対話をする。そのきっかけにお花、お茶、絵などの文化芸術があるということを、まさしく確信するものです」

作品データ

花戦さ
劇場公開 2017年6月3日より丸の内TOEIほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 日本映画
上映時間 2:07
配給 東映
監督 篠原哲雄
脚本 森下佳子
原作 鬼塚 忠
音楽 久石 譲
出演 野村萬斎
市川猿之助
中井貴一
佐々木蔵之介
佐藤浩市
高橋克実
山内圭哉
和田正人
森川葵
吉田栄作
竹下景子
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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